63・差し伸べられた手は
「ソロウ殿、その男を護衛に雇うのはそちらの勝手ですが、我々への報酬も忘れないで下さいよ」
ソロウと瑠華の話がつき、出発しようとした時に護衛の一人が近付き話しかけてきた。
瑠華はその様子に堪えきれないため息を溢す。
「ろくに護衛も出来ないくせに、口だけは達者だな。まぁ、いい。契約分は払ってやる。分かったらさっさと出発するぞ」
「……………分かりました」
何故、僕を睨む?
護衛達はソロウと話している最中も、ちらちらと瑠華を睨み付けている。フードを目深に被ったままだが、瑠華は首を傾げて護衛を見つめ返した。
その仕種も気に入らないのか、ますます眉間の皺を深くし睨み付ける。
だが瑠華は直ぐに興味を無くし、テトを撫でながら戯れる。
男と見つめ合っても気持ち悪いだけだしね?
その後特に何もなくすんなり出発出来た。散乱していた物は適当にかき集めて馬車に乗せたようで、馬車が揺れる度にがしゃがしゃと音を立てている。
それをスフィールが時々声を出しながら片付けているようだ。
「馬車の中の物は商品だろう?いいのか、あんな風に扱って?」
「…………さあ?」
テトはタムタムと歩いているので、乗っている瑠華は景色を見ながらぼへぇっとしていた。
こんな状態でも警戒はしっかりしているので、テトも何も言わない。
瑠華のフードの中のマリアとムツキも、瑠華の肩に頭を乗せてまったりしていた。
というわけで二日経ち、遠くの方にコッシュトーの街の城壁が見えてきた。
ここまでの道中、魔物の襲撃はあったが全て問題なく返り討ちにしてきた。魔物は瑠華とテトのみで相手にし、他の護衛には馬車の守りにだけ集中してもらったので、素材等は一切合切瑠華が遠慮なくアイテムボックスに入れた。
護衛達が青筋浮かべて見ていたけど、スルーした。
護衛達はそれも気に入らないようで、この二日間終始、瑠華を睨み付けていた。
君達、仕事しましょうね?
それも後少しで終わる。
だが瑠華とテトは、街に近付くにつれ不穏な気配を感じていた。と言っても魔物とかではない。嫌な予感とでも言えばいいか。
コッシュトーの街にリトだけではなく、シンの気配がしている。まだこの街に居るらしい。
「リトは兎も角、シンがまだコッシュトーの街に居るのは何故なんだろうね?」
「シンのあの様子なら、直ぐにでもマレッティの街に帰りそうだったのにな?」
「何かあったのかしらね?」
「きゅ?」
マリア達も不思議に思ったのか、会話にまざる。
ちなみにムツキは首を捻っていて可愛すぎるので、思わず頬をすりすりしてしまった。
「とりあえず厄介な事が起こったっぽいのは、確実なんだろうね、きっと」
「相変わらずのトラブル引き寄せ体質で安心していいのか、呆れればいいのか迷うな」
「主が変わってなくて嬉しいわね、私は」
「きゅ!」
「そこはスルーするのが優しさだよ」
暢気に会話をしていたら、もうすぐ目の前までコッシュトーの街の門が見えていた。
人は並んでおらず、直ぐに入れそうだ。
テトから降りて体を一撫でし、影に入ってもらった。影に入るところは馬車に隠れて他の者には見えていない。
なので突然消えたテトに驚いていたが、瑠華は気にしない。
「通行証の提示をお願いします」
「はい、こちらです。他の者はわたくし達の護衛になります」
商隊の場合、代表者が身分証と護衛を雇う際に交わす冒険者ギルドや傭兵ギルド(あるんです)の正式な書類を見せればいい。
これがあればもし護衛達が街で問題を起こしても、雇った商隊かギルドが責任を問われる。
今回の瑠華の場合は、道中での口約束なので一応瑠華も身分証を提示した。勿論その時にはマリアとムツキに、〔従魔の首飾り〕を着けている。
「確認しました。ようこそ、コッシュトーの街へ」
兵士から身分証を受け取り門を潜る。門から少し歩いた所で立ち止まり、ソロウに話し掛ける。
「では僕はここで失礼する」
「はい、ここまでありがとうございました。こちらが約束の物でございます」
小さな袋を渡され中身を確認すると、確かに金貨が五枚入っていた。
その間護衛達は、瑠華の手元を凝視していた。
「………確認した。では」
小さく会釈して踵を返す。護衛達のことは気になるが、今はどうでもいい。
足早にリト達の気配がする方へと進む。リト達の気配は大通り、街の中心から外れた場所にある。
気配を追って行くと、どんどん人気のない場所に進んでいく。所謂裏通り、どんな街にも大小差はあれど存在するスラムへと。
「なんで態々こんな場所にいるんだ?」
「さあな」
スラムの入り口だと思われる、明らかに雰囲気が変わる通りの前で一旦止まる。入ろうと足を踏み出しかけて留まる。
リト達の気配があちらから近付いてくる。
数分もしないうちに姿が見えた。
「主」
「リト、ご苦労様。なんでこんな場所に?」
「説明は後でするわ。それよりほら、シン」
リトに促され、シンが恐る恐る顔を上げ、真剣な表情で瑠華を見つめた。
「…………今まで散々お世話になってお礼もまだなのに、ルカさんは俺が差し出した手を取ってくれますか?」
瑠華は見上げてくるシンの目をちゃんと見る為に、目深に被っていたフードを少し後ろにずらす。
そしてシンの目と目を合わせて笑う。
「ああ、取ってやるよ」
シン、君が差し出した手なら僕はその手を取るよ。
それも一つの“切っ掛け”だからね。
読んでいただいてありがとうございました。




