(3-10)渉の登場
その様子を見て環は首をかしげた。
(何をしてるんだろう……?)
連絡するのなら、普通はスマートフォンを取り出して電話をかけるかメッセージを送るはずだ。だが忠史はただ目を閉じているだけだった。
もしかして、奥村さんへの連絡は緊張するの?
緊張して気持ちを落ち着けている?
それとも急に気分が悪くなった……とか?
次々と考えが浮かぶもののどれも決め手に欠ける。
(えっと……声、かけた方がいいのかな……?)
どう動くべきか迷っているうちに、忠史はゆっくりと目を開けた。
そして何事もなかったかのように言う。
「はい、とりあえず待ちましょう」
にっこりと穏やかな笑みまで浮かべている。
「え? あ、はい……あの、待つって……ここで待つんですか?」
「はい。新宿御苑は渉さんもよくご存知なので」
あまりにも自然な口調だった。まるですでに話は通っているかのように。
「えっと……奥村さんは私たちがここにいることをご存知なんですか?」
環は恐る恐る訊いた。
「はい。いま伝えたのでたぶん大丈夫だと思うんですが……十分くらい待って会えなければまた考えましょう」
「……いま伝えた?」
思わず小さく復唱してしまう。
電話もしていない。
メッセージも送っていない。
それなのに「いま伝えた」と言い切る。
???
頭の中に疑問符がいくつも浮かぶ。でも何をどう訊けばいいのかもわからない。そもそもこの状況をどう理解すればいいのかすら曖昧だった。
環は言葉を失ったままただ頭の中で状況を整理しようとしていた。
静かな御苑。
風が木々を揺らし池の水面がきらりと光る。
時間だけがゆっくりと流れていく。
しばらく二人とも沈黙したままだったが、数分も経たないうちに視界の端で人影が動いた。あずまやの方から一人の男がこちらへ歩いてくる。落ち着いた足取り。周囲の景色に溶け込むようでいてどこかはっきりと輪郭を持っている。
環は息を呑んだ。
――まさか。
忠史はその姿を見て小さく頷いた。
「来てくれました」
そこに現れたのは、間違いなく渉だった。




