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70・見限られた街 その三

 「………アイズコレクター?」


 シンが、意味が分からないという風に呟く。


 「そう、アイズコレクター。その名の通り、人間の瞳を集めている悪趣味な収集家のことだよ」

 「………なんの為に瞳を?」

 「大抵の収集家には特別な理由なんかないと思うけど。アイズコレクターの場合ならその“瞳の色”だね」


 恐らく間違いないと思う。




 ルッシャート王国には変わった、悪趣味な収集家が多いことは他の国では有名である。

 レアな魔物の素材、精霊石、死体、奴隷など様々な収集家が存在している。

 その中に瞳収集家(アイズコレクター)がいると聞いたことがある。名前までは聞いたことが無かったが。





 「シン、君の瞳の色はとても珍しい色をしている。妹も同じ色をしているんだろう?」

 「………はい」

 「だったら妹を借金の型として奴隷にした理由も、君を殺さずに連れてこいと言っていたのも納得できる。そして僕のこともね」


 はぁ、と瑠華は心の底からため息を吐く。


 マリアが不愉快そうに、バサバサと翼を広げている。


 「主の瞳も美しい橙色ですものね。だから主を奴隷にと言ったのね」

 「というのが僕達の意見だがいかがかな?」


 未だにテトが上に乗って押し付けているので、起き上がれずにいるトリロ伯爵に問いかける。


 「あ、ああ、そうだ。私は昔から美しい色の瞳を見るのが好きでね。以前は顔が邪魔だったから殺して瞳だけを取り出していたが、今は感情によって瞳の色が変わることに気付いてね、殺さずに奴隷にしているんだ。

 だから君達にも不自由な生活はさせない。ただ奴隷となって、私をその美しい瞳で見続けていてくれればいいんだ。悪い話ではないであろう?」


 どこがだよ。そんな話を二つ返事で受け入れる人間が居たら、逢ってみたいね。



 「ここまで来たんだ。疑問は全て解決しようか?先ずは……ああ、取り敢えずシンの妹は元気で無事でいるよな?」


 これを先に確認しなくてはね。


 「も、勿論だ。元気にしているとも!」


 トリロ伯爵の言葉を聞いて、シンが安心したように息を吐く。


 「次はシンの両親のことか。盗賊に殺されたらしいが、お前が指示したのか?」

 「………え?」


 トリロ伯爵に向かっての質問に、シンが声を上げて瑠華を見る。


 「この男はお前……じゃないか、妹の瞳が欲しかったんだろう?で、両親は盗賊に殺された。そして盗賊と伯爵は繋がっている。そこまで揃っていたら伯爵が絡んでいると考えるだろ。というか絡んでるよな?」


 もう一度問いかければ、トリロ伯爵は焦ったように口を開く。


 「わ、私は指示などしていない!」

 「………ほぉう…………テト=クラーラ」


 主の意思を明確に理解したテトが、トリロ伯爵の胸に置いている前足に力を込める。


 「ぐぇぇ!ほ、本当だ!私はただあやつらの前で言っただけだ。こやつの妹の瞳が欲しいと」

 「では、盗賊達が勝手にやったと?」

 「そうだ!」

 「…………はぁ、リト=サージュラ」


 テーブルの上に乗っていたリトを呼ぶと、彼女は心得たようにトリロ伯爵の足元に降りて前足を振り下ろす。


 「それを、指示したっていうのよ‼」

 「ぎゃああああっ!」


 足首に振り下ろされた前足は、鈍い音を立てて骨を粉砕した。トリロ伯爵の悲鳴が部屋内に響き渡る。


 「で、盗賊が勝手にやって?妹が手に入る状況が転がっていたから動いたと。でも一つ分からないのが、なんでシンに炎晶石を持ってこいなんて言ったんだ?シンだって妹と同じ色を持っているだろう?」

 「私は同じ色は持たない主義だ!」


 胸を張って言うことじゃねぇな。



 成り行きを見ていたシンも、あまりにもくだらない理由に、怒りと共に悲しみが溢れたような顔をしていた。


 「私はそやつには興味がなかった。欲しかったのは妹の方だったからな。だから私の前から消えてもらう為に、炎晶石を持ってこいと言ったんだ。だが、そやつが行ってしまってから思い直し後悔してな、まだ近くに居るかと思って部下達に捜させたのだ。無事で良かった………」



 この男は、どこまで僕達を不快にさせれば気が済むんだ?



 「街で聞いたんだが、シンについての噂を流したのは?」

 「あれは街の連中が勝手に言い始めたことだ。私ではない」


 ふーん………これは嘘は言ってないな。



 「シン、他に聞きたいことはある?」

 「………………あんたは一体何をしたんだ?」


 もうトリロ伯爵に一応の敬意すら示すこともせずに、シンは問いかける。


 当然だろう。この男のくだらない趣味のせいで大切なものを失ったのだから。



 「あんただと⁉き、貴様、誰に向かって……ぐぇぇ!」


 トリロ伯爵が醜く顔を歪め怒鳴ろうとしたが、テトが更に前足に力を込める。


 「おぉ、そういえばそれもあったな!で、何をしたんだ?」


 ぽんっと手を叩いて声を上げたら、従魔達から冷たい視線を頂きました。

 

 「な、なんのことだ?」

 「どうしてジルトニア皇国皇帝陛下、エヴァン=ウェイン・キュリス・ディザーレウェハス様のご不興を買ったのか聞いている」

 「そ、それは…………」

 「……英雄カイン・フューナ・フィンランディ様を侮辱したって本当なのか?」


 久方ぶりに聞いた自分のフルネームに、背中がむず痒くなった。


 「ついでに精霊王達の不興もか」

 「いや、ついでって………」


 シンが思わずといったように突っ込みをした。


 「シン、話の腰を折るんじゃない」

 「あ、すみません」

 「…………で、何故だ?」


 テトが再度問いかけるが、トリロ伯爵はなにやらもごもごと言っているだけで答えようとしない。


 「ふむ、次は掌でも粉砕してみるか?」

 「ひぃぃ‼言う、言うから止めてくれ‼わ、私はただフィンランディ公爵に頼んだだけだ!」

 「と………フィンランディ公爵様に?」


 あぶねぇ‼父様って呼びそうになっちゃったよ‼


 「ああ、英雄の美しい黄金の瞳をくれと!」

 「「「「「………………」」」」」



 ……………この男は今、なんて言った?



 「英雄は死んだんだ!どうせ土に埋めてしまうなら、私が貰っても構わないではないか‼ただ死体から抜き取るだけなのだから‼」





 直後、ドンっという音が響き渡り、部屋に充満する魔力が更に濃くなって空気を凍てつかせる。


 「マリア=ツェーレ‼」


 瑠華の呼び掛けに、はっと気付いて魔力を抑える。

 瑠華はとうとう魔力の重圧に耐えられずに呼吸困難に陥ったシンを、結界で覆う。


 「すまない、シン。最初からこうすればよかったな」

 「はぁ、はぁ、はぁ………い、いえ」


 シンが取り敢えず落ち着いたので、肩に乗っていたマリアを腕に抱き、顔の前で目を合わせる。


 「マリア=ツェーレ」

 「……だって………」

 「大丈夫。怒っていないし止めるつもりもない。ただこの場にはシンがいるから、気をつけてあげてね?」


 こくりと頷き、瑠華の肩からシンの膝に飛び移る。


 「ごめんね、シン」

 「ううん、大丈夫。マリアの気持ちは分かるつもりだから」



 瑠華はトリロ伯爵に近付き、頭の横に膝をつく。


 「マリア=ツェーレ、テト=クラーラ、リト=サージュラ、ムツキ=ルーン、皆落ち着いてね?」


 従魔達の名を一人一人呼び、冷静になるよう促す。



 いや、怒ってくれるのは純粋に嬉しいんだよ?でも話は最後まで聞かないとね。どうするかはそれからだ。



 「さて、先程の口振りだと英雄が埋葬される前に言った感じに聞こえるんだが、いつ言ったんだ?」

 「勿論、英雄が死んでから土に埋められる前にだ。埋められてからでは遅いし、面倒なのでな」

 「………具体的には?」

 「葬送式の時だ」

 「「「「「……………」」」」」


 よりにもよって葬送式かよ⁉もうこいつ本当になんなの⁉


 「………もしかしてその場にはエヴァン様を初め、皇家一族、フィンランディ家一族、勇者一行、各国の王や各種族の王とか居たりした?」

 「ああ、いたな」


 ……それがどうした?って顔で見ないでくれ………


 「…………信じられない……」


 シンが呆然と呟いた。瑠華もあんまりな事実にもの悲しくなってしまった。



 申し訳ありません、父様、母様……



 取り敢えず、遠い地にいる両親に謝罪しておく。



 「フィンランディ公爵領の墓地に現れた墓荒しも、お前の指示か?」

 「……………」


 時として、沈黙は“肯定”の意味を持つ。

 これが正にそれだろう。




 「……私はきちんと交渉したんだ!報酬も用意した。なのにフィンランディ公爵は怒り、周りも私を責めた。私はただ英雄の、あの美しい黄金の瞳が欲しいと言っただけなのに‼

 なのに国王まで私を責め、私がこれまで人生をかけて集めた瞳を全て燃やした。私の目の前で‼」


 トリロ伯爵は箍が外れたように、駄々っ子のように癇癪を起こした。



 自分は悪くないと。交渉に応じなかったフィンランディ公爵達が悪いのだと。



 「はぁ、もうお前、黙れ」


 瑠華は言いながら立ち上がり、トリロ伯爵の米神を蹴る。頭を砕いてやりたかったが、意識を狩るだけで止める。




 「はぁ、まさかそんなことが起こっていたなんてな」

 「………この男はどうする?」


 テトが気絶したトリロ伯爵の上から退いて、瑠華に尋ねる。瑠華は暫し考えて口を開く。


 「どうしてこいつは、まだ伯爵の地位にいるんだろうな?普通、そんな国の面目を潰すようなことをしたら、取り潰されてもおかしくないのに」

 「シンはなにか知らないの?」

 「トリロ伯爵家は結構古い名家のようですから、そのせいではないですか?」

 「体面を重んじる貴族ならあり得るけど………こればかりは僕達が口を出せることではないか」


 こういうのは上の方々の仕事だからね。



 「ふんむ、こいつはここに縛って転がしておけばいいか」

 「殺さないの?」


 マリアがつぶらな瞳で瑠華に問いかける。


 「これでも伯爵の地位にいるから、殺したらこちらが罪にとわれる。だから盗賊と通じていた証拠を、サランヴィーネの騎士団にでも渡せば捕まえて法の裁きを与えてくれるだろう…………恐らく。かなり不安だが。シンはどうしたい?」

 「………俺は妹が無事ならそれでいいです。とても悔しいですが………国王様のご判断に従います」

 「………そうか」


 シンの頭を一撫でして、アイテムボックスからロープを出して、適当な柱にトリロ伯爵を縛り付けておく。直ぐに伯爵の部下達が解放するだろうけど。


 マリアに空間魔法を解いてもらい、部屋を出ようとドアに視線を向けて止まる。

 シンの妹の居場所を知らないことに気付いた。


 「まぁ、気配を探ればいいか」

 「なにがですか?」

 「シンの妹の居場所」

 「それならば直ぐに分かる。この屋敷には、シンによく似た匂いがある。恐らく、これがシンの妹だろう」


 テトがそう言ったので、彼に先導を任せることにする。

 シンは若干顔色が悪いが、返事ははっきりしていたので大丈夫だろう。

 リトはシンの影へ、マリアとムツキは瑠華のフードへと移動する。

 瑠華はフードを目深に被り直して、テーブルの上に放置されていた炎晶石を布で包み、アイテムボックスにしまう。


 「持っていくのか?」

 「ああ、伯爵には必要ないみたいだし構わないだろ、別に」




 部屋を出てテトに続いて歩いていく。屋敷の中にはそれなりの人の気配がするが、すれ違うことはほとんどなかった。

 皆テトを見て逃げていく。



 「ここだ」


 屋敷の大分奥の部屋の前で、テトは止まり振り返る。

 テトに一つ頷いて撫で、ドアに手をかける。


 かちゃりと音を立てて扉が開くが、即行で閉める。そして斜め後ろに立っていたシンに顔を向ける。


 「どうしたんですか?」

 「…………これを持って先に中に入って。大丈夫になったら、呼んで」

 「?……分かりました」


 頭に?マークを浮かべ首を傾げて、瑠華がアイテムボックスから出した服をを受け取り、ドアを開けるシンを見守る。部屋の中が見えない位置に移動して壁に凭れかかりながら、瑠華は小さくため息を吐く。


 シンが部屋に入って、テトは瑠華に向き直る。


 「どうした?」

 「部屋の中のベッドの上に、全裸の女の子がいた。あの子がシンの妹だろう………」

 「…………ああ」


 テトが納得したような声を出して、その後笑いを押し殺すように下を向く。

 瑠華はもう一度深くため息を吐いた。









読んで頂いてありがとうございました。


次は4日の20時にする予定です。


感想を書いて頂いてありがとうございます。返事は作者が落ち着きましたら、書きたいと思います。申し訳ありません。

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