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私のことなんて捨ててください  作者: モノクロ猫
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後編

ちょっと…黒よりのグレー


ずっとずっと好きだった。だからこそ、彼が道を踏み外すのは許せなかった。今なら間に合うってそう思って。それだけだったのに。



「そう、いうこと」



目の前にあるのは彼が婚約者がしたことの証拠になってしまうこと。知りたくもなかった現実。


私を拘束した彼は悪い笑みを浮かべた。

その時、初めて彼に嫌悪を抱いた。怖くて声が震えそうだったけど、それでも言わなきゃいけない。



「なんで、こんな__!?」



最後まで言うことはかなわなかった。彼に口をふさがれたから。

強引に何かを流し込まれる。それが、薬だというのはすぐわかった。彼の悪事の証拠。それこそが今彼が使った薬。一時的な快楽と中毒性のある薬。そして、一部の人間には毒となる凶悪な物。



「っ!な、にっ!」


「何?君ならわかるだろう?調べていたじゃないか」



そう言って彼_イシドル殿下は醜く笑う。


わかっている。そんなことはわかっている。何を飲ませたのかも、何をしようとしているのかも、何をしてきたのかも。でも、知りたくなんてなかった。現実になんてなってほしくなかった。



「_君はどんな声で鳴くんだい?」



そう言って殿下は私の足をつかんだ。これからされることを否が応でも知らされて、理解させられてしまって恐怖がこみ上げる。

一人で来るべきじゃなった。信用するべきじゃなかった。



「やっ…やだっ!助けてっ…だ、れかぁ!……ふぃ、どぉ!」



暗い部屋に私の鳴く声が響いた。本当の愛しい人の名と共に__





* * * *





あれから、二年がたった。


二年前、俺の通う学園の卒業パーティーで事件があった。一人の令嬢が学園のテラスから飛び降りたのだ。

その令嬢はヴァルヴァラ・カロフ・ロージン。二年前のあの日まで第一皇子の婚約者だった人。俺の幼馴染。


あの日、ヴァルヴァラ_ルーラは彼女らしくなかった。いや、あの日だけじゃなくて一年前くらいからずっとそうだった。ルーラはもっと明るくて優しかった。堅苦しい言葉遣いが苦手で二人だけの時はいつも崩した話し方をしてた。それなのに、あの日はずっと『完璧なヴァルヴァラ』だった。心配で話しかけたけれどはぐらかされてルーラは皇子のもとへ向かっていってしまった。そして、彼女は初めて人を傷つける言葉を使って、皇子に婚約破棄されて__テラスから飛び降りた。

普通ならヴァルヴァラが皇子への不敬罪。でも、いつものヴァルヴァラらしくない言動を不審に思った陛下がヴァルヴァラのことを調べたらしい。そして見つかったのが__


第一皇子の犯罪の証拠。


婚約者だったヴァルヴァラは、皇子の不審な行動から犯罪を犯していたことを知った。それは、国で禁止されている薬物で人によっては死に至る凶悪な物。ソレを使って下町のものや、令嬢に手を出していたことを知ったのだ。

そして最後に知った最悪の事実。ヴァルヴァラもその被害者だった。薬を使って婚約者であることを利用して、何度も何度もヴァルヴァラを辱めた。

これは、皇子_イシドルの部屋を調べて発覚したことらしい。イシドルは令嬢たちが暴露しないように魔法を使って行為の映像を残していた。中には不審死とされていた女性の映像もあった。そして、その中にヴァルヴァラの物があったのだ。いくつも。いくつも。ヴァルヴァラの物で違ったことはイシドルが次の標的のヒントを出すこと。まるで、阻止して見せろというように最後にそう言い、次の時に無理だったねと虐めるのだ。





「ルーラ。俺も卒業したよ…イシドルは死刑にされることが決まったんだって。アデリーナは君の予想通り次の標的になっていた。でも、彼女は無事だし、お礼も言ってたよ。陛下も謝ってた。ルーラに非はないんだって。よかったね。ロージン家は罰せられない」



この場にいない彼女にそう語りかける。


一年前、奇跡的に一命をとりとめ眠っていた彼女は目を覚ました。けれど、彼女にとってそれは苦痛以外のなんでもなかった。彼女はある記憶だけを残してすべて忘れてしまっていたから。そして、その記憶でパニックに陥った彼女はロージン家の別荘へ連れていかれた。その別荘には彼女の母と女の使用人だけが出入りできる。

彼女の父は娘をそんな風にしてしまったイシドルをひどく憎み、気が付くことのできなかった自分を責めている。陛下も似たようなもので、何度も何度もロージン家へ謝罪している。



「フィド?」



二年も聞けなかった声が聞こえた気がして後ろを振り向く。

そこにいたのは_



「ルー…ラ?」



ルーラだった。二年前よりも痩せてしまっているし、肌も白い。それでも、俺がずっと思い続けた彼女だった。

彼女は俺の顔を見ると少し安堵したように微笑んだ。



「や、っと…会え、た」



その言葉に体が動いていた。彼女を抱き寄せると一瞬だけ体をこわばらせてすぐに力を抜く。いつのまにか腕の中に彼女が納まるようになってしまっていた。彼女の頭を見下ろせるようになってしまっていた。



「フィド、あの、ね」


「うん」


「やっと、男の人がいて、も、大丈夫、になった、の」


「うん」


「まだ、急に、来るのは、怖い、けど、おと、さまとか、おに、さまにも、はなせる、の」


「うん」


「けど、一番、はじめは、フィド」


「…うん」


「おとう、さまも、おにい、さまも、おいて、さきに、きちゃ、った」


「……うん」



そこまで言うとルーラは体を少し離して笑う。



「ただいま、フィド」


「おかえり、ルーラ」



おかえり、愛しい人。

優しく、ゆっくりと彼女の頭をなでる。腕の中の温もりを放したくはないが、そろそろ彼女の過保護な保護者が来るだろう。

名残惜しく思いながら彼女と体を離し、片手を出す。



「ルーラ、行こうか。きっとみんな待ってる」



* * * *




生涯ヴァルヴァラは嫁ぐことはなかった。しかし、彼女のそばには常にフィドセイがいた。

夫婦でもなく、恋人でもなく、幼馴染のまま二人はお互いの思いを伝えることはなかった。

それでも、二人は幸せだったのだろう。


それはきっと愛の深さ故__

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