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第三章 10 これは行くしかねぇ!

「……それはぁ、あなたが知らないだけだからぁ。世界には一般に知られてないことがぁ、それこそ山のようにあるのだよぉ。野球部に所属している人はぁ、サッカー部の内情なんて詳しく知らないだろうぅ? それとまったく同じさぁ」

「個人の常識で世界を語るなってことね?」

「……そうそうぅ。常識なんて所詮はぁ、個人の主観でしかないのだからぁ。……うにぃー、えっとぉ、どこまで話したっけぇ?」

「魔力のチャージで異世界に行く、というところです」

 瑠兎の問いに紘が答える。不気味で不可思議で知的なキャラのように見える瑠兎だが、意外と忘れっぽいというか、抜けたところがあるのかもしれない。

「……あーそうぅ。その異世界に行くこと自体はできるんだけどぉ、残念ながらまた困ったちゃんが出てきてぇ、ワタシたちこの世界の人間はその異世界に長く留まることができないんだよねぇ。ホント困ったちゃん」

「そんな……」

「……実験したことがあるんだけれどぉ、大体二分くらいで意識が朦朧とし始めてぇ、三分くらいでバッタリと気を失うんだぁ。それ以上は人命が掛かっているから実験できなかったけどぉ、たぶん五分くらいで死ぬんじゃないかなぁ」

「死ぬ……」

「……これはワタシの考えだけどぉ、その異世界には大気中に魔力がぁ、それこそ酸素のように目に見えずに存在していてぇ、それがワタシたちこの世界の人間には有害なんじゃないかと思っているんだぁ。簡単に言ってしまえば毒だねぇ」

「………………」

「……一応その対処法としてぇ、防護のブローチっていう魔道具があるんだけどぉ……」

「だけど何? まーた困ったちゃん?」

 紘に変わって乃子がそう訊いた。どうでもいいことだが、相手の言葉癖を上手く自分の言葉にも織り交ぜられると、その相手との心理的距離が縮まりやすいらしい。

「……実はぁ、その防護のブローチなんだけどぉ、贔屓にしている研究所に三日前に貸してくれないかって言われちゃってさぁ。それで貸してしまったんだよねぇ」

「それは割とマジで困ったちゃんですっ。いつ戻ってくるか分からないんですかっ?」

「……んー、二週間くらいって言ってたかなぁ」

「二週間!? うー、んー、あー、うぅー。二週間……」

 おそらく今の瞬間に、紘の中でいくつもの葛藤があったに違いない。それがどんな内容の葛藤であったのかは分からないが、心を持つ人間として、感情のあるキャラクターとして、彼の中で葛藤があったことだけは紛れもない事実であった。

「待つしかない、のか……?」

(残念、ストーリーテラーのご都合主義で……待ちません!)

 乃子は物語の進行役として、そして紘に助け舟を出す存在として、瑠兎にある提言をした。

「要は、その異世界に行っても無事ならいいわけね?」

「……まあそうなるなぁ。人体に支障が出なくてぇ、魔力を注いでもらえる人を探せればいいわけだからぁ」

「実はね……。あたしには、全てを意のままにできる神の力があるのよ」

 精一杯の意味深さを出すために、ニヤリと両の口角を吊り上げて乃子はそう言った。

「……もしそれが本当ならぁ、あなたもかなりオカルトじみてるねぇ」

 瑠兎はそう返すと、乃子に対して同種の笑みを返した。

「岡野さん、乃子の力は本当です。僕は何回もその力を見ましたから」

「……ほぉうぅ。まあぁ、君が言うなら信じてあげるとするよぉ」

「あたしの神の力で、魔力なんてへっちゃらにしてあげるわ」

「……それじゃあワタシにぃ、その付呪をしてくれないかぁ? 魔力をチャージしに頼みに行ってくるからさぁ」

「……えっ? あ、と、ちょっ! まっ、まっぴょ! え、あっ、ええ? ちょま!? ちょっと待って! お待ちになって!?」

『ぶふっ!? の、乃子っち、それはは、反則ですっ……! あ、焦りす、過ぎですよぉ……! ぶふぅ! ふひひ……!』

(だって仕方がないでしょ!? まさか瑠兎が自ら行ってくれるとは、思わなかったんだから!」

『いやー、話の流れ的にそうなりますよ普通。瑠兎さんの方が詳しいですし、自分で行った方が確実ですもん。任せるなんてありえませんよ』

(でもあたしがその異世界に行きたいのよ! もちろん紘とね!)

 異世界に行くと聞いた瞬間、これは行くしかねぇ! と思ったのよ。だから次の展開は、異世界転移ものって決めていたのに。異世界転移って、もう尺的に大分後半な気もするけど! 今からかよ! って気もするけど!

『ここから乃子さんたちが行くようにするためには、それなりの言い訳が必要ですよ?』

(ドントウォーリー、ビーハッピー! 言い訳とその場のノリと、ご都合主義だけは自信があるのよあたしは! キャラ役者は伊達じゃないってとこ見せてあげるわ!)

「る、瑠兎さん。じ、実はですね、あたしの神の力は、あたしと紘にしか、こ、効果がないんですよぉー。ひ、非常に残念、なことにですがぁー」

『しどろもどろじゃないですか! あれだけ豪語しておいて!』

 !!!

 いかん! 紘がマジレスしてしまう気配が!

「あれ? そんな制約あっ――」

 乃子は音速で紘の口を手で塞ぐ。

「――ふぐっ! はぐっ! ふぐふぐっ! ふーぐっ!」

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