#01千年後の覚醒
棺に向かって花を手向ける翠色の髪の女性。この地を治める領主リアナだ。ここは、領地の中で一番人口の多い街、コーカーヴの地下にある神殿、その一角"棺の間"。目を閉じ手を合わせるリアナ。この神殿には彼女の家系の者しか入ることを許されず、その管理も彼女の家に代々受け継がれた役目だった。
一連の儀式が終わり棺に背を向けた時、リアナのその長い耳に誰かが話す声が聞こえた。
どうやら棺の中から聞こえているらしい。
おそるおそる振り返ると棺が開き、青年が現れた。旧人類と人類の末裔が初めて出会った瞬間だ。
棺の中に入っていた人物はカイト。千年のコールドスリープからたった今目覚めたのだ。
「死人が生き返った!?そんなわけ…まさか、盗掘者!?」
リアナは腰のナイフに手をかける。
カイトは両手を上げた。
「落ち着いてください!俺は敵じゃない。貴方は誰なんです!?」
「私はこの土地の領主にして、この神殿に唯一出入りを許された家の者リアナ。貴方こそ正体を明かしなさい!」
「俺はカイトといいます」
カイトは自身のことを語った。
滅亡した地球から来たこと…千年前にこの惑星カナン129を開拓しに来たこと…そしてポッドの中で今しがた目を覚ましたということ…
話しながら、カイトの声はどんどん小さくなっていく。自らのことながら、現実味の無さに自信を失っていた。
リアナは瞬きをしてから溜め息をついた。
「いささか信じがたい主張ね、何か証明するものはあって?」
カイトは、自分の左腕に着けたデバイスを指差す。
「ほら、これ!」
「手甲がどうしたの?」
カイトが画面をタップすると、疑似人格AIソフィアが起動した。
『お呼びですか、カイト様』
リアナは息を飲む。
「ソフィア、シェルターの地図を表示してくれ」
空中投影された地図、それは神殿改め生活環境構築シェルターのものだった。
「これは…地図?」
「貴方が神殿と呼ぶ、生活環境構築シェルターの地図です。貴方の家系と先祖しか知り得ない情報です。」
リアナは紙の地図を取り出し、それを照らし合わせる。
「確かに一緒ね。それに、よく見たらあなたの耳…」
カイトは自分の耳を触る。
そしてリアナの耳を見る。
「耳が…長い!?」
「伝承によれば、私達の祖先はセレネの星の砂を浴びてこの長い耳と翠の髪を手に入れた。信じ難い事だけど、貴方は"その前"の人ってことかしら…」
「セレネの砂?」
ソフィアが答える。
『カナン129の衛星です。地球で言うところの月にあたります。』
突然、リアナが何かに気付いたような表情をしたあと出口の方を睨んだ。
「来たのね!」
きょとんとするカイト。
「"聞こえ"なかったの!?」
ソフィアが解説する。
『彼女達の長い耳は思念感知能力を持つ器官で――』
「いいから!ここを出るわよ!」
カイトは、リアナに手を引かれ外へと向かうのだった。




