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異世界カフェの裏メニュー  作者: 地野千塩


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15/15

第15話 ジャムサンドクッキーは罪人をも呼ぶ

 異世界のスイーツブームはよくわからない。最近、チョコレートケーキブームがあった。すぐに収束し、カフェでもチョコレートケーキを提供しているが、売り上げが伸びていた。


「ジェマおばさん、おかしいわ。チョコレートケーキブームはすっかり終わってるのに、売り上げが伸びてる」


 閉店後、レジの清算や売り上げの記録を見ながらジェマおばさんと話していたが、謎だ。


「なんで? ブームはとっくに終わってるのに?」

「わたしもわからないわぁ。逆にうちのチョコレートケーキが案外おいしいって気づいた可能性あるんじゃないの?」


 ジェマおばさんの推理、当たっているかも。ブーム中に乱立したチョコレートケーキ屋は、材料をケチったり、職人の技術も低かったらしい。


「やっぱりスイーツへのスキルと愛情でわたし達が勝ったのよ。さあ、次も新しいメニューを作りましょうよ」

「ジェマおばさん、やる気いっぱいねぇ。でも、新しいメニューなんてあるかしら?」


 わたしはため息が出てきた。元いた世界にがあり異世界にはないスイーツ、特にチョコミントパフェ、コーヒーゼリー、フルーツサンドは好評だった。すっかり定番メニューになっていたが、新しいものは思いつかない。


 いや、一度だけ挑戦したものはあった。それはジャムサンドクッキー。試作は上手くいったのだが、ジャムがベタつくと不評。その上、どうぶつクッキーの人気が上がってしまい、ジャムサンドクッキーは失敗作となってしまっていた。


「わたしはジャムサンドクッキーは好きだったわよ。そうねぇ、何かこのメニューも活かせないかしら?」


 ジェマおばさんはジャムサンドクッキーの可能性を考えているがどうだろう。どうぶつクッキーの売り上げを見る限り、わたしはその可能性信じられない。


「とりあえずもう一回、試作作ってみる? ちょうどクラッカー生地のクッキーもあるし」

「そうね。とりあえず試作作ってみましょう」


 ジェマおばさんが試作を提案し、もう一度作ってみた。ジャムはいちご、ベリー、いちじくなど種類も増やす。


「うん、やっぱりジャムサンドクッキーおいしいじゃない。このまま失敗作にしておくのはもったいないわ」


 ジェマおばさん、試作のジャムサンドクッキーを齧ると満足そうに頷く。


「そうか。どうぶつクッキーみたいに袋に詰めて売るとジャムのベタつきが気になるけど、こうして出来立てをカフェで提供する形だったら合うかも? それに紅茶との相性もいいわ」

「グッドアイデアじゃない、アリサ!」

「ダイエット中の人とか甘いものが苦手なお客さんも、プチスイーツとして注文しやすいんじゃ?」

「素晴らしいわ、アリサ! さっそくジャムサンドクッキーをメニューに入れましょう!」


 こうしてジャムサンドクッキーの決着がついた時だった。客が来た。もう閉店しているはずだが、誰だろう。


 しかも客は泣いていた。本当に困った様子。


「ジェマおばさん、助けてー!」


 ジェマおばさんとも知り合いらしい。名前はチェリーという。年齢は四十歳ぐらいだろうか。町内会長の親戚らしい。隣町で食堂を経営中だが、問題が発生し、ジェマおばさんに相談しに来たというが。


「チェリー、泣かないで。このジャムサンドクッキーや紅茶でも飲んで落ち着いて」


 とにかくわたしはチェリーを落ち着かせた。ジェマおばさんも同様だ。


「そうよ。とりあえず椅子に座って落ち着きなさいよ」


 ジェマおばさんの言葉にチェリーも冷静になってきたようだ。それにジャムサンドクッキーと紅茶の効果もあったのか落ち着き、事情を話してくれた。


「実は、わたしの店、食い逃げ犯のターゲットにされて困っているんです」


 チェリーは紅茶を啜ると苦いため息をついた。


「経営の危機って感じです。本当に参ったわ」

「ちょっとチェリー。そんな食い逃げ犯でそんなことあるの?」


 わたしはそれが疑問だ。元いた世界でも食い逃げ犯がいたが、大抵は現行犯で捕まるイメージがある。


「犯人は魔術師です。霧の魔法がうまい奴らしく、飲食中に魔法を使って、店内に霧を撒いて逃げるんですよ」


 すっかり忘れていたが、この異世界には魔法があった。


「騎士団には言った?」


 ジェマおばさんも同業者が被害を受けた事件、他人事ではなさそう。今日は珍しく笑顔も消え、チェリーに質問をしていた。


「言ったわ。でも魔法関連の事件は騎士団もどうしようもないって言うのよね。そもそも魔法使いは上級国民も多いし。はっきりとした証拠があったり現行犯じゃないと捕まえられないって言うのよ」


 だんだんとチェリーの表情が暗くなってきた。ジェマおばさんもそうだ。これは他人事ではない。


「もともとうちの食堂は儲かっていなかったからね。親戚連中からもさっさと畳めって言われていたし、わたしのお店は失敗だったのかなぁ」


 チェリーは限りなく後ろ向きになっているようだ。


「そんなことないわよ。悪いのは食い逃げ犯じゃない。そもそもそも本当に不味い店だったら食い逃げ犯のターゲットにならないんでは?」


 ついつい励ましてしまった。ジャムサンドクッキーの甘さに口が滑ったのかもしれない。


「そうよ。アリサの言う通り! 犯人を捕まえるために作戦会議をしましょう!」


 ジェマおばさんもジャムサンドクッキーを食べて前向きにになってきたらしい。ちょうど店の周りをパトロール中だったルイスも捕まえ、四人で作戦会議だ。


「その食い逃げ犯の噂は聞いたことがある。飯がうまい店だけでなく、安くて良心的な店もターゲットにしているらしい。確か霧の魔術師っていう名前もあって騎士団でも一応マークはしていたが」

「もうルイス、そんな情報あるならさっさと提供しなさいよ!」


 ジェマおばさんはルイスにツッコミを入れ、彼はタジタジだ。


「そんな有名な魔術師だったのね。わたし一人では捕まえられかったんだわ……。そうだ、でもそんな霧の魔術師だったらこのカフェだってターゲットの視野に入れているんじゃない?」


 チェリーはジャムサンドクッキーを食べながら何か思いついたようだった。


「そうよ。こんな美味しいジャムサンドクッキーを出しているのよ? 霧の魔術師も来るんじゃない?」


 今まで暗かったチェリーの目が光る。まさかカフェに霧の魔術師を誘き寄せようと考えてる?


 それはジェマおばさんも察したらしい。「そうよ! このジャムサンドクッキーで霧の魔術師を誘き寄せるのよ!」とはしゃぎ始めた。


 チェリーとジェマおばさんはすっかりこれで意気投合していたが、ルイスは頭を抱えていた。


「おいおい、犯罪者を誘き寄せるとか危険だ。辞めてくれ」


 実に頭が痛そうなルイスだったが、だからといってこのまま黙っているわけにも行かない!


「もういっそジャムサンドクッキーを一日中無料で配ったら? だったら霧の魔術師も話題になって来ると思う!」


 わたしはそんなアイデアを出す。確か、小売にはロスリーダーという考え方があった。あえて赤字商品で集客し、高単価の商品をついで買いしてもらう戦略だ。スーパーの特売卵、牛乳、コンビニのおでんなどが一例だ。特にスーパーの特売卵は店の奥に配置され、買いに行く途中で惣菜や菓子などを買わせる戦略。これも霧の魔術師を捕まえるために応用できない?


「グッドアイデアよ、アリサ! ジャムサンドクッキーを無料で配りましょう!」


 これにはジェマおばさんも大騒ぎで賛成。もちろんチェリーも。ルイスも女三人に押されてタジタジだ。


 結局、ジャムサンドで霧の魔術師を誘き寄せることになった。翌日から閉店後に大量のジャムサンドクッキーを作り、チラシも作り、ついに当日になった。私服のルイスも客として紛れこませ、いつ霧の魔術師が現れても準備オッケーだ。


 案の定、カフェは行列ができるほど混み合った。みんな無料というものには弱いらしい。あっいう間にカフェの席は全部埋まり、わたしとジェマおばさんも忙しく働く。


 一見、無料でジャムサンドクッキーを配るなんて損をしていいるみたいだが、噂を噂が呼び、昼過ぎでも客が途絶えない。その上、高単価のフルーツパフェやチョコミントパフェもよく売れ、テイクアウトの紅茶やコーヒーもバンバン売れていく。


「ジェマおばさん、無料の威力が凄すぎるわ!」

「アリサ、そんなこと言っている暇はないわ。まだまだ注文がいっぱいあるわ!」


 すでに厨房は戦場と化し、手伝いに来てくれたチェリーもヘトヘトになっていたが、突然、大きな物音が響いた。


「え? 何これ?」


 気づいた時は厨房だけでなく、カフェの中も霧にあふれ、何も見えない!


「ジェマおばさん、アリサ! きっと霧の魔術師よ!」


 チェリーの声が響いた時、ジェマおばさんとわたしはカフェの裏ギ口から入り口の方へ。外に出ると霧はなく視界はクリアだったが、なんと入り口から逃げようとしている男を発見!


「やべ!」


 そんなことも言って逃げてる! 片手にはジャムサンドクッキーも!


 あの男が霧の魔術師だ! 間違いない!


「ジェマおばさん、追うわよ!」

「ええ!」


 わたしとジェマおばさんは猛ダッシュで霧の魔術師を追う。ルイスやチェリーも遅れてついてきた。他の常連客のアグネス、マリー、町内会長、歯医者さん、学園の用務員ああんもついてくる!


「わあ、なんだよ! こいつら!」


 霧の魔術師は大人数の追いかけられ、驚きで躓いていた。間抜けな姿だ。ルイスにも捕まり町中大騒ぎだ。気づくと町中の野次馬にも取り囲まれ、霧の魔術師が逃げる場所はなかったらしい。


「みんなありがとう! お礼にわたしも店もピザを一枚無料で提供するから来てね!」


 チェリーの言葉に野次馬たちの歓声も響き、大騒ぎのうちの事件が解決した。


 あの後、チェリーの食堂も無料ピザの効果で客足が増え、安定して経営しているらしい。霧の魔術師の余罪も騎士団に調べられ、ルイスは忙しくおつかれの様子だったが、休憩時間にカフェに来てくれた。


「うん、このジャムサンドクッキーはすごい。厄介な犯罪者を誘き寄せてくれた」


 そんなことも言いながらジャムサンドクッキーを食べているルイス。食べている時の目はとっても元気そうだ。

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