第七十一話:異世界でも変わらない構図はあるようです。
勇気ってものを簡単に出せるなら、そんな簡単な話はないんですよね。
今のままでも困ってないし、って思って何もしないでいれば楽ですし。
その時間があればなんだってできるじゃん、って、他人は言いますけれど。
何もしないでいる時間がないと、勇気っていう名の自棄も出ないんですよ。
何の話や。
以前、遊びに出かけた時には城の正面、南側を見に行きました。この国は城の正面から扇状に貴族街が広がっていて、その外側が平民の生活領域として広がっています。南側は人々の一般的な生活領域で、貴族街に近い部分には商店が立ち並び、外側にはオフィス街になっています。西側にかけては住宅街が広がっているそうです。その隅っこに第七地区と呼ばれるスラムが存在しています。東側は工房街と呼ばれて、所謂、町工場が立ち並んでいる区画。
円形ではなく、扇状に発展したのは地理的な問題でしょう。北側には山脈があり、土地を広げるには限界があったようです。だからといって国の北側になにもないわけでもなく。国の事業の為の施設はそちらに集まっているらしいです。城の周辺と北側がすべて貴族や王族の為の土地、といった印象ですね。貴族と平民の切り分けというか、差というか、はっきりとした線引きがこういう形でも出てるもんなんだなぁ、と思います。
魔獣研究所はそんな北側に揃った施設の一つで、それなり以上に大きな建物でした。犬、猫、烏、馬の4種類が現在、人の生活のために使われているのだとか。それを研究して、育てて、様々な場所に売ったりしている場所。ペットショップが研究も兼ねた場所であると思えば、こんなものでしょう。
「こちらになります。どうぞ」
休日だから、人は最低限のようです。誰もいないエントランスを抜けて、建物の奥へと向かいます。各部門ごとにユニットがあるみたいです。まぁ、種類が違えば育成方も、与えるべき環境も違いますからね。
今から向かうのは、ヤタクロウの為のユニット。二重扉を抜けて中に入ります。広い空間にはほとんど何も置かれておらず、頭上に張られたロープに相当数のヤタクロウが止まっています。1本につき、10体から並んでるので、100以上はいますね……。国立として機能してる施設だから、規模が違うんでしょう。流石に驚いたのか、カイもノアも私の手を掴んで身を寄せてきます。
「あれ、全部ヤタクロウかよ……」
「すごいねぇ。あの数をここで育てて、あちこちに渡してるんだね」
「……おねえちゃん、こわくないの?」
「流石にあの数は初めて見たけれど、珍しい光景ではないかな」
烏なんて、それこそ日本じゃ有り触れた存在ですからね。烏、雀、鳩。他にも、野鳥はその辺にいるものでしたし。いない場所を探す方が難しいのは確実です。
とりあえず、あの中からミヅキの相棒にできそうな子を探すわけですね。ミヅキが自分で探すのが一番いいでしょうけれど、審美眼は確かな方がいいですね。しゃがみこんで、ノアと視線を合わせます。
「どの子がミヅキにいいか、ノアはわかる?」
「ここからじゃわかんない」
「まぁ、それは降りてきてもらえると思うから、ここから選んでとは言わないよ。ミヅキと一緒に、選べる?」
「ノアがえらぶの?」
「ミヅキと一緒にね。もちろん、最後はおねえちゃんがちゃんと見るよ。おねえちゃんが見る前に、ノアにきれいな子を選んでほしいの。できそう?」
聞いてみれば、ノアは自信なさげにミヅキを見下しました。ミヅキはノアを見上げて声を上げます。それにノアは少しだけ考えたように黙って、それからこっちを見ました。
「やってみる」
「じゃあ、お願い。良さそうだなって思ったら、何匹でも選んでいいからね。」
「うん!」
しっかりと頷いてくれます。喋っている間に向こうも準備ができたみたいです。ベルントソンさんが近づいてきます。
「お待たせしました、いつでも呼び出せます、渡してあるロープごとに、個体の魔力の強さが異なります。左から右にかけて、順に強くなっていると思ってください」
「ありがとうございます」
連れてきてくれた個体たちは一番左のロープに向かっていったので、この中では一番弱い個体だったんでしょう。テリーが見て、魔力は大きく違わないっていうなら、ミヅキは本当に個体としては弱いってことなんですね。それが今だけなのか、ずっとそうなのかは、今後に期待するしかないでしょう。
「左から3番目の子たちを見せていただけますか」
返事をして、ベルントソンさんは手を上げます。ハンドサインに合わせて、左から3番目のヤタクロウたちが降りてきます。中央付近に設置された止まり木に止まりました。流石、賢い。
ノアがミヅキと一緒に近づいて行きました。私もその後ろから様子を見守ります。
「このこはきれい」
ノアが真ん中にいるヤタクロウを指しました。でもミヅキは気に入らなかったみたいです。他に良さそうな子はいないみたいなので、右隣にいたヤタクロウたちを見せてもらいます。
「みゃあ」
良さそうと思ったんでしょう、ミヅキが左から二番目の個体に近づきました。
「きれいじゃないよ」
「……み~」
ノアが言えば、ミヅキもよくないと思い直したみたいです。離れたミヅキにヤタクロウは鋭い声を上げます。……うーん、明らかにバカにしましたね。選ばれなかったとわかった途端にその態度はダメでしょう。
何体か見ていきますけれど、二人の意見は一致しません。この中から選ぶのも無理ですね。また一つ隣のロープに止まっている子たちを見せてもらいます。ノアとミヅキはその中から選んで、判定して、いいか悪いか選定していきます。しばらく同じことを繰り返して、右から2番目のローブに泊まるヤタクロウたちまできました。
「みゃあ」
ノアが指す前に、ミヅキが声を上げました。左から4番目のヤタクロウです。この中で比べると小柄ですが、今まで見た中からしたら平均的なサイズですね。
「ノアはどう?」
「いちばんきれい!」
これでもかって太鼓判を押してくれました。ヤタクロウに視線を向ければ、ミヅキをジッと見てます。観察してるようです。バカにするような態度を取る様子もなければ、攻撃的な雰囲気もないですね。仕事の相棒として本当に相応しいか、見極めているような感じです。
「あまり、魔力に差がありすぎると危険ですよ」
「具体的にどう危険なんですか?」
「ヤタクロウは攻撃魔法を使うので、このシーキャットの防御魔法を貫通してしまいます。それに、シーキャットとヤタクロウは魔力を通じて意思疎通を図るのですが、その強さに差があると、弱い方が負けてしまいます。最悪、それだけで死ぬこともあり得るかと」
「なるほど」
斥候だけじゃなく、伝言を運ぶシーキャットを守る役目もあるってことですね。だから、選ぶ権利がシーキャット側にある。確実に自分を守ってくれて、主人から、あるいは主人へ伝言を確実に届けられるように補助してもらわなきゃならないから。
近づいて、ミヅキの隣に膝をついてみます。他のヤタクロウたちが、自分たちの出番は終わったとばかりに飛んでいきました。残ったヤタクロウはやっと私を見ます。
「あなた、この子のための目に、盾に、矛に、魔法になってくれる?」
言葉が通じるかはわかりませんけれど。主人である私の立ち合いが必要なら、最終的に私が判断する必要があるんでしょう。このヤタクロウに、主人と認めてもらわなきゃならない。
「私の水月を、その生涯で護り抜くと誓い、違えないのなら、私と一緒に来なさい。できないというなら、戻りなさい」
真っ直ぐ、目を見つめて言います。ヤタクロウもまた、じっと見つめてきます。そのまま数秒。ぴょんと止まり木から降りて、ヤタクロウは私たちの前までやってきました。
「カァ」
どうやら誓ってくれるようです。なら、決まりですね。
「この子を引き取ります」
「……忠告はさせていだたきました」
「ええ、ちゃんと聞きました。その上でこの子たちの意志を確認して決めましたから」
「さようですか。では、応接室の方に案内します」
知ったことではないと思い直したようです。ベルントソンさんは鳥かごにヤタクロウを入れて連れて行きます。私たちもその後に続いてユニットを後にします。
出ようとした瞬間に、嘲笑うようにヤタクロウたちが声を上げました。驚いたようにカイとノアが張り付いてきます。そのままにはしておけないのか、ベルントソンさんが慌てて指示を出します。でも静かになる様子はないですね。まぁ、烏って元々が賢いですし、揶揄ったり遊んだりして面白がりますからね。
「後ろ指さす誰かが嗤う 『いばらの道だ』
裸足で駆けると誰が言った? 乗り越える術などとうにある
悪びれもしない バカであるだけ面白いのだ!」
反骨精神というか、逆張りしたいヤツは必ずいるというか。自由な表現で、自由に投稿できる場所があると、自分好みの曲って埋もれてたりするんですよね。真っ直ぐに目指す先を歌う曲も好きですけれど、こういう捻くれたのも好きなんですよね。
魔力を操って、空気砲の要領で一瞬の爆風を起こします。それに驚いたように一斉に静まりました。何をされたのか、わかっていないようです。
「嗤ったこと、後悔しないでね」
「みゃあ」
小動物相手に大人げないことしても仕方ないですが。ミヅキがどこか誇らしげに声を上げました。撫でてあげて、抱え上げます。
「行きましょう」
「は、はい……!」
目を丸くしていたベルントソンさんは慌てて案内してくれます。テリーが小さく耳打ちしてきました。
「魔力を浴びせたわけではない、ですよね……?」
「うん。ただの空気砲。魔力で主人を覚えるなら、触れさせない方がいいんでしょ?」
「はい。……お見事でした」
「褒めていいの?」
「ヤタクロウは特に扱いが難しい種ですから。ああやって調教師の言うことを聞かないこともあるので、むしろ助かったんじゃないかと思います」
「そっか。ならいい仕事した」
笑えばテリーも同じように笑います。応接室に入って、待っていたチェレホヴァさんに契約書を作ってもらいます。出されたそれに目を通して、さりげなくブラッドにも中身を確認してもらいます。
「相場より高く設定されています。倍くらいの値段になってますが、どうしますか」
確認したブラッドが耳打ちしてきます。タイピンに仕込まれた魔法のお陰で、私にしか聞こえてないようですね。チェレホヴァさんは黙って待っています。消音魔法とでも言うんでしょうか。流石コンチータ、それくらいの魔道具を作るのはお手の物。って、今はそんな話、じゃないですね。
「異邦人が相場を知らないのをいいことにぼったくろうってことか。いい度胸してるね」
「それだけの値段が付く個体を異邦人に売ったという実績が欲しいのでしょう。評価するにはわかりやすい数字と肩書ですから」
「営業さんって大変だねぇ」
だからって、そんなわかりやすく付け込むこともないとは思いますが。素直に受け入れない方がよさそうです。
「適正価格と思っていいんですか?」
「ええ、もちろん」
大法螺吹けるだけの心臓の強さもあると。命の値段と考えるのなら、10万単位になるのは納得ですけれど。ミヅキのためを思えば惜しくはない値段ですし、正直、今のところ身の回りに関するもので金銭を惜しむ理由もありません。生活費はほぼ国持ちなので、個人資産は自分が使いたいものにだけ使えるわけですし。身の丈に合わないくらいには支払われてるので、大きな買い物もそこまで怖くありません。でも、この人たちに払う金額と思うと、ちょっと納得しがたいですね。
「これ、どこまでのものが含まれた金額ですか?」
「……どこまで、とは」
「生き物の取引をするんです。この子だけ受け取ってそれでいいという話ではないじゃないですか。この子が生きる為に必要な設備とか、飲食物とか、そういう初期投資って言うんですかね。それも全部含んだ金額であるなら、このヤタクロウ以外に何を購入できるのか、気になるのは当然の話かと。決して安い買い物ではないわけですし」
そこまで言われるとは思わなかったのか、チェレホヴァさんは明らかに困った様子です。
「これは、あなた方に支払っていい、信頼の金額ですか?」
畳みかければぐっと黙り込みます。ベルントソンさんは明らかに視線を逸らしました。まぁ、自覚があるだけいいとしますか。そうでもしなきゃならない事情っていうのもあるんでしょう。それこそ、営業はそう簡単な仕事じゃないってことくらいはわかりますし。契約書を一旦、差し戻します。
「私はこの金額を支払っても構いません。惜しむ理由もありません。でも、搾取とわかりきった支払いはしません。私は、家名なしですから」
「……っ」
「改めてお聞きします。これはあなた方への、信頼として、支払っていい金額ですか?」
真っ直ぐその顔を見つめて聞きます。しばらく押し黙って視線を泳がせていたチェレホヴァさんは、やがて観念したように息を吐き出しました。それから、深く頭を下げます。
「申し訳、ございませんでした」
肩が震えてます。だったら最初からやらなきゃいいのに、と思います。まぁ、舐められてるのは今に始まった話でもないですし。今はまだ断片的な情報しかないんでしょう。お披露目パーティには上位貴族しかいなかったわけですし。何がどう回るかわからないから、下位貴族との情報戦もやってる最中。次の大舞台まではこれが続くと思っておきましょうか。
「言い訳はありますか?」
「…………成績が、よくなくて。どうしても、数字が必要だったんです」
「成績がよくないのに理由はあるんですか?」
「……そもそも、こうやって営業に出させてもらえず……。他は、男性ばかりなものですから……」
「どの世界もその辺は変わらないなぁ……。家名なしかつ、同性の方が話しやすいと今回、回して貰えた、ということですか」
「はい。どうであろうと、聖女候補様でいらっしゃることに違いはありません」
「加えて取れた数字が大きければ、指数的には確かに評価になりますね」
それがそのまま業績として、次の仕事につなげてもらえるかはまた話が別ですけれど。だからと言って不正をしても仕方ないと思うんですけれどね。結局、似たような案件で似たような不正をするしかなくなるのは目に見えているというか。ひょっとしたら、同じようなことを前にもやったことがあるのかもしれませんね。それでどうにか繋いでるのかもしれないです。
「お仕事、楽しいですか?」
答えません。俯いたまま動かないのが答えみたいなものですね。
「お仕事、嫌いですか?」
「……いえ」
小さく首を振ります。まぁ、嫌いなら続けてないでしょうね。好きだから続けたくて、でも許してもらえる術がわからないまま来てる。社会に出たことのない小娘が偉そうなこと言えるわけもないんですけれど、なんでこういうちゃんとした熱意のある人ほど、割を食うんでしょうかね。こういう人ほど、誠実な仕事するだろうに。
「ご存じだと思いますが、今回の異邦人は6人います」
「は、はい。存じています……」
急な話の転換に、チェレホヴァさんは思わずというように顔を上げました。きょとんとしているのに笑いかけます。
「その内の一人が、犬を飼いたいと言ってたんです」
「はぁ……。犬を……」
「改良種には犬型もいたでしょう? 彼女が今も犬を飼おうと思ってるかはわりませんけれど、もしその気があればご紹介しますよ」
「…………紹介」
「はい。信頼していい仕事をしていただけるのなら、ですし、彼女が取引に来るかもわかりませんけれど。もし、彼女がここで取引がしたいと言った時には、チェレホヴァさんを指名して契約するように口添えします」
一応、釘は刺します。チェレホヴァさんはそれに目を丸くして、泣きそうな顔をして、勢いよく頭を下げます。
「少々お待ちいただけますでしょうか。契約書を作り直してきます……!」
「お願いしますね」
笑いかければ、チェレホヴァさんは差し戻した契約書を取り上げて奥の部屋に向かって行きました。ベルントソンさんが新しくお茶を淹れてくれます。それから、彼女も頭を下げました。
「私からも謝罪をさせてください。不躾な真似をしてしまい、申し訳ございませんでした」
「顔を上げてください。今言った通りですよ。でも、言い訳があるなら聞きますよ」
どうせ契約書ができるまでは暇ですしね。顔を上げたベルントソンさんはちょっと苦笑して口を開きます。
「ここに勤めている人間のほとんどは男性で、女性は私達を含めて10名ほどしかいません。各ユニットに二人ずつ、事務に数名と、営業が彼女一人。義務として置いてあるだけだ、といった様子で、真面な仕事を振られたことはあまりありません」
「なるほど。法として定められている最低限しかいない、というわけですか」
「はい。改良種とはいえ、相手は魔獣ですから。わかりやすい力の差で彼らは判断します」
「わざとその差がわかるように振舞う男性が多すぎる」
「お恥ずかしい話です」
どおりで、さっきのヤタクロウたちがベルントソンさんの言うことを聞かないわけですね。そんなことをして何が楽しいんだか……。どこに行っても、人間ってやること変わりませんね。
「そういうものだと諦めてました。だから少しくらい、許されてもいいでしょう、なんて甘いことを考えて。……こういうことを考えるから、彼らにもそっぽを向かれるのでしょうね」
「私は外側から見ているから、どうだと口を出せますが、実際に中にいれば、諦めてしまうものだと思います。だって、普通に怖いじゃないですか。男の人って力も強いし、身体も大きいし。こんな小さい子にだって、飛びつかれたら私たちは抵抗しようないですよ」
「……そうですね。自分の身を護るなら、大人しくするしかないんです」
人数も少ないから、余計なんでしょうね。暴力なんて振るわれちゃ、たまったものじゃないですし。それで黙らせられるってわかってもいるから、たか括って強気に出れて、横暴にできる。そういう輩、ぶん殴っていい法律が欲しいと思います。……まぁ、そんな法があれば一発で悪用されて、結局弱い方が割喰うだけに終わるんですが。
「スラムと変わんねぇな」
黙って聞いてたカイが言います。それにベルントソンさんはちょっとだけ目を丸くして、でも、頷きました。
「それでも、スラムよりマシよ」
「じゃなかったらスラムで生きてるヤツらはなんなんだよ」
むっとした様子で言い返したカイに、流石に何も言えなかったみたいです。ベルントソンさんは困ったように笑います。次の言葉を探す間に、チェレホヴァさんが戻って来ました。
「お待たせしました。……何かございましたか?」
「ちょっとした世間話を。そちらが新しい契約書ですか?」
「はい。改めて説明させていただきます」
気にはなったみたいですけれど、仕事が優先と思ったようです。改めて正面に座り直して、チェレホヴァさんは契約書を差し出してきます。それに目を通しながら、契約についての説明を改めてしてもらいます。さっきは言わないとこちらが不利になるとわかってて、でも言わなくてもいいことを上手く抜いてたみたいですね。慣れた様子だったから、初めてでもなかったのも本当でしょう。もしそれで問題が起きたとしても、上は責任取ってはくれないと思います。それをわかってて、でもそうするしかなかった。やだなぁ、男社会って。
ブラッドにも確認を取ってもらって、大丈夫だとお墨付きをもらいます。サインをしたら契約完了です。初期投資と思えば妥当と思える値段ですし、必要になるであろうものも一緒に買えたので満足です。籠を受け取ります。
「これからよろしくね」
「カァ」
黒猫に烏。本当に魔女って感じの組み合わせですね。なんだか、ちょっとワクワクしちゃいます。お礼を言いながら応接室を後にします。
「今日はありがとうございました」
「いえ、こちらこそ。本当に、申し訳ございませんでした」
「最後はちゃんとお仕事してくれましたから」
お見送りを受けながら馬車に乗り込みます。きっと、何かが大きく変わるなんてことはないと思いますけれど。
「あの、あんまり役に立たない話かもしれませんけれど」
閉じられようとした扉を留めて、チェレホヴァさんとベルントソンさんに言います。お二人はきょとりと見上げてきました。
「変わろうとか、変えようとか、無理に考えることもないと思います。何をするにも勇気は要るし、怖いでしょうから。でも、人と違うことして、後ろ指さされた方がマシってことはあるかもしれません」
それが何になるかは、その時次第だと思いますけれど。いいことに繋がるとは限りませんし。でもちょっとしたきっかけがあることは、悪いことではないと思います。それが、本当に何かを変えるかもしれませんから。
私を見上げていたお二人は、お互いにちょっと視線を合わせて、それからお礼を言って頭を下げました。今度こそ扉を閉めてもらって、馬車を出してもらいます。もう12の鐘が聞こえてきますね。家に着くころには13の鐘が鳴るでしょう。
「スラムだけがひどいんだと思ってた」
流れていく景色を見ながら、カイが言います。それに私は笑って、頭を撫でてあげます。振り返ったカイは嫌そうな顔です。
「やめろよ。なんでだよ」
「いい子だなって思って」
「はぁ?」
「そうやって人の痛みに寄り添えるところが、私は好きだよ」
「……なんだよそれ。わけわかんねぇ」
いつも通りに、でもちょっと照れた様子でカイは外に向き直りました。笑っていればノアが袖を引っ張って来ます。
「ノアは」
「もちろん、ノアのことも好きだよ。きれいな子、選んでくれてありがとう」
「うん!」
満足げに笑って頷きます。それに思い切り撫でてあげて、自分もって声を上げるミヅキも撫でてあげます。籠の中から様子を伺っているヤタクロウが何を考えてるかはわかりませんけれど、でも新しい仲間として迎え入れたんだから、仲良くしたいです。
「名前、ちゃんと考えてあるからね。帰ったら呼んであげる」
「カァ」




