第十六話 1939.5 -1939.7 ノモンハン事件 前編
ノモンハン事件の前哨戦です。
昭和十四年五月
一度目の人生の時と同じく、ハルハ川で日満とソ蒙の軍事衝突が起きた。
兵力や装備に勝るソ蒙軍を日本軍が甚大な損害を受けながらも辛うじて押しとどめたという軍事衝突だ。
一度目の人生ではI-15やI-16にSBが投入され、日本側は九七戦と九五戦と空では激戦を繰り広げたと聞く。
初期には新型機である九七戦の運動性の良さやパイロットの質的優位で日本側が優位であったが、ソ連がベテランパイロットをかき集め、そして改良型のI-16を投入した結果、互角と傾き、最終的には日本側に多くの損害を与えたと報告を聞いている。
理由としてはやはり日本側の7.7ミリ機銃では全金属ではなかったが少なくとも防弾装備のあるI-16を撃墜まで至らなかった場合が多かった。
逆に日本側はI-16が装備する射撃速度に勝る7.62ミリ機銃や、12.7ミリ機銃、機種によっては20ミリを搭載していた場合があったにも関わらず、防弾装備は皆無であり、被弾すればそのまま致命傷に陥る場合が多かった。
これにより、日本側は初期の優位を作り出した優れたパイロット達が未帰還となり、戦力を落としていったのではないかとの分析だ。
二度目の人生でも、結局同じ展開で優れた運動性を持つ九七戦の優位に始まったが、全金属製で優れた耐久性を持つI-14を落とすことは簡単ではなく、そして相手は7.62ミリの機首機銃を二挺に12.7ミリの翼内機銃を二挺で武装に勝り、被弾すれば致命傷という不利な状況で少しずつ損害を増やしていくという状況で推移していったようだ。
陸軍航空隊はノモンハンでの状況をみて、ソ連本国の航空隊侮りがたしという危惧を抱いたらしく、急遽96式戦闘機と98式襲撃機を大陸へ派遣する事にしたそうだ。
とはいえ、陸軍のパイロットは運動性に勝る九七戦を評価しているようで、防弾装備や武装の強化を要望している様だが、極限にまで軽くすることであの運動性を実現した九七戦でそれを実現するには再設計が必要だという。
つまり、現在開発中のキ43をというわけなのだが、あれも先に不評だった試作機には防弾装備は無きに等しく、武装は7.7ミリ機銃二挺の貧弱なものだ。
恐らく、現在再設計中の新たなキ43では武装や防弾装備も強化される事になるだろう。
中国南部で戦闘を続ける海軍航空隊は新型機である九六艦戦を駆って奮闘中であるが、航続距離の問題など運用面での不都合が出てきたため、さらなる新型機として十二試艦戦の試作を二年前に三菱と中島に発注していた。
中島は海軍の要求仕様をみて実現不可能だと辞退したのだ。
実際、どこかを犠牲にせねば実現が困難な夢のような要求仕様だった。
そして、三菱のかの堀越技師率いるチームが果敢にも十二試艦戦の開発に挑戦し、一先ずの試作機が先月完成していたらしい。
私は日本機というと陸軍機くらいしか知らないんだが、多分これが噂に聞くゼロ戦なんだろうな。
その、十二試艦戦の開発に論争があったと聞いた。
ちなみに、海軍ともいまだ使用されている九〇艦戦の関係で一応繋がりはある。
九〇艦戦もそろそろ更新される筈なのだが、九六艦戦と併用されている理由はまだ使えるというのもあるのだが、機種更新を拒む熱烈な支持者が居るからだそうな。
その、論争というのがつまりコレの延長の話なのだ。
中国戦線での空戦エースである源田実少佐は海軍航空隊の有力な指導者なのだが、彼が求める戦闘機がまさにその九六式艦戦の様に、ただ一つもっとも重要な特性は格闘戦、空戦性能こそ最も重要な要素であり、それを実現するためには速度や航続力は二の次だと主張しているそうだ。
そして、もう一方、海軍の航空技術廠のテストパイロットであり、優れた戦闘機パイロットでもある柴田少佐という軍人がいて、彼も源田少佐と同じく権威があるそうだ。
その、彼が気に入っていた機体が九〇艦戦であり、彼の求める機体とは速度と航続力だそうだ。
九〇艦戦は継続的な更新の結果、九六艦戦に勝る速度と、増槽を付ければ九六艦戦より長い航続力を持つに至ったからな。
とはいえ、もう旧式機なのは間違いなく、そろそろ更新時期だ。
話は十二試艦戦に戻るが、十二試艦戦の初飛行は無事に成功したらしく、海軍は新型機導入を急いでいるのもあり、試験を重ね今年中に採用に漕ぎつけたいとのことだ。
二人のパイロットの意見を取り入れた戦闘機に仕上がったそうだが、私はむしろあの夢の様な仕様を実現するために何が犠牲になったのかが気になるな。
ちなみに、十二試艦戦はレンチェラーのツインワスプジュニアR-1535をレンチェラー日本で改良したモデルを採用し、海軍はそれに栄という名称を付けた。
本国では八百馬力であるが、日本で改良したモデルは一千馬力弱の出力を出すというから大したものだな。
確実に日本でも技術が根付いているという証拠だろう。
今月、キ44の問題を修正した試作機を陸軍に納品し、陸軍にてテストしたところ振動も収まっていると確認された。
残りの四機もこの仕様で生産することになり、この五機の実戦データをみて必要があれば修正し、年内の採用を目指しているとの事。
やはり、国際状況が切迫しているからだろうな。
昭和十四年七月
陸軍の技研から試験を終えたMK102のサンプルが中島に搬入されてきた。
陸軍の評価は上々で、航空機搭載を考えられてコンパクトで生産性が良いとのことだが、プレス加工が多用されているため、陸軍の工廠にて生産設備を導入して生産するとの事だ。
MK102を元ユモの連中に渡すと、なかなか良さそうだとこちらの評判も良かった。
エンジンの開発は順調で新型エンジンは秋頃には試作品が完成するらしい。
今月、国民徴用令が公布され日本も本格的に戦時体制に突入の様だ。
正直、ベテラン職員が兵士として前線に行き、徴用された女性など素人が工場で働くようになれば一気に精度が落ち、出来ていたことが出来なくなる気がする。
七月二十六日
恐れていたことが起きた。
米国は日本政府に対して日米通商航海条約の破棄を通告した。
これにより、米国相手の貿易が困難になり米国から購入していた様々な製品や原料の輸入が困難となる。
つまり、レンチェラーとの関係も難しくなるということだ。
レンチェラー日本はどうなるんだろうな…。
ノモンハン事件を受け陸軍航空隊は新型機を投入です。
ちなみに、史実よりこの時点でのソ連機はタフで武装も強力です。




