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異世界賛歌~貧乏くじ聖女の異世界革命記~  作者: ArenLowvally
あまりにも、よくある話。
39/86

第三十八話:異世界のゴタゴタの清算はちょっと面倒です。

好きなことを仕事にして生きていきたいなぁって思う反面、仕事にしたことを好きでい続ける自信ってそんなにないんですよね。

なんにも縛られず、自由に書いているからこそ続いている自覚はあります。

でもこれが仕事として認められたら、めちゃめちゃ嬉しいなぁって思う、今日この頃です。


 自由にできる時間ができた、ということもあってパーティの時に申し入れがあったベナビデス侯爵家との顔合わせをすることにしました。応接室で待ち、4つ目の鐘が鳴るよりも前にベナビデス一家がやってきました。当主であるグレゴリオ様、その孫で長女のセリアさん、次男のレグロさん。長男の……なんて言ったっけ、彼は来ません。まぁ、合わせる顔はないでしょう。軽く挨拶を交わして、座るように促します。正面に座った侯爵は改めて頭を下げました。


「ベナビデス侯爵家の代表として謝罪に参りました。どのような事情をお持ちであろうと、世界を越えていらしてくださる異邦の方には敬意を払うべきであるにも関わらず、失礼な態度と侮辱の言葉を浴びせてしまいました。重ね重ねにはなりますが、孫がしたこと、心より謝罪申し上げます」


 その言葉にセリアさんとレグロさんも頭を下げます。まずは、この謝罪を改めてきちんと受け取るところから、ですね。


「彼の態度と言葉は許されることではありませんが、仕事にも手を抜かず、こうして誠意も示して頂けた。謝罪の言葉は十分です。あとは実際の仕事と今後の付き合い方で挽回していただきたく思います」

「寛大なお言葉、ありがとうございます」


 深く、深く頭を下げた3人に顔を上げるように言えば、どこかホッとした表情です。流石に侯爵レベルの家を個人の感情で潰したりはしませんよ。彼の感情は彼自身に還ればそれでOKです。


「ファビアンの処遇に関してご報告させていただきます」


 あ、教えてくれるんですね。それもそうか、実は何もしてませんでしたなんで大問題ですし。


「ベナビデス侯爵家から除籍し、しばらくは監視付きで領地の方で生活させることにします。そこで悔い改めるようならばまた考えますが……。恐らく、反省はしないでしょう。素行を改める気がないことを確認してから、監視もやめ、完全に手を放す予定です」

「わかりました、彼の処遇に関しては一存します」


 反省したとしたら、今度こそちゃんと鑿を持たせるつもりではあるってことですね。ああいう他責思考の人間も、極稀に本当に反省して更生する人はいるわけですし。一応、彼も偉大な彫刻家の血を引いてはいるわけですし。やってないだけでやればそれなりな才を発揮する可能性も0ではない。その才能を潰すか否かの瀬戸際であることも見込んでの監視付きでしょう。まぁ、まったく期待してないっていうのがありありと伝わってきますが。


「彼に当主の座を渡さなかったのは、人格に問題があると知っていたからですか?」

「ええ……。王都のアカデミーで世界の広さを知れば多少はマシかと送り出したのが間違いだったようです。私のことを煩わしく思っていたのでしょう、そのまま王都に居座って自分が当主だとばかりに振舞い始めるとは……」

「よく生き残りましたね、彼」

「私が領地運営の方に力を入れており、中々王都まで来ないのをいいことに好きにしていたのでしょう。加えて、レグロの作品を自分の作だと偽って公表していたようです。それで評価されていたので許されていた立場です」

「それをレグロさんは黙って受け入れていたんですか?」

「……はい、恥ずかしながら。指摘しても悪びれることなく『次期当主の自分が発表した方が価値になるから』と言って聞き入れられたこともありません。それに、私は兄ほど口が立つわけでもなく……、信用を勝ち取れず……」

「なるほど、それで作品を取り上げられても文句を言えない立場にされたわけですか」


 どの世界にも盗作する奴はいるんですね。しかもそれがトレパクとか加工っていう誤魔化しを入れたものでもないっていうのがまた、信じられないくらい傲慢な人だ。それでまかり通せた話術を持ってたのがまた不幸だと思います。


「今回も同じように私の作品を兄のものと偽って皆様にお渡しする予定でした」

「そうなる前にメッキを剥がしておいてよかったです。どんなに自分が気に入ったものでも、後ろ暗い部分がある物だったと後で知ることになったら、気持ちよく使えませんし」

「皆様にはなんと申し上げたらいいか……。ですが、これでようやく自分の作品を自信を持って出せると思えば、アレン様には感謝してもしきれません」


 レグロさんはまるで憑き物が落ちたような表情で言います。そりゃ、自分の作品なんだから自分の名前で発表したいに決まってますよね。やっとそれができるってなれば、清々しい気持ちにもなるでしょう。あんなに素晴らしいデザインをしてくれる人ですしね。そこは良かったと思うことにします。


「家庭事情は人それぞれなので私からどうこう言うことはないとは思いますが、家族だからこその確執がこの件で片付いたのならばよかったです。レグロさんの作品が、本人の作として発表される日が来ることを私も願います」

「ありがとうございます」


 今まで見た中で、一番いい表情です。お兄さんに作品を取り上げられても、それが悪いことだとわかっていても、それでも作り続けたのは、やっぱり彼も彫刻が好きだからなんでしょうね。レグロさんがこれからちゃんと自分の名で大成したらいいなって心から思います。


「それからもう一つ、セリアからもお話しがあります」


 今まで黙りこくっていたセリアさん。一家の不祥事とはいえ、関係ないといえば関係ない彼女も同席した理由がやっとわかるみたいです。セリアさんは微笑みを浮かべて口を開きます。


「今回のこと、兄を止めることのできなかった私にも責があります。まずはそのことについて謝罪を。申し訳ありませんでした」

「兄弟のことだからこそ口が出せない、ということもあるでしょう。セリアさん自身、良くなかったと反省していらっしゃるのならば、私はこれ以上の謝罪は求めません」

「ありがとうございます。アレン様のお言葉、胸に刻みますわ」


 社交辞令感が強い言葉です。彼女、実はお兄さんのことどうも思ってないんじゃない? って思うくらい。女性は政治の駒でしかない世界観だから、女性であるだけで立場が弱いっていう点もあるでしょうけれど。わざわざ口を挟んで面倒事に巻き込まれたらたまったものじゃないっていう打算が若干透けて見えます。


「そこで相談なのですが、よければ私をアレン様の傘下に置いていただけないでしょうか。兄の代わりの贖罪というわけではありませんが、私自身、何か挽回の機会をいただきたいのです」


 ……思ってもない話が出てきたなぁ。何かしら挽回の機会が欲しいというのはまぁ、わからなくはないにしても。わざわざ私の傘下に入る理由はないと思いますが。いや、ベナビデス家がまた何かしたときの人質として考えるなら、ない話ではないのか……。だとしたら、レグロさんが挽回しきれないと思っているのと同義だと思うんですけど。先に話し合って来ているみたいで、侯爵とレグロさんは特にこれといった反応は見せません。

 理由はなんであれ、聖女候補の抱える部署のメンバーとなれば箔は付きますからね。家としてはむしろプラスであるから、潜り込めたら御の字って感じでしょうか。パーティの時には出せなかった話ですし、売り込むには絶好の機会ってことか。じゃあ、まぁ、一応、面接はしてみましょうかね。


「何か、売り込めるものがあると?」

「これでも絵画を嗜んでまして。服飾デザイナーの方がいらっしゃるそうですね。方向性は違えど、デザインのヒントくらいは出せるのではないでしょうか」

「なるほど。どんな絵を描かれるんですか?」

「風景画を。実際に作品をこの場で見ていただけないのが残念です」

「持ち歩けるものでもありませんからね。油絵ですか?」


 きょとりとされました。何を言ってるのかわからないと言いたげな表情。絵具っていうか、ペンキしかないのか、この世界。


「絵に使う道具の種類によって、絵にも種類があったんです。油絵、水彩画、木炭画、水墨画、他にもいろいろ。セリアさんが描かれるのは、あちらに飾ってあるような絵ですか?」

「ええ、そうです。異邦には絵にもいろんな幅があるのですね」


 感心するだけ、か。知りたいって食いついてくるほどの熱量はないみたいです。嗜む、って言い方だったし、趣味程度でしかないのかな、絵。


「セリアさんは、絵がお好きなんですね?」

「ええ、もちろん。だから自分でも描いております」

「仕事にしたいほど?」

「仕事にしてもいいくらいには好きですよ」

「じゃあ、絵が動く技術があるって言ったら、どう思います?」


 アニメーション技術。こちらの世界には存在しない絵の進化系。革新的なそれをセリアさんは、可笑しそうに笑いました。


「面白いことを仰りますね。そんな魔法があるのなら、是非教えていただきたいものですわ」

「そうですか」


 やっぱり食いついてはこなかったですね。絵が好きだって言ってもそれに全身全霊を賭けられるほどのものではない。パーティの時に売りこんで来た人達も、大抵の方がそうでしたけれど。本当にそれが好きで人生賭けられる人って、わざわざ売り込んだりしてこないんですよね。だってそんな時間あるくらいなら、自分の好きなことしてたいでしょうから。仕事になるほど好きなメリッサやリリー、カタリナとは全く熱量が違います。メリッサたちとの熱量の差は、確実に足を引っ張る原因になる。


「だったら要りません」

「……はい?」

「私の部署に、セリアさんは要りません。お兄様の不祥事は最初に言った通り、レグロさんの仕事で挽回して頂きます。セリアさんに挽回してもらう必要はありません」


 僅かに、口元が引き攣りました。余程、自信があったということでしょうかね。侯爵はわかってたとばかりの余裕の表情ですが。


「でも、セリアさんが描いた絵には興味があります。機会があれば、見てみたいものです」

「嬉しいお言葉です。年に数度、領地で大きな祭りとして様々な芸術作品の展示会を行っております。時期になったら招待状を送らせていただいてもよろしいですかな?」

「ええ、もちろん! この世界の芸術作品、とても興味があります! 是非、伺わせていただきますね」


 流石、芸術の街ですね。領地のお祭りとして展示会があるだなんて。これは楽しみだぞ。喰いついた私に侯爵は微笑まし気に目元を緩めました。


「これ以上の長居は無用のようだ。これにてお暇させていただきます」

「ええ、わざわざ出向いていただきありがとうございました。蝋印、完成品を楽しみにしています」


 最後に挨拶を交わせば、ベナビデス一家は粛々と退出していきました。扉が閉まって、少し待ちます。


「はぁ、疲れた……」

「お疲れさまです。新しく紅茶、お注ぎしますね」

「ありがとう」


 ソファの背もたれに勢いよく体重を預けます。いやぁ、肩凝るかと思った……。大きく息をして、伸びをして、身体から力を抜く間にシルヴィアが紅茶を淹れてくれました。有り難く一口含んで、ホッと息を吐きます。


「ねぇ、3人は、セリアさんがメリッサたちと上手くやっていけたと思う?」

「難しかったと思います。彼女は他の面々程、一途ではないようでした」

「そうですね、異邦のことについてもさほど興味がないようでしたので、もしメンバーになったとしてもメリッサ様たちとは話が合わなかったかも、と思います」

「ベナビデス侯爵令嬢は飽きっぽく、癖のある性格の方だと聞いています。アレン様の判断は妥当かと」

「そう。太鼓判押してくれるなら、ちょっと安心だな」


 人を見る目に自信があるわけではないのでね。まぁ、こっちに来てからそれなりに経って、養われてきてるなぁとは実感しますが。それも魔力のお陰なんですかね。今のところいろいろ都合よく行ってるので、ふとした瞬間に不安になります。私の行動の何かが、良くない方に傾くきっかけになり得るかもしれない。特に社交界のことなんてわかりませんから。家名なしのレッテルも、もしかしたら思ってるよりずっと重たいものなのかもしれませんし。営業を断った人たちがどう出てくるかもわからない。現状、功績もなにもあったものじゃないですしね。言葉一つ、行動一つで、何もかもが変わってしまうかもしれない、責任。今更とはいえ、自由の代償があるということに怖くなっちゃいます。


「あんまり難しく考えることはないですよ」


 ぼーっとしながら紅茶をゆっくり傾けていたら、ブラッドが不意に言いました。


「アレン様はアレン様のやりたいようにやればいい。面白そうと思ったものを見に行って、好きな歌でも歌って、人を驚かせて、飛びついてくる人間と一緒に楽しいって言っていればいい。それに面白そうだからついきたいと言った人が今、あなたの周りにいる人達ですから」


 ……ブラッドに慰められるなんて、初めてかもしれないですね。なんていうか、不器用な言い方だなぁって思います。それがブラッドらしいと言えばそうなんですけれど。でもちょっと驚いて、その顔をじっと見上げちゃいました。照れたみたいに視線を外されて、笑っちゃいます。どう思って選んだのかは本人しか知る由もないですが、私についてきたのはブラッドも同じですからね。


「ありがとう」

「……いえ」


 不愛想に答えたのに、照れてるなぁって思いながら残った紅茶を飲み干しました。

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