45・ヴァルザ火山 その三
『人間がここまで来るとは珍しい…………』
その声は頭の中に直接響いた。
けれど警戒することはない。何故ならその声の主を知っているからだ。
以前ここに来た時、逢って話をした。
火の精霊。
ただしここを支配しているわけではない。あくまでも“住んで”いるだけだ。
尤も火口付近は彼の領域。この辺りには魔物も近寄らない。
あの時とは姿が違うから僕が【カイン】だとは気付かないだろう。従魔達もいなく、一人だったし。
「失礼いたします、火の精霊様。僕達はここを穢す為に来たのではありません。探し物をしに参っただけですので、お怒りを鎮めて下さい」
少し上に浮かぶ、二十代前半の男性の姿をした火の精霊に頭を下げる。
精霊は初めから不機嫌丸出しで、瑠華達の存在にイラついているようだった。
ただその原因は瑠華達ではない。
まぁ、彼が不機嫌な原因は分かっているから、これ以上刺激しなければ大丈夫だろう。
『フム、人間にしては殊勝な奴だな。まあ、いい。我は機嫌が悪い。さっさとここから立ち去れ、人間』
精霊は吐き捨てるように言うと、消えていった。
その姿を見て、瑠華は小さく息を吐く。
「ふぅ、彼も相変わらずの人間嫌いだね」
「火の精霊様がいたんですか?俺達が勝手に入ったからお怒りだったんですか?」
「確かに彼は不機嫌そうだったけど、僕達に対してじゃないよ。恐らくここにダンジョンができたせいだろう。ダンジョンができたせいで、魔物が活発化しているからね」
「そうですか」
実際、本来なら火口には近付かないはずの魔物が、近くまで来ていた。
火の精霊がイラつくのも仕方のないこと。
「シン」
「はい」
瑠華はシンと向き合い、ここに来た目的を話す。
「僕の探し物はあのダンジョンだ。これから入って“核”を破壊するつもりだ。君はどうする?」
「俺、ですか?」
「ここまで炎晶石は無かった。他の二つの道にあるかもしれないから、探すならリトをそのまま護衛につける。諦めて村に帰るなら、村までリトに送らせよう」
「……………」
シンは目を閉じて深くじっと考えていたが、直ぐに目を開けて真剣な顔で瑠華を見つめる。
「ダンジョンに入るんですね?だったら俺も連れてって下さい。お願いします!」
勢いよく頭を下げ、懇願する。
「これだけ“火の魔素”が充満しているのに、炎晶石の欠片もないのはダンジョンができたせいなのかもしれないね。だったらダンジョンの中にある可能性が非常に高い」
「はい、ダンジョンでは鉱石も精霊石も発見されますから」
「火山の中に、しかもこんな火口付近にできてたらまず間違いなく火属性のダンジョンだろうしね」
瑠華は低い位置にあるシンの頭を、優しく撫でる。
「入るのはいいけれど、あのダンジョンはSランクに相当すると聞く。今まで以上に気をつけるように。流石にSランクになると、僕もテトも君を気にしてる余裕はないからね」
以前なら、なんて言うのはバカげてるから言わないけどね。
シンがしっかりと頷くのを見て、瑠華も頷き返す。
ダンジョンの入り口までは、少し危険だがなんとか足場がある。慎重に歩き入り口の目の前まで来た。
「じゃあ、皆いい?入るよ!」
「はい!」「おう」「ええ」
入り口に足を踏み入れると、ダンジョン特有の違和感を感じる。空間の転移魔法によく似た、今までいた場所から別の場所に飛ぶようなそんな奇妙な感じ。
そこは洞窟だった。ダンジョンにおいて大体は、洞窟か部屋のような場所になっている。時おり草原や森に出ることもあるけれど。
「……………涼しい?」
「いや、今までが暑すぎたからそう感じるだけだと思うよ?」
目の前にマグマが流れてるような場所から離れたら、何処だって涼しく感じるだろう。
瑠華は〔穏やかな風〕の効果で暑さは感じず適温だが、通常よりは暑いと思う。
なにせ“火の魔素”が充満している。火山の中と同じくらいには。
シンのみが自然の熱を感じている。瑠華と従魔達は装備品でズルをしているからだ。
でもこれも仕方ないことなのだ。「快適機能」が付いている装備品は、〔穏やかな風〕しか瑠華は持っていない。
ごめんね、と心の中で謝っておく。一応。
瑠華はシンが倒れないように気にはしている。ちょっとズルをしている罪悪感があるので。
「―――――っ!」
ダンジョンに入った瞬間に感じていた強い殺気が、近づいてくる。
流石、Sランク。一階層目から、強い魔物がいる。やはり油断はできないな。
瑠華はもう一度、自らを鼓舞するように深呼吸をし意識を高める。
読んでいただいてありがとうございました。
私事で申し訳ありませんが、今週は投稿出来そうにありません。来週からまた毎日投稿をさせて頂きます。
今日のは書けた所までなので短いです。来週の再開の前に見直しと加筆すると思います。
いつも読んでいただいてる方には本当に申し訳ない気持ちです。すみません。




