14・残された者達
カーウェン鍾乳洞のその後です。
静葉視点です。
分かりにくい部分があるかなと思います。すみません。
ブックマークと感想、本当にありがとうございます‼大変励みになります。これからもよろしくお願いいたします。
ではどうぞ。
洞窟内が光で満たされ、目を開けていられず顔を腕で庇う。
光が収まるのを感じ目を開けたら、そこには大理石の祭壇があるのみでいるはずの人がいなかった。
「…………………瑠華?」
私の声が虚しく静かな空間に響く。
私は何が起こったのか分からずに呆然とする。頭が真っ白だ。
どのくらいそうしていただろうか…………ふいに頬に温かさを感じ、のろのろと顔を上げる。心配そうな顔の櫻花が立っていて、その後ろにはやはり心配そうな皆がいた。
「…………………大丈夫か?」
「………………………瑠華が………………」
櫻花の問いには答えずにそんな言葉が出る。頭では分かっているのに、心が拒絶する。
「静葉!大丈夫か⁉」
その時、櫻花とは反対側から大きな声が聞こえた。見れば、桃輝くんが真剣な表情で私の肩を掴んでいた。
「ケガはないかい⁉」
ケガ?そういえばと瑠華に投げ飛ばされたことを思い出し、後ろを見る。それまで私が落ち着くのを待っていたんだろう、櫂が黙ったまま身体を支えてくれていた。
「櫂、ありがと」
「……………もう大丈夫か?」
皆に同じことを聞かれ、思わず笑ってしまった。私はそんなに端から見て茫然自失に見えるのだろうか?
……………見えるんだろうなぁと他人事のように思う。
「静葉⁉」
笑ったのがおかしかったのか、桃輝くんが声を上げる。
「大丈夫だよ、桃輝くん。皆もありがとう、ごめんね」
皆の目をしっかり見てお礼と謝罪をする。
本当は全然大丈夫なんかじゃないけれど、でもこれ以上皆に迷惑をかけられないから努めて平気そうに振る舞う。
そして改めて祭壇を見る。
「……………瑠華は…………」
皆も同じことを思っているのか、祭壇を見ながら辛そうな顔をする。
「…………瑠華は多分、大丈夫じゃないかな?」
櫂がぽつりと小さく呟く。場が静かな為、皆の耳に届いて全員が櫂を見つめる。
櫂は祭壇を見ながら口を開いた。
「静葉も見ただろう?あいつ、笑ってた」
「本当か、静葉?」
私は小さく頷く。確かに、瑠華は笑っていた。楽しそうに、子供のように無邪気な顔で笑っていた。
あれはどういう意味?何が起こったのか分かっていたの?だから私を突き放したの?
今何処にいるの?
「瑠華には何が起こったのか分かっていたと、そういうことか?」
「いや、それは分からないが…………」
「何が起こったのか分からないが、とりあえずここを出ないか?ここに居たって仕方がない」
桃輝くんがそう提案する。確かにここに居ても仕方ない。
皆も異存はないようで、とりあえず外に出ることを最優先にする。外に行けば瑠華に何があったのか分かるかもしれない。
私達は入ってきた道の反対側の道に行こうとしたその時、その道から音がし始めた。
カチャカチャと金属が揺れる音、沢山の人の足音がどんどん近づいてくる。
私達は入ってきた道を背に一塊になって、反対の道に意識を集中する。
すると数分後、全身を鎧で覆った騎士風の人達が現れた。
現れたのは三人で、私達を見つけると警戒心を顕に持っていた剣や槍を向ける。
私は怖くなり隣に居た櫻花の腕に強くしがみつく。櫻花は安心させるように、手で私の腕をぽんぽんと叩く。
騎士風の人達は道から次々に姿を見せ、私達と相対するようにして止まる。
その中から一目で高そうだと分かる豪奢な鎧に身を包んだ人が進み出る。
「君達はこんなところで何をしている?」
言葉は理解できた。
けれど私達はその問いに何て答えたらいいか迷ってしまう。いきなり異世界から来ましたなどと言ったら、下手したらそのまま拘束されてしまう。
騎士風の人達は全員、武器を構え敵意を向けているのだから。
「……………」
豪奢な鎧の人は私達をじっと見つめ、徐に口を開く。
「…………君達は異世界から来たのか?この世界の住人ではないのではないか?」
「………………………どうしてですか?」
「ん?どうして分かったか、か?」
「はい」
櫻花が代表で答える。一番年上、といっても一つしか違わないけど、こういう場合櫻花は率先して動く。
私達は彼女に頼りっぱなしだ。
「君達がもつ色合い、黒髪黒目はこの大陸では珍しいんだよ。この世界と言ってもいい。黒髪か、黒目どちらかなら居るけれど。両方揃っている者は、異世界から来た者っていうのが常識かな。だから君達もそうなのかなと思ったまでだよ」
「そうなんですね………」
「そう、でもそうするとおかしいことになる」
その人は丁寧に説明してくれていたけれど、突然雰囲気が険しいものになる。
「異世界の者。その存在を我々は知っているけれど、その存在は今此処に居ていい存在ではないんだよ」
「えっ…………」
「ど、どういうことですか?それは存在してはいけないってことですか⁉」
「…………ふむ」
その人の言葉に私達は困惑した。
此処に居てはダメって何?私達、殺されるの?
恐ろしい考えが頭を過る。皆も不安そうで身体が震える。
その人はまたじっと私達を見回し、考え込むように腕を組んでいる。
「どうやら、君達は本当に何も知らないようだね………」
険しい雰囲気が少しだけ収まる。これはチャンスかと思ったのか、桃輝くんが一歩前に出て説明をしだす。
「俺達は突然光に包まれて、気づいたらこの場所に倒れていたんです。ここが何処かも分からないし、何が起こったのかも分かりません」
「此処は地球ではないのですか?」
櫻花も一縷の望みを抱いて問いかける。
「此処はヴェントゥーザと呼ばれる世界。そしてこの場所はジルトニア皇国にあるカーウェン鍾乳洞というところだよ」
此処は地球ではない。
皆も頭ではそうかもしれないと思っていても、やはり希望はもってしまう。でも言葉で否定されて、漸く心で理解して動揺する。
「とりあえず君達は我々が保護しよう。分かっていると思うが、妙な真似はしないでもらいたい」
余計なことをしなければ、とりあえず命の危険はないのかな………櫻花を見ると真剣な表情で彼等を見ていた。
「私達を助けていただけるのですか?」
「ああ、君達の素性が分からないから拘束というかたちになるが、抵抗しなければ何もしないよ」
「………分かりました。皆もいい?」
櫻花が皆を見回しながら問いかける。私達はしっかり頷き大人しくした。
「ふむ、話の分かる人達で良かったよ。出来れば君達を傷付けたくはないからね。トリスタ」
「はっ」
その人は後ろに控えていた一際立派な鎧を着た人物、隊長さんかな?に視線を向ける。
隊長さんは騎士を数人連れこちらに近づいてくる。
豪奢な鎧の人は、騎士を伴い祭壇に近づき何かをしている。そこで瑠華のことを思い出す。
「あ、あの‼」
思ったより大きな声が出てしまい、全員の視線が集中する。そのことに恥ずかしくなり頬が熱をもつが、勇気を出して話しかける。
「あの、私達の仲間がその祭壇で消えたのですが、何か知りませんか?」
「この祭壇で消えた?」
私は藁にもすがる思いで頷く。
「ユイス、カッツェ、この祭壇は壊れているはずだよな?」
「はい、そのはずです。今見た限りでも、特に不審なところはありません」
「そんな…………」
あの時確かにあの祭壇で何かが起こった。瑠華がどこにもいないのだから。
「あの、本当なんです。突然祭壇の文字が光って、その上に立っていた友人が光に包まれて消えたんです」
「信じてください!」
櫂や櫻花も言い募る。
「いや、君達を疑っている訳ではない。この祭壇の古代魔術が発動するなら調査が必要かと思っただけだ…………………それにしても光に消えたということは、転移魔法か?」
「転移魔法?」
「空間転移といえば分かるだろうか?要は、別の場所に移動する魔法だよ」
「……………そんなモノまであるのか…………」
「何処に行ったかは分からないんですか?」
「それはムリだ」
断言されて落ち込んでしまう。危険なところに行っていたらどうしよう…………
「探すしかない」
「ああ、そうだな!」
環と疾風が力強く言う。皆も同じ気持ちなんだろう、真剣な顔で頷いている。
「先ずは皇都に行き、皇帝陛下への報告と君達の話を聞かなければならないが、我々も出来る限り力を貸そう」
豪奢な鎧の人が、私達を見て優しい顔で約束してくれた。私達はお礼を言い、改めて瑠華を探し出す決意をする。
――――待っててね‼瑠華‼
豪奢な鎧の人、名前を出そうか最後まで悩みました。
でもタイミングが分からず、そのままにしました。
読んでいただいてありがとうございました‼




