第2話 チョコミントパフェととんでもないヒロイン
異世界といっても、なんでも簡単にはいかないらしい。
「え、アリサの国ではそんなお菓子があるの?」
ジェマおばさん、引いていた。
異世界に転移し、ジェマおばさんのカフェに拾われ、なんか変な事件に巻き込まれたものの、今は平和な私たち。あの事件のおかげで野次馬目的にくるお客さんも減ってしまい、これはテコ入れが必要だと新しいメニューを考えていた。
閉店後のカフェはしんと静か。窓から夕陽が差し込み、隣の学園の校庭も見える。
「そんな豆から作られる餡子ってものとか想像つかないわ。みたらし団子もその醤油っていう調味料使うの? 味が想像つかないし。どうなの、これは」
ジェマおばさんの意見はもっともだ。わたしの説明不足だ。異世界のジェマおばさんに日本のお菓子を気に入って貰うのかなり難しい。もっと簡単に日本食すごい、日本のお菓子すごいって言われたかったんだけどなぁ。
「そもそも醤油っていう調味料はこの国にないわ」
「そうよね、ジェマおばさん」
だとしたら、この異世界でも入手できて、元いた世界で人気だった菓子は何かないだろうか。ふと、窓の外の校庭を眺める。端の方にハーブ園も見えた。学園の用務員さんは丁寧に育てているハーブで、時々ミントやラベンダーもお裾分けにくれる。
「そうか、ハーブ……。ミント……。あ、チョコミントっていうお菓子は?」
「え、アリサ。なんなの、そのお菓子は」
チョコミントを説明すると、ジェマおばさん、食いつきがかなり良い。しかもさっそく試食も作ろうと言う。
「いいじゃない、アリサ。これでうちのカフェも人気になるわ」
「でも、ちょっと待って。チョコミント、わたしも好きだけど、けっこう好き嫌いが分かれ……」
「もうなんでもいいじゃん。さっそく試食作るわよ!」
自由人のおばさん、わたしの懸念を一切無視した。さっそくチョコミントのアイスの試作も始めてしまい、止められそうにない。
「ま、いいか」
日本ではZ世代だけど、昭和ど根性女と言われていたわたし。とりあえずやってみろの精神でもいいじゃないか。
「ジェマおばさん、わたしも試作手伝うわ!」
ということでチョコミントスイーツの試作を繰り返し、数日後、新しいメニューが完成した。その名前もチョコミントパフェだ。パイやクッキー生地、マシュマロなどで層を作り、最後にホイップクリームとチョコミントアイスを盛りつける。ホイップクリームは多め。チョコミントの味になれていない異世界人への配慮だった。
そして初日。クーポン付きのチョコミントフェアも開催したけれど。
「ジェマおばさん、アリサちゃん。このアイスクリーム、クセが強いわ。確かにミントとチョコの色合いはいいんだけど」
さっそく注文してくれた町内会長、反応が鈍い。この商店街で書店や手芸店も経営し、やり手の町内会長だったが、どうも抵抗があるらしい。
「うーん。俺はホイップクリーム多めの普通のパフェもがいいね」
商店街の歯医者さんにも言われた。カフェの常連さんでいつも笑顔なのに。
「うちで売ってる歯磨き粉の味とそっくりでね」
そんな評判も受け、反論できず。
初日はともかく、その次の日もその次の日もチョコミントパフェは大苦戦だった。
自由人のジェマおばさんは全く気にせず、チョコミントのクッキーやパンケーキも開発しようと言うぐらいだったが、閉店間近、ルイスがやってきた。
ルイスはあの事件で唯一、わたしの味方になってくれら騎士だ。カフェの看板メニューのシフォンケーキも気に入り、すっかり常連客だったが、こんな夕方に来るのは珍しい。
「ルイス、何かあったの?」
ちょっと嫌な予感がして聞いてみると、最近、強盗団が豪邸や宝石店に押し入っているという。
「大元はマフィアなんだが、詐欺求人に釣られてやってきた若い男らが実行犯だ」
つまり闇バイトみたいなものか。わたしも貧乏一家出身だった。闇バイトは案外身近だった。弟や妹が騙されそうになった時は、「楽して稼げる方法などない!」と半日以上説教したこともある。
「今日はそれを言いにきただけだ。ジェマおばさんもアリサも気をつけてくれ」
「まあ、ルイス。わたしらを心配してくれるんていい男ね!」
「ジェマおばさん、揶揄わないでくれよ。これからその窃盗団の調査があるんだ」
ルイスは仕事で忙しいみたい。あっとい間にカフェから去っていってしまった。残念。チュコミントパフェの味見でもしてもらおうと思ったのに。
「ま、ジェマおばさん。そんな強盗なんてうちのカフェには関係ないでしょ」
「ええ、関係ないわ。そもそもうち、そんなに儲かってもいないしね」
「帳簿つけてるわたしの胃も痛い!」
「頑張ってチョコミントパフェも売るしかないわね!」
ジェマおばさんと笑い合い、強盗のことなんてすっかり忘れた。
翌日も忙しく働き続け、夕方にはヘトヘトいなりながら、閉店準備をしていた。
「あら、このチョコミントパフェってやつ。すごい美味しいんだけど!」
閉店間際にやってきた客、隣の学園の生徒だったが、チョコミントパフェを絶賛。
「美味しいわ。これ。大好き!」
ようやくチョコミントパフェのファンが出てきてジェマおばさん共々ホッとする。もう他の客も全員帰ってしまったし、この生徒の名前を聞く。せっかくだし普通に仲良くなりたいと思ってしまった。
「わたし? わたしはアグネス・アデールよ」
その名前を聞いた時、驚きで持っていたティーポットを落としそうになった。
すっかり忘れていたけれど、この異世界は乙女ゲーム風の世界。攻略キャラたちはあの事件で全員牢屋の中にいたが、ヒロインもいることも思いだす。そう、このアグネスがヒロイン!
となると、攻略キャラが犯罪者となった今、ヒロイン・アグネスの立場ってどうなっているんだ?
今更、彼らと恋愛などできないし、もはやシナリオが変わっているというか、わたしも何かこの世界に悪い影響でも与えてる!?
どうしよう?
しかしそんな戸惑い、無駄になった。
「お前ら! 手を挙げろ! おいらは強盗だ!」
カフェの中の強盗はがやって来たからね。しかも覆面強盗。三人もいるじゃない。全員若い男っぽい。声が幼いし、もしかしたら十代後半ぐらいかも。
わたしもジェマおばさんもアグネスもあっという間に捕まり、ロープでぐるぐる巻き。
「ババア! カフェの金を出せ!」
「あら、あんたらは強盗なん? 面白いわね。強盗生活ってどんな感じなの? 洞窟に潜伏したりする?」
ジェマおばさんは全く動揺していない。むしろ、近所の子供に話しかけるような口調で笑っていた。
「ちょっと、強盗。わたし、まだチョコミントパフェ食べかけ。そこにあるパフェ持ってきて」
アグネスも全くのマイペース。強盗に押し入れられても、チョコミントパフェの心配をしているぐらいだ。
確かにこのアグネス、見た目は金髪が似合う美女だ。スタイルだって良いのに、ジェマおばさんと共々落ち着き払っている様子は、とんでもないヒロインだった。
「強盗、そんな犯罪なんてして良いと思ってるの? よくもわたしのチョコミントパフェを楽しむ時間、邪魔してくれたわね!」
「アグネスの言う通りよ! さあ、強盗! わたしにも楽しい強盗生活の一部始終を語って聞かせなさいよ!」
「何言ってるんだ、このババアと女子高生は!」
強盗たち、自由人のジェマおばさんととんでもないヒロインのアグネスにすっかりペースを乱されているじゃないの。
それによく見たら強盗たち、背は低いし、筋肉も全然ついていない。全く鍛えてなさそうだし、いくら三人で押し入れられても、そんなに怖くない?
それに闇バイトで強盗をするような連中、わたしは実家でよく知っていた。怖くない。全然怖くないと言いきかせ、ど根性昭和女のスイッチを入れた。
「いいか、お前ら。この世の中に楽して稼げる仕事なんてないんだよ」
熱血説教スタートだ!
弟や妹にして来たように熱く説教をし、時には涙もこぼし、労働の大切さを語る。
「お前たちの実家のお父ちゃんとお母ちゃん、今頃泣いてるぞ!」
「おいらの両親、毒親だっての!」
やばい。説教に熱をいれていたら、犯人の地雷を踏んでしまった。
「親ガチャ大外れのおいらたちの気持ちがわかるかー!」
しかも犯人の一人、襲い掛かろうとしてきた。これはやばい。昭和ど根性女でも大ピンチと思った時。
「うっさい! そんなことより、チョコミントパフェ返せ!!!」
アグネスが自力でロープを解き、強盗犯たちをボコボコに殴っていた。元々弱そうな強盗たち、潰れたペットボトルみたいにペシャンコ。
同時にサイレンの音も響く。騎士団たちがやってきて、強盗犯たち、あっという間に逮捕された。
この件でアグネスは騎士団の表彰され、名誉市民の称号も得た。インタビューで我がカフェのチョコミントパフェの良さも語ってくれた為、話題になってしまうぐらい。毎日、ジェマおばさんと共にせっせとチョコミントパフェを作り、閉店間近には疲れで屍状態だったけど、アグネスには感謝しかない。
「ジェマおばさんもアリサも、もう少し落ち着いてください」
閉店間際、カフェにやってきたルイスはため息をついていた。その顔、本当に呆れた様子で、イケメンも台無しだった。
「でもルイス、案外このチョコミントパフェもおいしいでしょ? 食べれば食べるほどハマるでしょ?」
ジェマおばさんは真面目なルイスを揶揄う。
「そうですよ、ルイス。たまには甘くてすーっとしたもの食べて肩の力を抜こう!」
わたしもジェマおばさんと笑っていると、ルイスは深くため息をこぼす。とはいえ、器は空っぽになっていたし、チョコミントパフェは嫌いじゃないらしい。




