第二章 20 ちょっと興奮しちゃった
「…………」
乃子が何も言わずに黙ったまま――いや、何も言えずに黙ったままでいると、今度は心に闇を抱えたかのように、ぶつぶつと壊れた人形のごとく呟き始めた。
「あ……あ……、わたしは退治されるんだ……。ううん、きっとお金持ちの男の人に売られて……、そう、みじめなことをさせられるんだ。あ……ぅ……、大勢でわたしのことをレイプしたり……、……裸で街中を歩かされたり、……きっと……そんなことをさせられるんだ……」
「発想が悪魔すぎるでしょ! 悪魔って発想も悪魔的になるの!?」
よ、よし、ようやくツッコミを入れることができた。もしこのまま会話に入れなかったら、ずっと彼女の一人芝居が続くことになっていたかもしれない。見てみたかったけど。
「…………えっ……、何も、しないんですか……?」
乃子のツッコミに効果があったのか、ロリ悪魔が顔をこちらに向けておずおずと訊いてきた。
「し、しないわよ」
これはもちろん嘘である。残念ながら、ここでは展開的に悪魔を退治することに決めているのだ。騙して悪いが、これも物語のためなのよね。致し方ない犠牲なのよね。
さて、どこで裏切って絶望に落としてあげようかしら。ふひひひ。
乃子が『何もしない』ということを伝えると、ロリ悪魔は花が咲いたように表情を和らげた。
「あ、ありがとうございます。このご恩は一生忘れません」
「そんな、大げさよ」
「いえ、命を助けてもらったのです。大げさなんかじゃないです。ありがとうございます」
ロリ悪魔はそう言って頭を下げた。それも深く深く、乃子が視界から外れるくらいに。
(早い気もするけど、引き伸ばしても仕方がないし、ここにしておきましょうか)
『騙すとか、どっちが悪魔なんですかねぇ』
(人間は心に天使と悪魔を飼っているからね。しょうがないね)
ロリ悪魔が頭を上げる前に、乃子は素早くシューターを構え、そして彼女の足を狙ってカレピヌを迷うことなく三発ほど発射した。びちゃびちゃびちゃ、という音が聞こえてきそうなほど、勢いよくカレピヌがロリ悪魔の足に着弾する。
「…………え?」
ロリ悪魔が、頭を下げたまま唖然としたように呟く。
「……何……を……?」
再び呟きながら、彼女はゆっくりと顔を上げる。その顔が上がるタイミングを見計らって、乃子は再度カレピヌを、今度は腹部に向かって発射する。
動いていない的を外すはずもなく、シューターはロリ悪魔の腹部を白く染め上げた。粘性のある白い液体が、彼女の腹部をいやらしく伝う。その光景は、男子なら間違いなくアレが起きるほどのものであった。
女のあたしですら、ちょっと興奮しちゃったし!
「分かるでしょう? あたしはあんたを退治するの。何もしないなんてウ・ソ・よ」
「…………う」
ロリ悪魔がくるりと後ろを向いて、全力全開で逃げ出した。
「うわあああああぁぁぁぁぁん!! 嘘つきぃぃぃぃぃいいいいいい!! くたばれえええええぇぇぇぇぇ!! 悪魔女ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「悪魔はあんたでしょうが!」
彼女が逃げる。脱兎のごとく、脇目も振らず、ただカレピヌという粘性のある白濁液から逃れるためだけに。――さあ、追いかけっこの始まりよ!
ボードをフル稼働させ、乃子はロリ悪魔のあとを追い掛ける。それと同時に彼女の動きを読みながら、カレピヌを発射することも忘れない。照準器を覗いている暇はないので、最大限狙いをつけつつも腰だめに構えて撃つ。
しかし、たびたび彼女の体を掠めることはあっても、しっかりと直撃させることはまったくと言っていいほどできなかった。
まだボードで移動しながらの射撃に慣れていないのか、それとも彼女の回避能力が高いのか、はたまた両方か。いずれにせよ、当たらない。それだけは確かだ。
「くそっ、当たりなさいよ!」
「嫌ですぅー!! 撃ってこないでぇー!!」
このままでは、ロリ悪魔がどんどんと学校の外側へ出て行ってしまう。それはあまりよろしくない。せめてもう少し距離が縮まれば、当たる可能性が上がるのに。
そう乃子が考えていた時、ロリ悪魔が逃げるさらにその先で、思いもよらない出来事が起こった。
まるで悪魔を逃がさないかのように、空中に半透明な赤いバリアが突如発生したのである。それは巨大な箱型のように、学校の敷地全体を囲むように存在していた。高さも見上げるほどに余裕があり、その巨大さはとんでもないほどであった。
「!? 何ですかこれぇー!?」
ロリ悪魔がその赤いバリアを可愛らしく叩きながら、狼狽したように叫ぶ。
なかなか良い仕事をするじゃないの、レミア。さすがに逃げられないように対策はしてあるのね。ちょっと悔しいけど、今回ばかりは助かったわ。
「これで袋の鼠よ! 観念しなさい!」
乃子はロリ悪魔との距離を詰め、カレピヌを発射する。予想外の障壁に驚き、動きを止めてしまった彼女。今度は外さないわよ! 狙い撃つぜ!
シューターから放たれたカレピヌは、ロリ悪魔に吸い込まれるように飛翔していき、彼女の綺麗な赤黒いロングヘアーの後ろ側を、一部真っ白に染め上げた。
「きゃあああああぁぁぁぁぁ! やだあああああぁぁぁぁぁ!!」
本気の悲鳴を上げながら、ロリ悪魔がバリアに沿って右方向に再び逃げ出した。




