12・英雄が降り立つ時
本日二話目です。
「貴方にまた頼んでしまって良いのかしら?」
答えは分かっているだろうに、それでも聞かずにはいられない彼女に笑って答えを言う。
「ああ、僕が此処にいる意味は、きっとそういうことなんだろうと思うよ」
「……………貴方は変わらないわね」
両手で口を覆い心から楽しそうに、嬉しそうに彼女は笑う。
「人はそう簡単には変わらないよ。馬鹿は死ななきゃ治らないっていうけど、死んでも治らない馬鹿も居てもいいと思う」
「ふふふ」
あれ?あの言葉は貶してる言葉だっけ?まぁ、いいか。
「話の前に一つ貴方に伝えることがあるわ」
「伝えること?」
「実は、勇者が邪神を倒して貴方が魔術を発動して亡くなってから、この世界では二年しか経っていないの」
「二年⁉」
ええ⁉二年しか経ってない⁉ウソぉ⁉僕しっかり17年生きてるんですけど⁉異世界だから⁉これぞファンタジー‼
イエェイ‼……………じゃなくて‼落ち着け‼自分‼
取り乱してしまいました。んん!よし、もう大丈夫。
しっかし二年かぁ………僕は当時21、勇者は17で、今は19になる。そして僕が今は17………………あっ、どうしよう?あいつの方が年上とか……………張り倒してやりたくなるんですけど?
ふぅ、まぁこればかりは仕方ない。勇者に逢ったら、ドロップキックかましてやればいいだけの話だし‼
「彼方の世界と此方の世界では、時間の流れが違うみたいだからって聞いてる?」
一人で腕を組んでウンウン頷いていたら、若干呆れた顔をされた。微妙に気まずくなり、眼鏡を直しつつ視線を逸らす。
うん、そんな痛い子を見る目で見ないでほしいな……………
「と、とりあえずの目的は、こんな馬鹿げたことをしくさりやがった野郎を見つけることかな‼」
強引に話をして場を誤魔化す。セラフィミリムも気にせずに話を続ける。
「それについては、場所は分かっているの。異常な魔力を感じたと同時に、空間が歪んで彼方の世界と繋がってしまったから」
「へぇ、その場所は?」
「オリウェンヒス霊山の地下楽園の最奥」
「………………アナリリスの女狐か……」
場所を聞いて、誰がこんなことをしたのか見当がついた。ついてしまった。
美しくも醜悪な女の顔が頭に浮かぶ。
確かにあの女ならやるな。
召喚の光に呑まれる寸前に聞いたあの嗤い声は、やはり聞き間違えではなかった。
過去の嫌な事を思い出し、ため息が出る。やはりどんな面倒事になろうとも、あの時殺しておくべきだったな、と激しい後悔が胸を締め付ける。
頭を振り、気持ちを切り替える。
「それと、貴方にダンジョンの調査、破壊をお願いしたいの」
「ん?ダンジョンの調査と破壊?」
「ええ、二年前貴方が発動した魔術の影響で、世界中の“魔素”が活性化したわ。別にそれは悪いことではないの。精霊や幻獣達に力を与えて、調整してくれるから。魔物にも影響が出て、能力が上がったり変異種が出たりするけれど、それは仕方ないことだからこの際いいの。
問題は、自然の力の結晶体が“魔素”を吸収して、ダンジョンの核に変異したこと。ダンジョンが出来ること自体はいいのだけれど、今回は場所が悪かったの。人が容易に近づけない場所に、入り口が出来てしまったわ」
ダンジョン。
世界各地に存在する摩訶不思議な空間、とでも言えばいいだろうか。地上にポッカリと入り口が顕れ、地下へと階層が延びている。一番小さいもので10階層、大きなものだと200階層にもなる。
ダンジョンには“核”があり、空気中に漂う“魔素”を吸収して魔物を産み出す。一定数魔物を産むと、核は魔素を蓄積し成長していく。成長すると、強い魔物を産み出すようになる。
ダンジョンは国とギルドが協力して管理している。入るには資格が必要になる。
ダンジョンが成長しないように、騎士団や冒険者を行かせて魔物を間引くなどしている。
そしてダンジョンは、周囲の魔物達にも影響を与える。
つまり未発見のダンジョンがあって、そのまま放置されると、ダンジョン内だけでなく、その周囲の魔物達まで強くなり変化していく。
頭を抱えたくなる大問題になってしまう。
「それは厄介だな。何処にできたんだ?」
「貴方に調査、破壊してほしいダンジョンは全部で5つ。ヴァルザ火山、サランヴィーネの港街、コヴェーレン峡谷、ララフィウェートの魔窟、ウォレッテの街の5箇所」
「最後のウォレッテの街は、街の近くにということ?まさか街中?」
街中だったら問題なんてもんじゃないけど、街中なら流石に気付くか。
「ウォレッテについてはよく分からないの。ダンジョンの反応があったのに、気付くと反応が無くなっていたから」
「それはダンジョンの“核”が破壊された、とか?」
「そこまでは分からないわ」
「成る程、それも含めて調査ね」
「ええ、やってくれる?」
ふんむ、実際に見てみないと分からないが、一人だと無理そうだな。
よし、勇者達を巻き込んでやろう!
「ああ、大丈夫だ。優先順位とかある?」
「ヴァルザ火山とサランヴィーネは、先に行った方がいいと思うわ。その二つは既に、Sランクまで上がってると思うから」
Sランク、ねぇ。
初めから行くとしたらキツいか。周辺の街で準備しながら修行しないと、だな。
「そうだ。セラ、僕のステータス、カインとしてのもの引き継げない?ダメかな?今から修行し直すのも面倒いんだけど…………」
「勿論、貴方が亡くなる直前のステータスにしてあげるわ」
「えっ、本当?言ってみるものだね」
「ふふふ、それとこれ」
彼女の手の中には、僕が以前使っていた腕輪型の魔道具、アイテムボックスがあった。
どうして?だってこれは…………
「貴方の遺体と共に埋葬されていたの」
「何故?これはフィンランディ公爵家の家宝だ。父か或いは弟達が持つべき物。それにこの中に入ってるものは全て使っていいと、父様に言っておいたのに…………」
「これは貴方を大事に思う人達の総意よ」
「……………………分かった。なら遠慮なく使わせてもらう」
カインとしてのステータスとこれがあれば、少し肩慣らしすればいけるかな?
それと従魔達、かな。
「それじゃあ、そろそろ地上に送るわ。ヤカサルの村近くの草原でいい?」
「あ、待って。送るのはオリウェンヒス霊山の地下楽園にしてくれないか?あの女はもういないだろうけど、何があったのか手掛かりがあるかもしれないからね」
「分かったわ」
「とりあえず何かあったら、礼拝堂に行くから」
セラフィミリムが頷き、僕の胸にそっと手を添える。懐かしい暖かななにかが身体を満たす。
次いで瞼が重くなっていく。
「ふふふ、言い忘れてたけど貴方のステータスと身体をカスタマイズしちゃった!後で確認してみてね?」
ちょっと待たんかい‼なに最後に然り気無く、人の身体改造宣言してんの⁉聞いてないよ⁉あっ、今言ったのか…………
ちくせう‼
読んでいただいてありがとうございました。




