第七十話:異世界の不思議な生き物が増えるようです。
新しい出会いってやっぱりワクワクしますよね。
環境が変わったりして、不安に思っている方も多いかもしれませんが。
でもやっぱり、自分が持ち得ないものを持っている人との交流は楽しいと思うので。
皆さまにも、新しい季節の到来でいいことがありますように。
流石に怒られたので、午前中にシルヴィアに城下に買い出しに行ってもらいました。週一のお出かけにしたいんですけれどねぇ……。まぁ、立場があるので仕方ないです。ええ、仕方ないことです。
「全く納得してないじゃないですか」
「だってぇ~……」
「急に子どもみたいになるのはやめてください」
ブラッドが呆れてため息を吐きました。ちょっと冒険したら必ず何かしらやらかすんですから、制約があるのは仕方ないことでしょう。それでも、相談すれば調整してくれるっていうんですから待遇としては相当甘いんだと思います。そんな感じで午前中は暇をしながら時間を潰して、午後に厩舎に向かいます。
「なんでおれたちまで」
「留守番して勉強するのとどっちがよかった?」
「……ずるい」
口を尖らせたカイに笑いながら、事務所の入っている建物に入ります。待っていたテリーとアーベルがまずは応接室に案内してくれました。一応あるんですね、応接室。まぁ、使う人間が限られているとはいえ、外から人の出入りが全くないとは言えないからでしょう。
少し待っていれば、二人組の女の人がやって来ました。両方、30前後の方です。いつもみたいに、いかにも管理者さんっていう雰囲気の男の人が来ると思ったんですけれど。やっぱり魔法が絡むと男女差がなくなる傾向にあるんですね。
「はじめまして、聖女候補のレナ・カミシロです。アレンとお呼びください。こちらはこの厩舎の責任者のアーベル・ヴァン・リンドグレーン。厩務員のテリー・ボン・ゴッディ。この子たちは私の下で育ててるカイとノア。そしてシーキャットのミヅキです」
「はじめまして、聖女候補様。国立魔獣管理所からやってまいりました。私はセラフィマ・ヴァン・チェレホヴァ。こちらは魔獣調教師のリスベツ・ボン・ベルントソンです」
国立魔獣管理所は王都にしかない、魔獣研究所の最先端施設だそうです。魔獣管理所自体はほかにもあるようですが、国立は王都にあるものだけだそうです。まぁ、王族に卸したりするなら国管理でちゃんとしたやつじゃないと安心できないでしょうし。一定以上の質の保証ってことでもあるので、上位貴族も魔獣を引き取るなら選びたい場所でしょう。まぁ、代わりに相当な値が付くようですが。
一旦座るように促して、お二人と向かい合います。チェレホヴァさんは営業、ベルントソンさんはヤタクロウ専門の調教師。取引に金銭が絡むなら、契約の話をするための人員は必要、ということでしょう。
「今回はそちらのシーキャットの補助役としてのヤタクロウをお探しとお聞きしております」
「はい。現時点で伝令役としてたくさん活躍してくれているので、仕事の相棒が必要だとテリーがアーベルと話してくれたんです」
「優秀なシーキャットだとお聞きしております」
お世辞ですね。そうだとわからないように言うべきだと思いますけれど。とりあえず笑ってお礼は言っておきます。特別優秀な個体じゃなくても、私たちの為に頑張ってくれてることには違いないですから。
「こちらから提供させていただくヤタクロウは、そちらのシーキャットの魔力と同等の魔力を持つ個体です。それでも個体差があるので最終的には2体の相性を直接見て決めていただきます。今回は5体のヤタクロウを連れてきていますので、その中から一番相性のいい個体を選んでください」
「わかりました。楽しみだね」
ノアの膝の上で大人しくしていたミヅキに声をかければ、いつもみたいに返事をくれます。先に譲渡契約についての話をされて、契約書を出されました。これ、最後にサインするものだと思うんですけれど。一応、目を通して、ブラッドにも確認してもらいます。こっちを見て小さく首を振ったので、やっぱりサインはしない方がよさそうですね。
「引き取らせていただくヤタクロウを決めてから、サインさせていただきますね」
軽く躱してみれば、「そうですね」って一瞬だけ間を空けてから答えました。何を企んでたのかは知りませんけれど、やっぱりよくは思われてませんね。
実際にヤタクロウを見てみようということになって、一旦部屋を出ます。放牧地の方に用意されていたゲージに、ヤタクロウが入れられてるみたいです。ノアの手から逃れて、ミヅキが真っ先に駆け寄って行きました。
見た目はただのハシボソガラスって感じですね。身体の大きさも、記憶にあるのと大して違いません。でもこの黒い羽が月光で青く光るそうです。夜の暗闇ではシーキャットはその青い光を目印にするのだとか。
「相性の良い、悪いって基準とかあるの?」
「魔力の強さと性格ですね。魔獣と言っても、個体差はありますから」
テリーに聞けば、尤もな答えが返ってきました。力の強さだけで決め打ちできたら苦労はしませんよね。同じだけの力を持ってても、性格が合わないと上手く行きませんし。シーキャットとヤタクロウは相棒同士として働くわけですから、性格の合う合わないは重要でしょう。
ヤタクロウはシーキャットがちゃんと伝令を運べるようにルートを確認する斥候役。シーキャットの安全を確保する役割を担っているので、信頼関係は何よりも大事ですし。
ゲージに近づいてみます。だからといって、魔力の強さとかわかるわけではないんですよねぇ。ミヅキはミヅキで迷ってるようです。
「力の相性的には問題ない感じ?」
「ええ、事前に確認させてもらっているので、魔力の強さに大きな乖離はないはずです」
横にしゃがんでみれば、ミヅキはこっちを見上げて一つ鳴きました。どうしよう、って言ってるように聞こえます。ヤタクロウの方に目を向ければ、それぞれに反応します。興味津々に寄ってきたり、警戒して離れたり。私よりミヅキを気にしたり、ミヅキより私を気にしたり。うーん、これは確かに難しい。
悩んでいればノアが袖を引っ張って来ます。
「どうしたの?」
「きれいじゃない」
「……なにが?」
「まほう、つかうときのもやもや」
そういえば、ノアは魔法が得意でしたっけ。魔力感知くらいは既にできるみたいですね。
「きれいじゃないから、やめた方がいいってこと?」
「うん」
「ヤタクロウ、だっけか。こいつらしかいねぇわけじゃねぇんだろ?」
「そうだけど」
「だったらやめとけよ。ノアがこう言うときは、本当によくないことが起きたりする」
「……なるほど」
伊達でスラムにいたわけではないんですよね、二人も。こういう察知能力的なものは自然と培われてきたんでしょう。ノアは元々持ってる魔力が多いから、勘がいいみたいですね。それが魔力察知っていう確かなスキルになれば、ただの勘じゃなくなるってことでしょう。子どもの勘自体、侮れるものでもないですからね。
「テリーとしては、どう思う?」
「シーキャットが力を発揮できるかはヤタクロウにかかってますから、ミヅキが選ばなかったのなら、この中から無理に選ぶことはないと思います。妥協して選んで、結果的に優秀な個体を使い潰すだけになってしまった例もありますし」
「なるほどね。最終的には私たちの為になるわけだし、ここは妥協しても仕方ないか」
専門家が言うのなら、疑いようもないでしょう。それに今回は生き物相手ですからね。命を預かるという点も加味すれば、妥協することでもありません。
「ミヅキも、この子たちの中から選ぶんじゃなくていい?」
「みゃあ」
「じゃあ、決まり」
頷いたので、立ち上がります。これ以上悩む理由はないので、アーベルと喋っていたチェレホヴァさんに声をかけます。
「お決まりになりましたか?」
「いえ、折角ご用意いただいたんですけれど、今回はやめにします」
「……何か、問題でもございましたか? 能力は申し分ない個体ですが」
「能力だけの問題ではありませんから。ミヅキもいいと思える相手がいなかったようですし」
「リスベツを連れてきているので、ある程度の調教はこの場でできます」
「根本的な性格まで変えられる話ではないでしょう? 反りの合わないもの、ねじ込んでもどこかで無理が出るだけです。私はミヅキをただの伝令役として使いたいわけでもありませんし」
ミヅキが喜んでその役目をこなしてくれるから、お願いしているだけです。能力の低さで棄てられてしまった子だったので無理なことをさせるつもりもありません。人の言葉をしゃべらないだけで、ミヅキもまた私の大切な仲間で、フラーディアのメンバーですから。ただの専属郵便屋と思われるのは癪です。
「この子のためにも、仲間のためにも、なにより私自身のためにも、妥協はしたくない。そもそも、ミヅキは一切の妥協抜きで私を探し出した子ですから」
助けてくれた恩人だから、っていう理由でテリーを選ばなかった時点でお察しなんですよね。あの中から選んでもよかったんでしょうけれど、妥協したヤタクロウを与えたところで上手くやってくれるとも思いません。
「えっと……、では、その……」
ここまで言い返されると思わなかったのか、チェレホヴァさんは見事に困っています。ベルントソンさんも、そんな上司に困っているようです。口を挟んでいいものかどうか、迷ってるみたいですね。
「そ、れ、では、他の個体も、見てみますか? 管理所には他にも多くのヤタクロウがおりますので……!」
引けない理由があるみたいです。先にサインさせようとしたのも、確実に契約が欲しかったからでしょうかね。それが仕事の評価に繋がったりとかもするんでしょうか。
「今から管理所に向かう、ということですか?」
「あ、えっと……、いえ、別日に、連れてきます……」
それもまた面倒ですね。もう一度連れてきてくれたヤタクロウがミヅキのお眼鏡に適うかはわからないわけですし。それでまたダメってなったら、次の予定立てなきゃですし。どうせ、今日連れて来たヤタクロウたちは管理所に戻すでしょう。
「ご迷惑でなければ、このまま管理所に行って選びたいです」
「え……」
「人間が選んだ個体から必ずミヅキが選ぶとも限りませんし、時間をかけても仕方ないでしょう。管理所の場所はわかりませんが、行ったり来たりも面倒でしょうから。それに、こんな機会でもなければ魔獣管理所なんて行くことなんてないので。この子たちの教育の一環だと思って、お付き合い願えませんか?」
まだ社会科見学なんてしても仕方ないかもしれませんけれど。世界にいろんなものがあるのだと知ることは悪いことではありませんし。何より、魔獣管理所なんて行ってみたいに決まってます。子どもをダシにするなって感じですけれど。子どもをダシにしないとできないことってやっぱりあるじゃないですか。
「……えぇっと……」
困った様子のチェレホヴァさんに、ベルントソンさんは小さく耳打ちします。
「……でも、それは……」
「どうであれ、聖女候補です。契約を逃した方が大きすぎます」
「………………そうね」
目の前でされてるので、聞こえてしまうのも仕方ないんですけれど。やっぱり評価とかあるんでしょうね。だからって先に契約書にサインさせようってやり方は姑息がすぎませんかねぇ。まぁ、こっちは不利益がないならいいんですけれど。
「では、管理所までご案内いたします」
「ありがとうございます」
頭を下げたチェレホヴァさんに、とりあえずお礼を言います。ブラッドが溜息を吐いたのが聞こえてきましたけれど、まぁ、黙ってたんだから同罪です。
「シルヴィアにだけ、遠出するの伝えておいてくれる?」
「かしこまりました」
「馬車を回してきます」
「私も、ウォーリアを連れて参ります」
慣れた様子でエルネストとブラッドとテリーは動いてくれます。早速とばかりに走っていったミヅキを見送ります。
「そこまですんのかよ」
「仕事の相棒としてヤタクロウは必須みたいだしね。新しい仲間が増えてくれるかもって思ったら、ワクワクしちゃって。やっぱり魔女っ娘といえば猫と烏だし」
「なんだそれ」
呆れたように言って、カイは成り行きに任せることにしたみたいです。ノアはよくわかってないようですけれど、遠出は楽しみみたいですね。とりあえず準備ができるのを待ちましょう。いい子がいたらいいなぁ。




