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第三章 9 僕に与えられるものがあるなら

「ぼ、僕ですか?」

「……そうだともぉ。男が女になるなんてぇ、まさしく愉快なことだろうぅ? これこそまさにぃ、我々オカルト研究部が求めていたものぉ、そのものなのだからぁ。……ふふふぅ、まったくレミアもたまには良いことをするものだなぁ」

 瑠兎は顎に手を当てながら、不敵に片頬を上げて微笑む。

「分かっているとは思いますが、僕は女の子になったこの体をどうにかするために、岡野さんの所へ来たんです」

「……もちろん承知しているともぉ。ワタシのオカルト知識を頼りたいのだろうぅ?」

「はい。そうです」

 紘が答えながら、椅子の上でその体を前傾させた。その動作を見るに、紘が本気で男に戻りたくて、瑠兎を頼りにしていることが如実に伝わってくる。

「……ふむぅ。たった一つだがぁ、元に戻れるかもしれない方法があるぅ」

「本当ですか!?」

「……ただしぃ、あくまで可能性だぁ。絶対ではないぃ。そこは肝に銘じておいてくれぇ。失敗してもワタシを呪い殺さないでくれよぉ?」

「可能性があるだけで十分です」

「……その方法を教える前にぃ、君の中の悪魔と話をさせてくれないかぁ? 彼女に伝えておきたいこととぉ、聞いておきたいことがあるのだぁ」

「もちろんいいですよ」

 紘はそう言うと、もうお決まりのように両目を閉じた。そしてすぐにリムルの意識が表に現れる。

【あーしに話とは何なのん?】

「……悪魔さんよぉ。これから言う方法がもし成功したらぁ、あんたは彼の体から強制的に出てしまうことになるんだぁ」

【……そうなの】

「……仮にそうなったらぁ、あんたはどうするぅ? 再び広院乃子を求めるかぁ? それとも再び種神紘の体内に厄介になるかぁ?」

【……あーしは……】

 リムルはすぐに答えなかった。自分に正直に生きているはずの悪魔が、である。つまりそれは、自分に正直であることをやめ、迷っているということである。

 自分以外の、誰かのことを思って。

【……あーしは……!】

「いいよリムル」

 その時。紘が目を閉じたまま、リムルではなく自身の言葉を発した。

【……こーやん……?】

「もし僕が男に戻って、リムルが僕の外に出てしまったとしても、また僕の中に入ればいい。君がそう望むなら」

【……いいのん……?】

「いいのん。また女になることは、たぶんないだろうしね」

【何でなのん……? あーしは悪魔なのよん……?】


「悪魔かなんてどうでもいい。ただ単に、僕に与えられるものがあるなら、それを与えてあげるだけだ」


 ちょっ!!

 こーやん格好良すぎいいいいぃぃぃぃ!! ちょっと何!? ここに来て紘の格好良さが爆上がりなんだけど!? 何かあった!? いや女の子にはなったけど!! なになに!? マジで何があったの!?

【こーやん……。……ありがとなのん】

 紘は目を開くと、瑠兎を見据えて言った。

「すみません岡野さん。勝手なことをしてしまって」

「……いや構わないよぉ。双方納得しているなら問題ないからさぁ。……さてそれじゃあぁ、君が男に戻れるかもしれない方法を話そうかぁ」

 瑠兎はそう言うと、お尻を動かして座る姿勢を変え、それから指を一本立てた。

「……まず結論から言うとぉ、君を元に戻すためにある魔術書を使おうと思うんだぁ。魔術書の名前は……まあどうでもいいかぁ」

「はい」

 まるで朝ご飯の味噌汁のように、サラッと魔術書が出てくる。一応この物語って、設定では現代ものだったわよね? まあ反重力フライングボードとか、シューターなんかが出てきてる現在となっては今更感しかないけど。

「……でもその魔術書がちょっと困ったものでねぇ。使用するには魔力をチャージしなければならないのさぁ。そしてちょうど間が悪いことにぃ、一週間前に諸事情でその魔術書を使ってしまってねぇ。今再び使うためには魔力のチャージが必須なんだよぉ」

「チャージする方法は、簡単なんですか?」

「……一言で表すならぁ、魔術を使える者に魔力を注いでもらうだけなんだぁ。だけど条件があってぇ、その魔術書が書かれたある異世界の人物の魔力じゃないとダメなんだよぉ」

「そ、そんなのどうするんですか?」

「……実はぁ、その異世界へ行くこと自体はすぐにできるんだぁ。本当に今すぐにでもねぇ」

「ちょっ、ちょっと待ってよ。オカルトすご過ぎない?」

 今まで紘と瑠兎の会話を黙って聞いていたが、さすがのあたしもこれには言及せざるを得なかった。

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