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74・仲間として

 座っていた状態から、後ろで寝そべったテトの体に頭を預けるように横になった瑠華は、目を閉じたまま考え事をしていた。

 瑠華のローブのフードから出たマリアとムツキも、テトの体の上に乗って、瑠華の頭の左右に丸くなった。


 「………何を考えている?」


 唐突にテトが言葉を放つ。

 瑠華は目を閉じたまま、微笑を浮かべる。


 「いや、シンはよく見ているなって」

 「ああ……だが主も迂闊すぎると思うがな」


 迂闊というか、気を抜いていたというか、知らずのうちにシンに随分と気を許していたようである。


 「………似てるんだよな~シンって」

 「勇者にか?」

 「あっ、やっぱりテトも思った?雰囲気といい、突っ込みといい、一緒にいて楽しかったよ」

 「その割には興味は持たなかったのね。勇者と似ていたのに」

 「似ている“だけ”だからね。似ているだけでは駄目なんだよ」


 そう、似ているだけ。

 あいつじゃない。

 僕の“唯一無二の友”ではないから。


 「………そういえば伯爵の所で、証拠は見つかったのか?」

 「目を通してないから分からないけど、だぶんね」


 言いながら瑠華は、アイテムボックスから書類の束を取り出す。伯爵の館の金庫から失敬してきたものである。


 「……う~ん……あの男、結構いろいろやってたんだなぁ……盗賊との取引状に、奴隷商への横流しと見返りの奴隷……」

 「悪徳貴族というやつね。それをどうするの?」

 「国王に届けようかなって思ったんだけど、サランヴィーネの領主に渡そうと思う。彼女なら直ぐに動いてくれるだろう」

 「ああ、確かにあの女領主ならやってくれるだろう」


 【カイン】の時、サランヴィーネの港街の領主とは縁があって知り合い、近くに来たら顔を見せに行くくらいには親しくしていた。


 「だが、どうやって届けるのだ?」

 「領主の机に然り気無く置いておく」

 「………流石に怪しすぎでは……」

 「大丈夫だよ。生真面目な彼女なら、証拠の真偽を確かめるくらいはしてくれるよ………一番懸念しているのは、国王の方だよ」


 今もトリロが伯爵でいることが、不思議で仕方ないからね。


 「けどそれは前にも言ったけど、僕達には口出しできる訳ではないからね。サランヴィーネの領主に丸投げしよう」

 「………もう少し言い方を考えなさい」


 テトとリトが深いため息を吐いた。

 瑠華は書類をアイテムボックスにしまって、再び目を閉じる。


 「………主よ、シンとサラは正式に仲間と見ていいんだな?」

 「ああ、これからは“仲間”として一緒に旅をする。そういえばサラにも装備をやらなければ。弓が出来るって言っていたけど、魔法の方はどうなんだろうか?」

 「魔力は強いと思うわね。後は守りを付けた方がいいんじゃないかしら。ダンジョンに連れていくなら、私だけではいざという時、不安だわ」


 確かにそうだ。

 この世界では、なにが起きるか分からないから。用心に越したことはない。

 しかもサラは女の子だ。男とは違う危険もある。


 「誰がいいかな………ネタロウくんにしようかな」

 「ネタロウ、か」

 「ネタロウね。いいんじゃない?守りにはぴったりよね」


 ふざけている訳ではなく、そういう名の従魔がいる。見た目と性質を元に付けた名であるけれど、付けた時は他の従魔達からちょっと責められた。

 付けられた従魔は全く気にしていなかったので、決定となった。


 「装備は〔自然と共に〕〔精霊の恵み〕〔風になる〕、こんなところかな。弓は初めは鉄の弓でいいだろ。服はサランヴィーネの港街で買おう」

 「………過保護だ」

 「………過保護ね」

 「えっ、そう?」


 装備の名を聞いたテトとリトが、呆れた声を出した。

 守り重視にした装備であるからだろう。



 〔自然と共に〕‥‥装備者の存在を曖昧にする。


 森の精霊石、(りょく)晶石を使って造られた上着。フード付きのポンチョのような形をしている。

 森属性魔法『フォレストウォール』と同じ効果を持つマジックアイテムで、認識されにくくなる。魔物だけではなく、人間や普通の動物、精霊や幻獣にまで効果は及ぶ。

 ただし完全に隠れられる訳ではない。あくまで認識されにくくなるだけである。装備者が相手に認識されるような行動を取ったり、最初からそこにいると認識されていた場合は、効果はない。



 〔精霊の恵み〕‥‥魔法に補正がかかる。魔法威力向上中


 これは説明そのままの白い腕輪である。



 〔風になる〕‥‥足が速くなる。


 風の魔石が付いた赤色のブーツ。

 説明はざっくりしているが、効果はばっちりで馬と並走できるくらいには、速く走ることが出来る。

 ただし慣れが必要。



 装備はほぼ新品同様だから大丈夫。従魔も問題はない。


 「……そろそろ寝るよ」

 「うむ、そうだな。さっさと寝ろ」

 「おやすみなさい」


 横になったまま、夜の祈りを捧げる。

 神父様が見ていたら、一時間は説教をされそうな格好である。

 寒くないように、と自分の身体に沿うようにぴったりと寄り添って寝たリトの体を撫でながら、瑠華は眠りへと落ちていった。

 









 太陽が上り始める前、空がまだ薄暗い時間。


 「おはようございます」

 「………おはようございます」

 「……ふぅ、おはよう」


 狭い倉庫内で瑠華が朝の訓練をしていたら、シン達がマジックテントから出てきた。

 瑠華は訓練を切り上げ、身支度を整える。


 「よく眠れた?」

 「うん、大丈夫だよ。リト」

 「……大丈夫、です……」

 「ふふ、サラは朝が弱いのかしら」


 しっかりと身支度は整っているのに、サラは寝ぼけ眼でボーとしていた。それをシンが横から支えている。


 「………朝はどうにも、だめなんれふ……」

 「なんというか、すみません」

 「ふふふ」


 身支度を整えた瑠華は、大きな布を取り出して床に敷き、その上に料理を十分な量を出す。

 そうしてからマジックテントをしまう。


 「さて、食事を済まそう。早く街を出たいからね」

 「はい、分かりました」


 全員でしっかりと食事をして、後片付けをする。

 瑠華は昨日考えていた装備をアイテムボックスから取り出す。


 「サラ、これを君に」

 「えっ、これは?装備ですよね?」

 「そ。服はサランヴィーネで買うから、取り敢えずはそれで我慢してね」


 サラは瑠華に差し出した装備を両手で受け取った格好のまま、困った顔で立っていた。

 瑠華は気にした風もなく、後ろに下ろしていたもっこりと膨らんだフードに手を伸ばす。


 「それとこの子を君の守りにつける」


 瑠華がフードから掴んで取り出したのは、ころり丸っとした薄い桃色の兎である。




 ネタロウ=アット

 ランクB フォルウサリー 女の子

 薄い桃色一色の毛を持つ兎。魔物であるが、性格は穏やかで人を襲わない。精霊が支配する深い森の奥深くに住んでいるので、あまり知られていない魔物でもある。

 ほとんど動かずに同じ場所でじっとしており(ほぼ寝ているらしい)、食事は十数日に一度で大量の植物を食べて、また寝るというのを繰り返している。

 危険察知能力は非常に高く、三キロ圏内の外敵の気配を常に関知しており、自らが捕食の対象にされたなら高速で逃げる。従魔の場合は、危険を知らせてくれる。

 森属性と無属性の結界を扱える。




 「フードに入れて、絶対に離れないでね」

 「は、はい。分かりました」


 サラが着替えるのを待つ間に、シンと話をしておく。


 「シン、ここには何時帰ってこれるか分からないから、ご両親に挨拶しておいた方がいい。お墓は何処に?」

 「そう、ですね。墓は街の裏にありますが、両親が死んだ場所に行きたいです。コッシュトーへの道から少し外れますが、いいですか?」

 「ああ、それは構わないよ。他にはなにかある?」

 「後一つだけ、コッシュトーの街で逢いたい人がいます」


 了解、と瑠華は頷く。


 準備が整ったサラと横に立つシンと、向かい合わせに瑠華は立ち、改めて確認をする。


 「ではこれから出発するわけだけど、改めて二人に問う。本当にいいんだね?僕と一緒に旅に出て」

 「はい、よろしくお願いいたします!」

 「よろしくお願いいたします!」

 「よし!今日から僕達は仲間だよ。よろしくね」


 三人で頭を下げる。


 「というわけだから、僕もお前達への“全て”を変えるからね」

 「………全て?」

 「………具体的には?」

 「全部だよ。まぁ、それはおいおいに、ね」


 瑠華のにっこり笑顔を見て、何故か青ざめて引きつった笑みを浮かべるシンとサラ。


 「ふふふ、出発しよう」


 一人だけ楽しそうな笑い声が、狭い倉庫に響いていた。







読んで頂いてありがとうございました。

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