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異世界賛歌~貧乏くじ聖女の異世界革命記~  作者: ArenLowvally
あまりにも、よくある話。
26/86

第二十五話:異世界で勉強が始まります。

ちょっと短い。

過ぎ去った今だからこそ、もっとちゃんと真面目に授業を受けておけばよかったかも、なんて思います。

社会に出てから義務教育の内容が面白かったんだなって思うのもどうかと思いますが。

でも実際にどう面白いのか知るのって、世界に出てからなんですよね。

それを如何に子供達に伝えるのか。

教員っていう職業は難しいものだなって思います。


 今日から英雄・聖女教育が始まります。基本は午前に座学、午後にマナー講座だそうです。

 そういうわけで、本格的に活動が始まるので、今までみたいにお付きの人全員と一緒に行動、っていうわけじゃなくなりました。護衛騎士が一人ついてくるだけで、メイドと執事はお留守番です。まぁ、常に張り付いてなきゃいけない理由はないですし、身の回りの世話って一口に言っても仕事は無限にあるものですから。名もなき家事ってやつも全部彼らの仕事ですからね。それも全部やってもらうならむしろ張り付いてる時間なんてありません。

 朝食を食べてから、ブラッドとシルビアに見送られる形で、講義室にやってきました。人数分の椅子と机に、黒板。そういえば黒板っていつの時代からあったんだろう。戦時中にはもうあったわけだし、その前ですよね。こういうの、気になると直ぐに調べたくなるんですけれど、インターネットは繋がらないからなぁ。むぅ、って感じです。

 で、今日の座学はまず、読み書き・計算がどのレベルでできるか、テストするそうです。


「では、まずは読み書きについてのテストをさせて頂きます。今、お配りした紙に書かれている内容を書き取りしてください。言葉は皆さまがお使いになっている言語でお願いします」


 つまり、異邦言語——日本語を問題なく読めるか、書けるかを調査したいということですね。こちらの言語を教えるにも、言語能力がどれくらいあるかは基準になるでしょうし。構えてたほど難しいテストじゃないみたいでよかったです。始めの合図と共にペンを手に取ります。万年筆なんて初めて使ったよ……。でも書き心地ってすごくいいものなんですね。欲しいなって思ってたけれど、結局普通にボールペン使ってたからなぁ。これからはこっちがスタンダートになるんですね。ちょっとだけワクワクします。

 内容は物語の一部みたいですね。なんか見覚えあるなぁって思ったら、どうやら人魚姫のようです。ああ、歴代の聖女や英雄が持ち込んだんだな……。元の世界に存在していたお伽噺を、こっちでも寝物語とかで語って聞かせたりしてたんでしょうか。それをまとめたものとか、図書館にあるのかな。今度探して見ましょう。

 しばらく集中して、書き取りしていきます。終わったので顔を上げれば、大体みんな同じタイミングで終わったみたいですね。5分と待たずに全員がペンを置けば、講師の方は感心したように頷きました。


「皆様、素晴らしいですわ。では、次は計算問題を解いていただきます」


 書き取りした紙は回収されて、また別の紙が配られます。レベル順に並んだ計算問題は、小学生レベルから高校1年くらいのレベルまでの問題が並んでますね。そんなに難しくないかな。習ってた当時はまるでちんぷんかんぷんだったのに、今なら多少理解できるっていうのもなんだか可笑しな話ですよね。当時にちゃんと理解できてればもっと成績よかっただろうになぁ……。高校レベルまで行くと若干危ういですが……。まぁ、途中点くらいは貰えるくらいには解けるかな?

 こちらもしばらく集中して問題を解いていきます。今度は終わる時間バラバラだったみたいですね。最後に筆を置いたのは成美です。彼女、簿記資格取るくらい数字強いんですよね。採点している間は休憩とするらしく、待っているように言われました。一息つけば、肩から力が抜けます。緊張してたみたいですね、自覚してなかったけれど。


「数学の問題なんて、めっちゃ久々に解いたわ」

「解けた? わたし、全然わかんなかった」

「高校レベルになるとちょっと怪しい」

「オレも全然解けなかったなぁ~。関数とか忘れてるわ」

「あたしも。三角関数とか大っ嫌いだったから、もう覚えてないわ」

「点P動くなってSNSでよく見たな~」

「仕方ないじゃん、点Pは動くものなんだし」

「そもそも点Pってなんなんだよ。Pじゃなくてもよくね?」

「なんかの頭文字なんじゃない? パシフィック……じゃないか」

「P、P……、パブリック?」

「それでもないと思う」

「普通にプレイスじゃない? 場所の」

「ああ、なるほどな。パトリックかなって思ったけど」

「それは人の名前」


 くだらない話に皆で笑い合います。お喋りしている間に、採点が終わったみたいです。講師の方は随分と驚いた様子です。


「皆様、素晴らしいですわ。こんなに読み書きも計算も完璧なんて、とてもいい環境で勉強なさっていらしたのですね!」

「あ、ありがとうございます」


 講師の熱量に若干引きながら隼が礼を言います。義務教育範囲のものでここまで褒められても、っていうのは皆そうみたいです。


「特に、女性の方もこれほど高度な計算ができるなんて、こちらの世界ではほとんどありえません」

「こっちだと性別関係なく義務教育があるし、大抵の人は高校まで出るしね」

「むしろオレら、あんまり優秀じゃない部類なんだよな」

「謙遜なさることはなにもありませんわ。これだけ高度な計算ができるのであれば、どのような職でも問題なくできますもの」


 にこやかに講師が言います。謙遜でも何でもなく、事実なんですけれどね。偏差値で言ったら下から数えた方が早い大学でしたし。でも、この発展途上の世界だと義務教育レベルの教養でも十分通用するんですね。学問が貴族のものであるなら、当然といえば当然、ということでしょうか。


「計算についてはこちらがお教えすることはありません。こちらの世界の言語の学習のみさせて頂くことになります」

「わかりました、よろしくお願いします」


 隼が代表して挨拶します。それに倣って軽く会釈すれば、講師はカーテシーで返してくれました。ひとまず、このまま簡単にこの世界の言語についての講義をしてくれるようです。改めて椅子に座り直せば、講義が始まります。


「では、読み方や意味は問題ありませんので、こちらの言語の書き取りができるようにお教えいたします」


 ニコリと笑って講師は教鞭を執ります。この国の公用語は英語のような、ドイツ語のような、フランス語のような感じのやつですね。テーロン語と言うらしいです。遥か昔、神の信託で授かった言語と言われていて、ユエシン教の信徒たちでこの国がある大陸に広められたものだそうです。他の大陸にはまた別の言語があるんですね。異邦人特典があるので私たちには馴染みのある日本語に聞こえるし、自動翻訳で読めます。他の言語もそうなのかな。

 ともかく、やることと言えば簡単な単語から教えてもらって、書き取りながら覚えていく作業。正直、かったるいんですけれど、やらなきゃお話にならないので頑張りましょう。……暗記、苦手なんだけどなぁ……。まぁ、うだうだ言っても仕方ないんですけど。ちゃんと覚えないと、スヴァンテ様と文通できない訳ですしね。最初は代筆してもらうにしても、やっぱり自分でも書きたいものですし。言語学習の一環に利用させてもらおうかな。スヴァンテ様なら許してくれる気がする、って思うのは下に見すぎですかね。


「本日はここまでと致しましょう」


 7つ目の鐘が聞こえてきて、講師の方が切り上げました。それに礼を言って、この場は解散です。食堂に場所を移動して昼食ですね。お腹空いたって思いながら、先ほどの講義で教えてもらった単語を見返します。簡単な挨拶と日常的に使う道具、それから私達、聖女や英雄に関連がありそうな言葉が並んでいます。


「全然覚えられる気がしねぇ~」


 大人しく座って頭を使ったからか、宗士が辟易した顔をして言いました。気持ちはすごくわかるので、皆で頷きます。


「最低でも3000は覚えることになるわけだしねぇ」

「そんなに?! 絶対無理だって」

「日本語の語彙は1万だからいけるいける」

「マジで言ってる? それ」


 明らかに気落ちした宗士に思わず笑ってしまいます。まぁ、具体的な数字を出された方が嫌になるのもわかります。10、20ではないですしね。千とか万単位の途方もない数字ですから、余計辟易もするでしょう。……自分で言っててため息が出ますね、これ。


「まぁ、自動翻訳がある分、まだマシじゃない?」

「辞書片手に調べながらってわけじゃないものね。手間がない分は確かに気が楽かもしれないわね」

「でも綴りを覚えるのは話が違わない? わたしも覚えられる気がしない……」

「使ってるうちに覚えるって、大丈夫だよ」


 今から弱気になってても仕方ないんですけれどね。まぁ、勉強嫌いに頑張って覚えましょうって言ってもこんなものですよ。それでもやらなきゃならないっていう義務感があるから、やらないっていう選択肢はないんですけれどね。それは多分、皆も同じじゃないかな。あとは自分の学習能力を信じるしかないわけです。……頑張ろう。

 お喋りしながらゆっくりとして、鐘が鳴ったらレッスンルームに移動します。基本の姿勢や歩き方の指導などをされるそうです。光代さんたちもすごく立ち姿が奇麗ですからね。あんな風に凛と出来たらすごく素敵だな~とは自分でも思います。日常的に意識しながら繰り返していけば、癖になって自然と出来るようになるものなんでしょう。でもその癖をつけるまでが大変って言う話でありまして……。


「結構、辛いね」

「筋肉痛になりそう」

「流石にオレも疲れた……」

「これ、毎日やんなきゃならないのやだなぁ……」

「自然な立ち姿っていうのがわかんなくなるな、これ」

「意識しなきゃならないって思うだけで肩凝りそう」


 休憩と言われて私達は一葉に弱音を吐きます。一筋縄ではいかないっていうか、予想しているよりもハードだったというか。立つ、座る、歩く、という基本的な動作がこんなにも大変だったなんて……、って感じです。姿勢を良くする、という点しか変わりないはずなんですけれどね。ラジオ体操もきっちりこなすとそこそこ以上の運動になるっていうのと同じなんですかね。あれも適当にしかやったことなかったなぁ……。


「やってらんなくない?」

「でも、光代さんたちみたいに奇麗に立てたら素敵だなって思わない?」

「それは、思うけれどさぁ……」


 この数時間で美雨はすでに嫌になってるようです。やりたくない、というのがひしひしと伝わってきます。周りの様子をそっと伺ってみれば、ちょっといい空気とは言えませんね。まぁ、これだけやる気がないとこを見せられたら、この世界の人たちは良い気はしませんよね。やってもらわなきゃ困るわけですし。確かにやりたくないって思っても、聖女になるって決めた手前、放り出せることじゃないんですけれど。本来なら、こういう教育とかも嫌がらない、あるいは嫌でもそれを口に出したりしないでこなす人物を選ぶんでしょう。選べないって本当に損なんですね。こんな形で納得するものでもないでしょうけれど。


「頑張るって決めたんだから、頑張ろ。一人でやるわけでもないしさ」

「そうだね。わたし一人だったらがんばれなかったかもしれないけれど、みんなと一緒ならいける気がする」

「嫌になっても愚痴れる相手がいるって思えば、多少は頑張れるかもね」


 明香里と成美は少しだけ前向きになったみたいです。みんなでいっしょにがんばろうって言うの、ありきたりだけれど案外効果があるものですね。かく言う私も、みんなが一緒ならもうちょっと頑張ろうって思えてますし。単純、と言われてしまえばそれまでですが。でもそういう単純さが必要な時だってありますよね、やっぱり。今がその時だって思うことにしてやりますか。

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