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35・少年、発見!

 ヤカサルの村を素通りし、ヴァルザ火山の入り口を目指す。

 途中直径一キロにわたり焼け野原になっている場所があった。村の目と鼻の先で、恐らくあそこがフレアレックスとの戦闘の場所。

 村の方も遠くからだが、いくつか煙があがってるのが見えた。夜明け前なら村人は寝てたはず。

 騎士団だけじゃなく、村人にも被害が出ていそうである。




 村を過ぎて三十分程走ると、ヴァルザ火山の入り口近くに来たのでテトから降りる。入り口にいるであろう騎士から、こちらが見えない位置に隠れてそっと覗き見る。


 騎士が四人。剣が二人、槍が二人、フルプルートで全身を覆った騎士がいた。なんというかピリピリといった、苛立ってる空気を感じる。


 「………………入れてくれそうな雰囲気ではないな」

 「そうだな、あの様子ではムリだろう。どうやって入るつもりだ?」

 「あの騎士達をボコって……………………冗談だよ。前足振り上げないで」


 テトがもふっとした前足を上げたので、急いで否定しておく。


 「そんなことするわけないじゃない。面倒事にしかならないのは目に見えてるのに」

 「それもそうだな。主は面倒事が嫌いだからな」


 そこで納得するんだねぇ………


 「ヴァルザ火山の右に広がる林に、一ヶ所だけ飛び移れる場所があったはず。そこから行く」

 「分かった」


 確かに林には、ヴァルザ火山に飛び移れる場所がある。ただし十メートルくらい離れているので、常人にはムリだろうけれど。



 まぁ、僕なら問題ない。



 ただ大回りに迂回しなければならないし、林の手前にヒカエルの生息域が広がっている。

 面倒くさいが仕方ない。


 騎士に見つからないように離れて、再びテトに跨がり草原を駆ける。入り口からいくらも離れていない場所に来た時、瑠華は一つの気配を感じた。


 「テト」

 「ああ、主も気付いたか?」

 「人の気配がする?」


 別に普通の時ならおかしいことではないが、今は魔物が強くなっていて、倒したけれど希少種が、まだいるかもしれない異常種が発見されるような地域だ。冒険者かもしれないけど気配は一つだけ。無謀すぎるだろう。


 瑠華は自分の事は、棚の上に丸投げする。


 人の気配がする方向に向かっていくと、ファイアーファングが五体、こちらに背を向けていた。

 その向こうに一三、四歳くらいの少年が見えた。


 「子供?」


 少年は右手に鉄剣を握りファイアーファングと対峙しているが、左肩に噛まれたのか酷い傷があり、力なく下がった左腕を伝って地面に赤い染みを作っていた。


 少年の目には、強い意思があり生きようとする思いが見えるけれど、どうみても劣勢で勝てる見込みはほぼない。


 無謀にもこんなところに一人で来て、自業自得な気がするけれど見てしまったのなら仕方ない。



 助けるか。


 「テト」


 テトの名を呼べば心得てるように一つ頷き、ファイアーファングに向かって力強く鳴きこちらに注意を向ける。


 ファイアーファングはテトに気付き、威嚇するように各々が鳴き声を上げる。

 少年はこちらを見て、集中が途切れたのか崩れるようにその場で倒れ気を失った。


 「あ~あ、やれやれ…………テト、左二体任せた」

 「うむ」


 テトから降りて、右の三体を視界に入れる。

 アイテムボックスからミスリルの剣を取り出す。ファイアーファングならこれで十分だ。


 初めに飛び出してきた一頭を抜刀の勢いで首を切断し、後ろにいた二頭も同様に首を切断する。



 首なし死体の出来上がり。

 日本では猟奇殺人(人ではないけれど)事件の現場のようだ。



 死体をアイテムボックスに入れテトを見る。あちらも終わっていてお座りしていた。テトに近づき頭を撫でて、こちらの死体も入れておく。


 辺りを見回して、他の魔物の気配がしないか確認する。どうやら近くにはいないようだ。


 そうしてから瑠華は、少年に近づき様子を見る為仰向けにする。

 少年は苦しそうに荒い息をしている。左肩の服を破り傷を診れば、かなり深く噛みつかれたようで牙の後がくっきりと残っていた。よく食いちぎられなかったもんだ。


 アイテムボックスから上級傷(しょう)回復薬を取り出し傷口にかければ、数秒で傷は塞がり綺麗な肌になる。





 この世界の回復薬には(しょう)、体力、魔力、状態といった種類がある。それぞれその名の通りの効果がある。

 これ以外にもあるけれど、主要はこの四つ。


 (しょう)回復薬‥‥傷を治す。包丁の切り傷から裂傷、噛み傷に魔物の爪による傷などを癒せる。この薬は体内なら飲んで、外傷ならかけて使う。

 ただし傷が腐ってる、壊死していると治せない。


 体力回復薬‥‥体力を回復する。ただし直ぐにではなく徐々にである。回復する速度は薬の効能により変化する。


 魔力回復薬‥‥魔力を回復する。ただし直ぐにではなく徐々にである。回復する速度は薬の効能により変化する。


 状態回復薬‥‥状態異常を治す。ただし精神系は治せない。腐ってる、壊死しかけている状態も治せる。完全な壊死は治せない。


 回復薬には下級(銅貨一枚前後)、中級(銅貨五枚以上)、上級(金貨一枚以上)、最上級(金貨三十枚以上)とあり、上級や最上級を持っているのは冒険者なら世間に名を馳せる一流か、貴族や王族くらいだ。


 上級の市場価格がはね上がるのは、上級になると珍しい薬草を使用するからである。


 街の中で普通に暮らしている分には下級回復薬があれば十分で、一般家庭にも常備されている。



 閑話休題




 この少年の傷はかなり(えぐ)られていたので、上級傷回復薬を使った。



 アイテムボックスにはありとあらゆる大量の薬が入っている。何故なら調合を極めようとアホみたいに自重などしないで作っていたので。

 素材は店で買ったりしていたが、殆ど自分で調達していたのでお金はそれほどかかってない。

 流石に最上級は素材があまり揃わなかったので、数はそれほどないがそれでも売れば、小さい国なら潤うんじゃないかなってくらいのお金にはなりそう。



 少年の息は大分落ち着いたが、顔色は青白い。

 傷は塞がっても失った体力と血はそのままだ。体力は体力回復薬、血は増血剤(一応あります)でいいとして、気を失ってるから起きてから飲ませた方がいい。


 少年はちょっと直ぐには起きそうにない。



 このままヒカエルの生息圏に入りたいけど、今どうなってるのか未知数だからこのままの少年を連れていくわけにもいかない。


 捨てておきたい思いにかられるが、そんなことはしない。しちゃいけない気がするのでしないのだ。




 仕方ない。ヤカサルの村に行こう。

 入るのも出るのも面倒な事になりそうな予感がするけれど、本当に仕方ないから諦めよう。


 「テト」

 「断る」

 「………………まだ何も言っていないんだけど?」


 少年を診てる間、横でじっとお座りしていたテトの名を呼んだら断られてしまう。



 少年を背中に乗せてほしかったんだけど。

 まぁ、断られるのは予想してたけど。


 「言わなくても分かる。だから断る」

 「そんなにイヤ?」

 「我は主以外、背に乗せない」


 その断固たる想いが伝わる言葉に、苦笑いをする。

 その言葉も想いも以前から全く変わらない。嬉しい気持ちが込み上げるが、今の状況では悩みの種だ。


 「はぁ、分かったよ。僕が背負っていくから魔物は任せたよ。テト」

 「ウム、任せろ」


 少年を背負うと、潰れてしまうのでフードの中にいたマリアとムツキには出てもらいテトの背に移ってもらった。

 そんなに速く走らないから振り落とされないだろう。


 少年を背負い、テトの先導で村へと駆け出した。






 

 


 

読んでいただいてありがとうございました。


回復薬の説明は後で修正するかもしれません。

スミマセン…………

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