三百年前の奇跡
御久方ぶりで御座います。
新作を携えてまいりました。
よろしければおつきあいください。
女神は十二人の勇者を呼び出し、魔皇を打ち倒した。
勇者たちは女神から力を込められた神器を授かり、それを携えて討伐の旅へと赴いた。
十数年にわたる過酷な旅路の末、六人の犠牲をもって魔皇は虚空の牢獄へと封じられた。
奇跡を齎す神器は四つが失われ、八つは女神が降臨された国――後の帝国へと還元された。その後、神器を得た勇者の一部が帝国を離れ、公国、共和国の基を築き上げる。
かくして世界に平和が訪れた。
この伝説は誰もが知る史実であり、演劇や書物、弾き語りとして今なお語り継がれている。
帝国では毎年恒例の祭事として、魔皇との戦いが劇の一幕に組み込まれる。他にも人気のある演目として、刻裂竜との戦いや黒霧の軍との死闘がある。どちらも勇者が命を落とす悲劇の物語であった。
恋愛譚も定番である。王女が勇者に恋い焦がれる身分違いの物語や、助けられた孤児の少女がやがて騎士となるまでの物語などが繰り返し演じられてきた。
さらにはそれぞれの神器に纏わる話もあった。
剣。槍。斧。杖。弓。槌。鎧。琴。書。盃。鏡。冠。
それぞれには異なる女神の力が宿っており、勇者たちはそれらの力を余すことなく使い果たしたという。
全てが三百年も前の話だというのに、勇者譚はいまだに真実として歴史に記され、伝説として風化することはない。当然、理由がある。
まず、神器は今もなお帝国に五本、公国に一本、共和国に二本が残されている。錆びることも劣化することもなく、勇者の血筋が振るえば女神の奇跡を齎す。残る四本は失われ、その所在すら不明であった。
更に決定的なことに、帝国には女神が実在している。
伝説より三百年が経過した今も尚、人々の営みを見守り、共に過ごしている。
当然、帝国における女神の権威は絶対である。帝国には王位に関する儀式があり、彼女より神器である冠を与えられた者が即位することになっていた。尚、即位については血筋で選ばれることはまずない。女神が直接王を選ぶこの儀式は数年ごとに行われ、一切の私情が挟まれることはなく、公平であった。没落しかけた貴族の子が選ばれ、家を再興するどころか国をさらに富ませた例すらある。
だからといって世界が平和なわけではない。
魔皇に連なる亜人たちはその殆どが滅ぼされたものの、病は根絶されず、争いは絶えず続いている。
帝国、共和国、公国の三国は同盟を結んでいるが、それだけが世界に存在する国家という訳ではない。西では亜人たちが自らの権利を主張し国家を建て、東は未だに対処の方法さえ解らない銅の腐敗が蔓延っている。大地を穿つ蟲は進行を止めず、時として言葉を解さぬ亜竜が空を飛び、人里の建物にじゃれつく被害も数知れない。
魔皇の脅威もすべてが取り除かれたわけではない、と唱える者たちは未だに武力を集めている。当然正規軍というわけではないが、実際に魔皇は滅ぼされたわけではなく、虚空の牢獄に封じ込められているだけであり、この説に共鳴する者は少なくなかった。もっとも、帝国は公式に脅威は存在しないと声明を出し続けている。
魔皇と呼ばれた災厄が虚空の牢獄に閉じ込めてから三百年。
世界は少なくとも表面上の平和を保っている。
最も、誰にとっての平和であるのかは、恐らく限られた者にしか解っていない。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
そのうち収益化とかしたほうがいいのか




