招待
「そうだ! みんなで遊園地に行かない?」
夏休みを明日に控えた放課後、市ヶ谷北斗が良いことを思いついたと言わんばかりに声を上げた。
市ヶ谷はクラスどころか学校でも名が知れているような人気者である。だからこそ、この提案にクラス内の大多数が笑顔を浮かべる。
「いいねー。でも近くに遊園地なんてあったっけ?」
「うーん、近くにはないね」
「だよな」
クラスメイトが市ヶ谷の提案を実現するために具体的なことを話し合う。しかし、市ヶ谷はあっけらかんと答えた。
「あっ、場所は決まってるんだ。実は知り合いから、この近くに遊園地を開くから友達を連れて来てくれないかって頼まれて」
種明かしをするように提案した理由を告げた。教室で『なんだ、そうだったのか』という声が各所から聞こえてくる。
仲が良い人たちで話し出したのを見た市ヶ谷は、クラスでも目立たないグループのところに近づいていく。
「君たちも来るよね? 折角だからみんなで行かない?」
自分たちには関係がない話だと思っていた彼らは、市ヶ谷から話しかけられ目を点にして、お互いに見合ったあとに恐る恐る答えた。
「僕らは構わないけど、本当にいいのかな?」
「当り前じゃないか。みんなで楽しもうよ!」
市ヶ谷は笑顔で言った。
……これまでの経緯を気が付かれないように様子見をしていた少年がいた。
面倒なことになりそうなのを察知した少年は、持っていたスマホをポケットに入れて、鞄を持ち上げつつ席を立とうとした。
「勿論、来栖君も来てくれるよね?」
いつの間にか目の前に市ヶ谷がいた。
「え……あ……」
行けない、と言えなかった。それを言えるコミュニケーション能力を持ち合わせていなかったのだ。常に一人で行動していた弊害からか、言葉と言えるような声すら上げられずに、遊園地に行くことが決まった。
これが、少年――来栖次朗の恐怖の始まりであった。




