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第二章 13 水鉄砲ではない

「どのような感じなのかを見せるだけなら、誰が撃っても変わりませんわ」

「そう? なら遠慮なく撃たせてもらうけど」

「外にある木の幹でも狙いなさい」

 レミアは言って、少し体を乃子のために横に移動させた。交代するように乃子が窓の中心に立ち、右手で引き金のある方のグリップを、左手で安定用のフォアグリップを握った。粘性のある液体を高速で発射するための複雑な機構が組み込まれているのか、それなりにずしりと重く感じた。

『いや、こんなギャグみたいな銃に、科学的な機構なんてあるわけないじゃないですか。外見だけですよ、外見だけ。重さもそれっぽくしてあるだけですよ、きっと』

 そりゃ実際はそうなんだろうけど。なんかそう言った方が格好いいでしょ?

 次に、シューター上部にある光学照準器を覗いてみる。よくあるドットサイトのようで、照準器の真ん中に赤い点が表示されていた。

「最初にセーフティを外しなさい。右手の上あたりにあるものよ」

 銃の仕組みはそれほど詳しくはないが、さすがにセーフティレバーくらいはあたしも知っていた。そのレバーは現在下に向いており、これが安全の状態なのだろう。そのツマミを左方向に弄ると、わずかな手ごたえとともにセーフティが解除され、レバーが九十度左に傾いた。

「あとはトリガーを引くだけですわ」

 レミアに言われ、乃子は十五メートルほど離れた位置にある木に向かって、見下ろすように狙いを定める。ただし照準器は使わず、腰だめの位置でシューターを構えた。

「い、いくわよ」

 独り言のようにそう呟き、乃子は思い切って右手で引き金を引いた。

 ドドドドドドドドッ!!

 シューターから低く唸るような音が連続して響き、銃口から粘性のある白い液体――カレピヌがものすごい速度で何発も射出された。

「わっ!」

 発射されたカレピヌは空を切り裂くように飛翔していき、それらは見事に木の幹の中心に着弾した。ババババババババッ! と音が聞こえてきそうなくらい激しく木に着弾する。

 それからカレピヌは、その自身の粘性を存分に発揮し、木の幹の表面をゆっくりと下方向に垂れていく。とろーり、という擬音が的確なくらいいやらしさを放ちながら、本当にじっくりゆっくりとカレピヌは木の幹の表面を垂れていった。

「これがシューターよ。分かってもらえたかしら?」

 レミアが尋ねてくる。乃子はまず言うべきことを最初に言った。

「水鉄砲と全然違うじゃない! てっきりビューッって出るかと思ってたのに、ババババッって出たんだけど!? どうなってんのよ!」

 本当にびっくりした。アサルトライフルの連射みたいな感じだった。いやアサルトライフルを実際に撃ったことはないけど。でもイメージ的にはほんとに、FPSゲームでアサルトライフルを撃っている時のような、まさにあのイメージの感じであった。

 乃子の、予想と違って驚いたことで生まれた問いかけに対して、レミアは淡々と答える。

「誰もそのように発射するなんて言っていませんわ。あなたの思い込みではなくて?」

「ぐっ。そ、それはそうだけど、なんか納得いかないわ」

 水鉄砲……というか、液体を発射するといったらビューッ、と出るのが普通でしょ普通。消防車の放水だってそうだし。……ま、まあ格好いいから良いんだけど。格好良さは全てにおいて優先されるしね。

 誤解のないように言っておくけど、別にあたしはビューッと出ないのが嫌だと言っているわけじゃないんだからね? ただ何となく予想と違っただけだから。

「それにしても、すごいなこれ……」

 紘がシューターをまじまじと見つめながら、感心したように呟いた。

「あんたも撃ってみる?」

 言葉には出さなくても、顔がぜひ自分も撃ってみたいと言わんばかりの表情をしていたので、乃子は紘にそう訊いてみた。

「え、いいのか?」

「ねえレミア、いいでしょ?」

 確認のために、一応レミアに尋ねてみる。彼女はその小さい顎を引いて頷いた。

「ええ構いませんわ。存分に体感すると良いですわよ」

「だってさ。ほら」

 そう言って、乃子は紘にシューターを手渡す。

「見てたんだから説明はいらないわよね?」

「ああ大丈夫さ」

 返事を聞くと、乃子は紘のために窓から少し距離を取る。乃子が今までいた位置に代わるように紘が立ち、彼は脇を締めてしっかりとシューターを構えた。


「ありがとう、いい経験になったよ」

 シューター体験講座が終了し、紘がレミアにシューターを返す。レミアはシューターを受け取ると、組み立てた時と逆の要領でバックパックや連結ホース、シューターを分解し始めた。

 まずはシューター下部から連結ホースを外し、シューターをそっと所定の位置に戻す。それからホースをバックパック右側面から外し、単体となったホースも元の位置に戻した。最後にバックパックを背中から外し、これも最初に置いてあった場所にきちんと戻しておく。

 その全ての動作を、レミアは慣れたようにテキパキとやってみせた。

(む、むかつくけど、ちょっと格好いいじゃない)

『私もそう思いますー。思わず見ちゃいましたよ』

 悪魔退治やカレピヌをぶっかけるといった、目的や方法は完全にギャグなのだが、その装備を扱う動作だけは本当に洗練されていて、仕事のプロが行うような、思わず見とれてしまう動作と言っても過言ではないほどのものだった。

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