76・両親への報告
シン視点です。
倉庫から出て、街の入り口へは向かわずに更に奥に進み、街を囲む塀の前に辿り着く。
塀の高さは二十メートルくらいだろうか。魔物の襲撃に備えて、高く頑丈になっている。
ルカ様に言われた通りにここまで来たけど、何をするのだろう?まさかねぇ?
「ルカ様、これからどうするのですか?」
「どうするって飛び越えるに決まって………ん?シン、今僕のことなんて呼んだ?」
「ルカ様と」
「…………なんで?」
「そう、お呼びしたいので」
えへ、と笑顔で告げれば、ルカ様はうろんな目つきで見てきた。
「様とかいらないから。呼び捨てでいいから。寧ろ敬語とかもいらないから」
「俺がそう呼びたいんです。すみません」
「……………まぁ、好きに呼びなさい」
軽く頭を下げながら謝れば、ルカ様は諦めたように言った。
「さて、じゃあ行こうか」
「本当にここから行くんですか?」
「……………なんか夜逃げみたいですね。朝ですけど」
サラが怖々と塀を見ながら問い掛け、俺は言い表せないなんとも微妙な気分で呟いた。
前を向いていて顔は見えないけれど、ルカ様から「ふふふ」と不気味な笑い声が聞こえた。
「夜逃げはね、楽しいよ?」
「…………したことあるんですか?夜逃げ」
「うん、三回程」
「そんなに⁉」
顔だけ向けられ、にっこり笑顔で告げられた言葉に思わず突っ込んでしまった。
「だって仕方ないじゃない?追いかけてくるんだもの」
「…………そうですか」
きっと詳しい内容なんて聞いちゃいけないんだろうな。俺の心の平穏の為には。
俺は一人、うんうんと頷いて浮かんだ疑問を消し去る。
すると今まで黙って聞いていたテトが、呆れたようにため息を吐き先を促した。
「ああ、ごめん、テト。行くよ」
そう言ってルカ様は、俺とサラの腰に腕を回して両脇に抱えて、少し腰を落とした。
「え?」
「はえ?」
二人して間が抜けた声が出てしまったけれど、ルカ様は気にした風もなく一気に跳躍した。一回ではなく、途中でもう一度跳躍した。
突然の浮遊感と衝撃に叫びそうになったけれど、喉が引きつって声は出なかった。
ルカ様は一度塀の上に乗って、そのまま外側に飛び降りる。
俺は顔が下を向いていたので、迫り来る地面に恐怖し強く目を瞑る。
だが恐れていた衝撃は来ず、軽くタンっと音がして浮遊感が無くなった。
それと同時に腰を離されたけれど、とてもではないが立つことが出来ず、地面に四つん這いの格好で、煩く鳴る心臓を落ち着かせようとしていた。
ちらりと隣を見ると、サラも同じような格好で項垂れていた。
うん、そうなるよね。
「……せめて飛ぶ前に一言言って欲しかった………」
すっごく怖かった。
少しの間休ませてもらって、一緒に飛び越えたテトにルカ様が、リトに俺とサラが跨がり出発した。
テト達初心者のサラが居るので、ゆっくりめに駆け出す。
コッシュトーの街へ続く街道から外れた森の中に、父さん達が亡くなった場所がある。
父さん達は結局遺体が見付からなかったから、別れをするなら墓に行くよりこちらの方がいい。
森に入って直ぐにその場所はある。
二ヶ月経つからもう襲撃の跡なんて残っていないけど、場所ははっきりと覚えている。
「この辺りか?」
「はい、此処です。この場所で父さん達は亡くなったそうです」
何故か献花を持っていたルカ様から頂いて、木の根本に添える。
サラと並んで手を合わせて目を閉じる。
父さん、母さん、俺達旅に出ます。
父さん達のように、世界を見に行ってくるよ。
だから此処には次いつ帰ってこられるか分からない。生きて帰ってこられるかも分からない。
でもまた此処に帰ってこれるように、俺頑張るからね。今度こそ、サラを守って二人一緒に戻ってくるからね。
それとね、英雄様に出逢えたよ。明確な肯定をしてくれた訳ではないけれど、否定もされなかったから俺は間違ってないと思う。
父さん達の分までしっかり恩返しするからね。
それじゃあ、行ってきます!
目を開けて後ろを振り向いたら、そこにはリトしかいなかった。ルカ様とテトがいない。
「リト、ルカ様は?」
「直ぐに戻るわ。ここで待っていて」
父さん達への別れを終えたサラと待っていると、程なくルカ様とテトが森の奥から現れた。
「何かあったんですか?」
「盗賊が居たから討伐してきた」
え?この短時間で?
「結構な数が居たから、これでここら辺も少しは安全になると思うよ」
「……ありがとうございます」
盗賊の被害が減れば、街の人達も安心するだろうから、良かった。
森を出てコッシュトーの街に向けて駆け出す。
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