番外編短編・その後の二人の話
「はっ!」
ある日、カフェの閉店準備をしている時、思い出した。ジェマおばさんは町内会長と遊びに行ってしまい、ワンオペで閉店準備をしていたせいだからだろうか?
「この異世界の乙女ゲームのこと思い出したわ! そうよ、確か裏キャラにルイスがいたんじゃないの……」
詳細は思い出せないが、あの乙女ゲームでわたし、ルイス推しだった。攻略対象のジェフリーとかが刺さらず、飽きてきたところで裏設定を知り、せっせとルイスを推していたんじゃないの。
「は、恥ずかしい……。つまり今のわたしは推しと付き合っているというわけ?」
そう言葉にするとさらに恥ずかしい。頬がカイロみたいに熱い。
「それに明日もルイスとデートなんだけど、一体どういう顔で会ったらいいの」
とじはいえ、時間は流れる。翌朝、ルイスが気に入っているナポリタンドックを弁当箱につめて待ち合わせ場所に向かった。
「おはよう、アリサ」
今日のルイス、いつもの騎士の制服姿じゃない。ラフなシャツに綿パンだ。私服だ。いかにも素顔って感じで、ドキドキしてきた。乙女ゲームのルイスでもこの姿は一度も見たことなかったし。心なしか笑顔が爽やか。眩しい。困った。
「お、おはよう。ルイス。今日はどこ行く? お弁当も作ってきたから」
「それは嬉しいね。だったら町の公園へ行こう」
無邪気に笑ってる。もうこの笑顔だって眩しくて困る。おかげでデートといっても会話は盛り上がらず、なんか微妙な空気のまま目的地の公園についた。
思えば自分こんな中学生みたいなデート、したことがある。確か、大学生の時に初めて付き合った彼氏だ。名前は戸川優。見た目は地味だったけど、根は真面目で優しくはあったなぁ。まあ、一度浮気されたのですぐに別れたけど。
「うん? アリサ、何を考えてるんだ?」
「い、いえ」
急いで首を振った。なぜルイスとデート中に元カレの琴なんて考えていたんだ。忘れよ、忘れよう。
「ところで今日はナポリタンドックを作ってきたわ」
そう言うと、公園に風が吹きぬける。木々もさわさわと揺れ、木漏れ日も眩しい。
「本当か。あのナポリタドックか」
「ええ。絶対美味しいから。期待していてね」
緊張も抜けてきたみたい。もう普通にルイスと会話ができると思った時だった。
公園の茂みからガサガサと音がする? しかも笑い声も響いてる?
「まさか! ジェマおばさん! マリーもアグネスも!町内会長も用務員さんも歯医者さんもいる!」
どうやらジェマおばさんたち、わたしたちのデートを盗み見し、噂のネタにするつもりだったらしい。
「いいじゃない! ルイスが浮気しないか監視していただけよ!」
わたし達にバレても開き直ってるジェマおばさん。さすがだ。この開き直り、潔いほど。そして相変わらず騒々しく耳がキンとした。
結局、デートは台無しだ。なぜか町内の面々で公園で遊んでるわたしとルイス。
「どうしてこうなった……」
ルイスはぼやいていた。こんな状態には少しも納得いっていないという顔。
まあ、でも町内の面々に見られていたら悪いこともできない。もっとも真面目なルイスは浮気とかにも無縁だろうけれど。
「今日ぐらいはいいじゃないの? ルイス、ナポリタンドック、食べる?」
お弁当を開くと、ようやくルイスの機嫌も直っていた。




