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哀のエモーショナルセイバー!

※28話 勝利の続きの話になります

次の標的を見つけた108の玉はドッシャを囲むようにして空中に整列する。


「アイ!それが本当にやりたいことムシか!」


近づいてくるムッシーの声も今のアイには届かない。だが、1つだけ届く声がある。


「……死は救済じゃないッシャよ。アイ。死は輪廻する命をッシャ、また、この地に生まれ直させる出発点ッシャ。」


アイは微動だにしない。しかし、ドッシャはまだ続ける。アイに届くまで続けるつもりだ。

 

「だとしたらッシャ、アイのやっていることに意味はあるッシャ?アイはこの哀しみのある世界に命を戻しているだけッシャよ。」 


ゆっくりとアイの手が降りる。同時に108の玉は再びアイの左手首に収まった。

そして、アイの口が開く。


「でも、一瞬でも、この哀しみを忘れられるなら、死ぬ瞬間に哀しみが無かったことになるのなら、私がこの役割を担う意味はあるはずだよ!」


玉と玉を繋いでいる細い糸が切れ始める。


「哀しみは無かったことになんか一生ならないムシ!」


再度、行動を起こそうとするアイの左腕にムッシーがしがみつく。


「生きていてもムシ、死んでいてもムシ、命である限り哀しみを克服することなんてできないムシ!命は哀しみを永遠と抱えたまま成長していくムシよ!」


「離して!哀しみは私が忘れさせてみせる!哀しみを永遠に抱えたままなんて!そんなの、あんまりだよ!」


アイはムッシーを振り落とそうと全身を使って腕を振るが、一向に離れない。


「アイは忘れたいッシャ?イカリが、ラクナが、ヨシミが、生命を賭して戦って、死んだことを忘れて幸せになれるッシャ!?」


「あ……。」


ドッシャの言葉にアイの動きがピタリと止まる。

いくら哀しみに堕ちたアイであっても友達のことを忘れるのは嫌だ。

瞳にうっすらとハイライトが戻り、涙が流れ始める。


脱力したように膝をつき、地面に顔を伏せて声にならない嗚咽を溢す。


その様子に危険性が無いと判断したムッシーはゆっくりとアイの左腕を離れた。


「アイは頑張ったムシ。だから今はムシ、後悔ややり残しを胸に思う存分、感情を吐露するといいムシよ。」


枯れつつある大地に餌を求めぬ虫達、燦々と照らす太陽が哀しみの影をつくり、荒涼と吹き荒ぶ風が哀しき少女の声を音として活力を失った世界に届けていくのだった――――。



 ♥  ♥  ♥  ♥  ♥  ♥  ♥


「……皆、ごめん。私は…大丈夫…じゃないけど、世界の終わりを…生命が消えるのを見届けるくらいなら心配ないよ……。」


ゆっくりと立ち上がり、服に付いた土を払う。

ハイライトは再び消えてしまい、彼女の心は哀しみに満ちているが、殺戮衝動が出る一歩手前で自制している。


「アイ、生命は終わらないムシよ。生命は命となって、再び生命に戻るムシ。それは妖精が居なくても関係なしに起こる生命の循環ムシ。ほら、丁度あそこみたいにムシね。」



偶然か、崩れていない地面――アイ達が草むしりをしていた公園に小さく、ポツンと双葉が顔を出している。


「――――ッ…。」


ショクブッツはイカリと共に消え、植物は絶滅した。紛れもない事実だ。

しかし…


「ブッッツゥゥ!」


本来のショクブッツとはかけ離れた甲高い子供のような声、輪郭がくっきりと分かる明るい黄緑の身体。


そんな妖精が地面から元気良く、この滅亡の道を辿る残酷な世界に産まれてきた。


抱きしめに走りたい筈なのに、足がガクガクしてまともに立てない…。


なぜなら…


だって、それは


「奇跡……だ…ッ…。」


理屈じゃ説明できない。理由なんて分からない。

だとしても、新しい生命はここにいる。

希望を持って産まれてきてくれた。


なのに、なんでこんなに哀しいの?

最期の最期に照り始めた光はとっても嬉しい筈なのに!


この妖精()に望んでいる希望の未来を与えることができないから!

何も…何も悪くないのに!なんでこんな目に遭わないといけないの!


「………ッごめんなさい…。」


思わず膝をついて頭を地面に擦り付けて謝る。 

こんな世界にしちゃったのは私だ。

私がもっと頭が良かったら、ヘッビーの陰謀に気付けてたらきっとこんなことにならなかった筈なのに!


「ありがとう…ムシよ。新しい生命にはどんな状況でもありがとうが相応しいムシ。顔を上げて名もない妖精のことをちゃんと記憶に焼き付けるムシ。」


烏滸がましいとは思いながらも、ムッシーの言う通り頭を上げて、ぼやける視界で緑の妖精を捉える。


「なんでここだけ綺麗ブツ?他は全部は傷ついてるブツよ?」


大地の様子を見て、緑の妖精は疑問を口にする。


「…本当ならッシャ、その公園はアニマッルが帰って来たらッシャ、生物皆で遊べるように整備してたッシャ。」


…そうだったんだ…。

……それも…私が……


「だったら、アイに出来ることを考えるムシよ。やりたいこと、でもいいムシよ。」


「……私にそんな資格なんか……」


私が言い終わる前にドッシャの手が、ムッシーの手が、そして


「よく分かんないブツが、元気を出すブツ!そうブツ!ここを皆で楽しめるお花畑にしてあげるブツ!ほら、ここで遊ぶ予定だった皆を呼んでくるブツよ!」


一輪の小さなピンクのお花を咲かせている手を緑の妖精が差し伸べる。


「……そう…だね。そうだよ。私にしか出来ないことがある。」


皆の手を握って立ち上がる。

緑の妖精の元気と皆の期待にあてられて、私に自信が湧いてきた。


「ごめんね。皆を呼ぶのは出来ないんだ。でもね、この世界中に綺麗なお花畑を作ってくれると嬉しいな。」


「?任せるブツ!とっっっても綺麗なお花畑にしてみせるブツよ!」


そう言って空高く舞い上がった。


「私…やるよ。やりたいこと。皆の思いを紡ぐよ。だからさ、皆にも最期まで見てて欲しいんだ。」


彼女は目元を拭って凛々しく立ち直す。

左腕の数珠が弾け、キラキラと花粉が舞う空に弧を描き、弦を張る。


「誰かを偲ぶシクシクの気持ち!だけど!それでも!皆に伝える"私達"の気持ち!『哀のエモーショナルセイバー』!」




「グリーフエモーショナルシャワー!!!」


深紅のカーネーションやアリウム、マリーゴールドなど色とりどりのお花畑に囲まれながら、薄紫の矢が外側(そら)を目掛けて弓から放たれた。



高く高く――雲を超え、大気圏を超え、宇宙に到達してもなお、速度を緩めず目標へ真っ直ぐと直進する。


これは彼女の哀しみ。

それに感化された文明の哀しみ。

人だけじゃない。虫も大地も植物も犬や猫や鳥なんかの動物、水も風も、雷も雨なんかの自然災害までもの全ての全ての全ての全ての哀しみは











―――――英雄を讃える万雷の喝采によって誰にも相手にされることなく消えた―――

これにて♡感情☆出力エモーショナルセイバーズ!『喜怒アイ楽』が堂々完結となります。


本来はもう少し短くする予定だったのですが、チエ編を入れてしまいましたもので結局、1年近く連載することになりました。


改めてましてここまで長らくお読みいただいた皆様、誠にありがとうございました!!



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