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第七話 1935-1936 小山の正体

いよいよきな臭くなってきました。

そして戦争で活躍した機体がぼちぼち出てきます。





昭和十年十二月末



発動機部門へ行くとユンカースから来た人達がお通夜ムードになっていた。

この前知り合ったリヒトに事情を聞くと、監禁されていた創業者のヒューゴ・ユンカースが亡くなっていたらしい。

去年に収容されてからこれまで彼の身に何が起こったのかは解っていないらしい。

既に高齢ではあったが、会社を取り上げられる迄は元気で精力的に仕事をしていたらしい。

会社自体は既に国有化が進んでいて、完全に事業の自由が失われる日はそう遠くないだろうと言っていた。


彼らは帰還命令が出たらどうするんだろうな。



その後、彼らは水冷エンジン部門として纏められ、日本でも開発・生産を続けることになった。

水冷エンジンは陸海軍共に関心が強く、将来投資ということなのだろう。





昭和十一年一月



また新たな年を迎えた。

例年の里帰りから戻ると、すぐさま仕事にかかる。

実家の両親にはいい加減嫁を取れと、見合い写真も何枚も見せられて困った。

仕事仕事ですっかり忘れていたが、小山もとっくに結婚してるんだよな…。





キ-12は20ミリモーターカノンを外した代わりに、機首に12.7ミリ2門を搭載した型を提案した。


当初、まだ陸軍でも採用されておらず、使用を渋ったが他国の新型機の現状を説明すると渋々了承となった。しかし、テストパイロットの評価次第で戻す事を要求された。

12.7ミリ機銃は陸軍が米国製M2重機を参考に購入していたものを航空機搭載用に変更したものを貸与という事になった。





一月中旬頃、ロンドン海軍軍縮会議から日本が脱退したと新聞に乗っていた。

勇ましいことが書いてあったが、日本に英米に伍するほどの工業力、生産力があるとはとても思えぬのだが。


ヨーロッパや米国では市街地にもなると整備された道が当たり前、翻って我が国はどうか、帝都ですら幹線道路を外れれば車が走れば砂埃が舞う有様だ。


孤立化が進めば困るのは我が国ではないのか…。


一度目の人生では政治はタブーであったが、二度目の人生では普通に新聞が読め、その辺の市井の住人が政治を語る。

私も多少は政治に関心をもつようになった。





昭和十一年二月



二月二十六日、帝都で陸軍部隊がクーデター未遂事件を起こした。

大蔵大臣の高橋是清氏ら複数の政府関係者や警護の警官が撃たれたらしい。

そして、大臣を含む数名が亡くなられたと新聞に載っていた。

以前にも海軍がテロを起こしたが、この国は一体どうなっているのか。

前世では軍人は政治に不介入がルールでありポリシーであった。

しかしこの国では平気で軍人が政治に口を出し、気に食わないと武力を振るうのか…。


女神との約束は約束だ。しかし、この国はずっと以前から歪んでいたのではないのか。

とはいえ、二度目の人生とはいえ私にも守るべき家族がある。


やれることはやるだけだ。





昭和十一年三月



海軍より十試艦攻が発注され、中村技師が担当することになった。

この十試艦攻もそうだが、ここ最近は全金属製が指定されるようになってきて、未だ海外の技術に頼ることも多いが、二度目の世界大戦に至るまで普通に木が使われてた前世の祖国より航空機に於いては先取の気風があるのではないかという印象を受けた。





昭和十一年四月



凄い奴という鳴り物入りで入ってきた糸川だが入社して一年が経った。

小山の下について殆ど下積みもなしに今や小山のチームの主要メンバーの地位を確固としたものにした。特に彼は翼の設計では天才的な才能を発揮し、同じく若手の太田技師らと共にPEの開発に大きく貢献した。


その糸川だが歳は離れているが大学の後輩ということもあって、飲みに連れて行ってやったり他の技師達を紹介したりと、面倒を見てやっているというつもりは無いが、個人的には親しく付き合っている。

糸川の上司としての小山評は良い上司だそうだ。


私のチームの部下達の私の評判はどうなんだろうか…。


前世で新しいデザインを提出して視察に出て、帰ってきたら新しいデザインは入ってきたばかりの当時の部下だったミコヤンが担当することになり、彼にグレビッチら主軸クラスの部下を根こそぎされて、設計局を大幅縮小させられた事件を思い出した。


ミコヤンはその後私の生きている間は新しいデザインの機体も含め成功しなかったが、その後どうだったんだろうな。


皮肉にも、その新しいデザインの機体は今作っているキ-12と同じ系統の飛行機だと言うのはどういうめぐり合わせなのだろうか。





昭和十一年五月



仕事を終えて社宅へ帰ると誰も居ないはずの家に灯りがついていた。

怪訝に思ったが、消し忘れかも知れないと中に入ると母が来ていた。

そして、もう一人子供の頃に数回会った事のある従姉妹が居た。


母曰く、男子が世帯ももたず一人でずっといるのは世間体が悪いから、そろそろ身を固めなさいとのこと。


従姉妹は結婚していたが夫が中国で戦死し、未亡人になって実家に戻っていたらしい。

まだ二十代半ばと若いので、ずっと一人でいる私の所に嫁がせることにしたとの事だが…。

殆ど知らない相手の所に嫁に行けるものなのか?


従姉妹の話では、子供の頃に会った私に憧れていたとかで、むしろ話がきて喜んでいると言っていた。


その月の内に結婚式を挙げて、所帯を持つことになった。


披露宴には大学時代の知人の他、中島飛行機からも多くの人が祝いに来てくれた。

その中には忙しい中来てくれた小山の姿もあった。





昭和十一年六月



キ-12の試作機の改修が終わった。

三枚羽のハミルトン可変ピッチプロペラを採用し、12.7ミリの同期機銃が二門搭載されいる。

自分で言うのも何だが、自分らしい綺麗な機体に仕上がったと思う。

初飛行で記録した最高速度は500キロを突破し、530キロ近く出た。


早速陸軍で審査して貰うことになり、立川へ持ち込まれた。

しかし、安定性は良好と判断されたが運動性が九十五式戦闘機に劣ると評価され、陸軍のパイロットには不評だったようだ。


複葉機に運動性では確かに劣るかも知れないが、百キロ以上優速であり、上昇性能もこちらのほうがまさるはずだが…。


なんとも納得がいかず、一撃離脱による空戦をテストパイロットに話す。

I-16も結局、一撃離脱を得意としたパイロットがエースとなったのだ。


すると、たまたま所用で来ていた熊谷飛行学校の助教である若松軍曹がキ-12に興味を持ち、乗ってみたいとの希望で乗ることになった。


彼は助教を務めるくらいであるからかなりの航空技術を持つそうだ。


先程の一撃離脱を聞いていたのか、最初のうちは普通に操縦感覚を見ていたが、そのうち速度を活かしての高い高度からの突入離脱。

通常の水平方向での機動ではなく、垂直方向での機動を何度か試した。

そして降りてくると、一言面白いと。

速度、上昇力、急降下性能に優れていれば相手を攻撃することも、また不利となれば振り切って逃げ、仕切り直すことも出来ると。どこかで聞いたことのある話をしたのだった。


それを聞き、陸軍の関係者は将来的な戦術として一先ずキ-12は審査継続とすることになり、追加試作の発注を受けた。






昭和十一年七月



七月一日、小山のチームの作っていたPEの試作機が完成した。


ピンと張った翼はスッキリとした片持ち式低翼単葉で、脚カバーもキ一一の頃より更に洗練され、見るからにスマートで美しい機体に仕上がっていた。


私はその機体を知っていた。


九七式戦闘機。


私が作った戦闘機とかつて中国大陸で戦った日本の高性能機だ。


そして、やっと小山の正体がわかった。


九七式戦闘機の開発者であり、そして恐らく隼、更には私が死んだ年に資料で見た日本の新型戦闘機も彼の手によるものなのだろう。


彼の戦闘機には彼独特のセンスの良さがある。

ひと目見れば彼が手がけたかどうか分かるものは分かるだろう。


私はやっと腑に落ちたと同時に、とんでもないやつが同僚だと肝が冷えた。


まさか、かつてのライバルと、今度は同じ会社でまたライバルをやるとは。

なんとも皮肉な話だ。


ならば、彼とは棲み分けを考えねばなるまい。




1936年7月スペインで内戦が起きた。

ソ連が支援する人民戦線軍と、独伊の支援するファシストのフランコ率いる国民戦線軍との内戦だ。


この内戦で前世では私が手がけたI-15、16が独伊の戦闘機と初めて対面した。

当初は独伊の旧式機に性能面で圧倒していたらしいが、そのうち独伊の新兵器の試験場の様相を呈してきて新型のBf-109等が投入されると圧倒されるということはなかったが、互角の戦いを強いられるようになったのだ。


しかし、あの戦いで苦戦を強いられていれば旧式化しても使われ続けるという事はなかったのではないだろうか。

あの戦いで互角の戦いを見せた為、赤軍は慢心し機種更新を怠ったが、ドイツが攻めてきた時に飛んできたBf-109は速度も武装も別物の性能に化けていた。


さて、前世のわが祖国はどんな戦闘機を作っているのか、見るのが楽しみだ。







やっと主人公は小山技師の正体を知ることが出来ました。


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