(6-1)約束の日
あの日から一週間が過ぎた。
樹が山の根っこから聞いた言葉。
――お日様が七回昇ったらまたおいで。
その約束の日の朝が、静かにやってきた。
昨日は倉敷でも珍しいほど雪が降った。庭先の植木にはまだ白い雪が残り、屋根の瓦にもところどころ雪が張りついている。夜の冷え込みは厳しかったが、朝になると空は雲ひとつない青に染まり、冬の日差しが眩しいほどに差し込んでいた。
忠史は窓を開け、冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
快晴。
それだけで少し肩の力が抜ける。
真庭は倉敷より内陸で、向かう先はさらに山の奥だ。昨日の雪を考えれば、かなり積もっている可能性は高い。それでも吹雪ではないだけましだった。林道を走り、さらに山道を歩くことを考えれば天候は何より重要だった。
そして今日、忠史はひとつ決めていた。
家族にすべてを話す。
捲る能力のこと。
そして、奥袴狭のことも。
言葉にしてしまえばもう後戻りはできない。それでも、浩子と美樹には隠したままではいられなかった。そして、できればその能力を使って二人を真庭の山へ連れて行きたい。
だからこそ、まずは一人で巨石の場所へ行き、あの後どうなったのかを確かめておきたかった。木々が動いて生まれ始めていた空間は完成しているのか。雪はどれほど積もっているのか。家族を連れて行ける状態なのか。
その確認だけは先に済ませておきたかった。
そんな思いを胸に抱えたまま、忠史はいつものように朝食の席についた。
味噌汁の湯気が立ち上り、焼き鮭の香ばしい匂いが食卓に広がる。窓から差し込む冬の日差しが、テーブルの上を明るく照らしていた。
話題は自然と今日のことになった。
「とりあえず、いいお天気でよかったね!」
美樹が嬉しそうに窓の外を見ながら言う。
「そうねぇ……ひとまず雪がやんでくれてよかったけど、真庭の方はたぶんけっこう積もってるわよね……」
浩子は少し心配そうな表情で湯のみを持ち上げた。
「スタッドレスって山も大丈夫かな?」
「ある程度は大丈夫だと思うけど、あまり大雪だとそもそも出掛けないし、スタッドレスで山道を走ったことはないから、心配は心配なのよね……」
二人の会話を聞きながら、忠史は静かにご飯を口へ運んだ。
「ごはん食べたらちょっと準備してくるから、出掛けるの待っててね」
忠史が箸を置きながら言うと、美樹が首をかしげた。
「え? 準備って?」
浩子も手を止める。
「え? あ、そうよね。あの林道までは行けたとしても、そこから山の中なんてどうやって進めばいいか……。それに雪も積もってるだろうから……準備って……一人で大丈夫なの?」
「あ、うん、大丈夫。あとで詳しく話すからちょっと待っててね」
忠史はそれだけ言って少しだけ笑った。
あとで詳しく話す。
その一言の重さを、自分だけが知っていた。
準備っていったいなんだろう。
雪道を歩く道具?
防寒着?
それとも大量の使い捨てカイロ?
美樹はそんなことを考えながら首をひねり、浩子も不思議そうな表情を浮かべた。
けれど二人とも、それ以上は何も聞かなかった。
忠史の様子が、どこかいつもと違うことだけは感じ取っていたからだった。
スタッドレス=スタッドレスタイヤ。
雪道や凍結した道路でも滑りにくく安全に走るための冬用タイヤのことです。




