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黒魔道士1

「敵陣の中で、よくもまぁ、寝てられるもんだね。」


しゃがれた声は哀しみの淵にいるアイに届かない。

それどころか目を覚ましつつあるイカリとヨシミの方に気が行っている。


「…イカリちゃん!ヨシミちゃん!」


「あ…う……アイちゃん……。」


アイは2人の肩に腕を伸ばして抱き締めた。

「よかった。2人とも……。ここにいてくれて………ッ。」


「……儂の前でイチャイチャするのは辞めてくれんかね。儂ぁこれでも敵なんじゃが。」


3人には届かない。


「状況はどうなったのかしら……?」

ミッズー解放後、すぐに倒れたヨシミが気になったことを聞く。


「どこから話そうかな……。えっと、ミッズーと黒い騎士……さんは2人とも消えちゃた……。」

黒い騎士の正体に確信があるアイは嗚咽を堰き止めながら話す。

「……そして…ラクちゃんも……。」

アイが黒い騎士で動揺したこと、ラクナの名が出たこと、黒い騎士の髪がラクナと同じ緑色だったこと、この3つからイカリも最悪な結論を導き出し、震えが止まらなくなる。


「そんな…ラクちゃんもって……。弟さんにだって会えてないのに……。」

ヨシミは断片的な情報だけであるため分からない。


イカリの震えに気付いたアイは優しく抱きかかえて頭を撫でながらヨシミの方を向いて真実を告げる。

 

「……黒い騎士がラクちゃんの弟さんだったんだ…。ヘッビーが言ってたみたいに身体を操られてたんだ………ッ。」


「「…………。」」

イカリが絶望で、ヨシミは驚愕で声が出ない。

だが、ヨシミの頭は最低限回転していた。

アイの姉、ラクナの弟、イカリの父、全て彼女達の家族であり、内2人は20年前に行方不明になった共通点がある。ここまで揃って彼女がいないのはあり得ないだろう……。


「……成る程……。それで?あなたも操られているのかしら?お母さん。」


ヨシミはアイとイカリを庇うように立って黒魔道士の方を見据えた。


「……お、お母さん……?ヨシミちゃんの?」

自分が驚きの真実を公開した筈なのに、ヨシミから更に驚きの発言が出て、アイは驚きを隠せなくなった。


「詳しい話は後でね。それよりも……。」


自分の親がこんな悪事に加担していることが許せなくなったヨシミは黒魔道士をこれでもかと睨みつける。


「……ふぇえ。怖い顔。それが年寄り――――親を見る態度かい?」


やっぱりそうだったのね…。

でも、どうしてお母さんが……。


「何故、母親が娘さんと対峙するような道を選んでいるんですか!」

イカリちゃんの鋭い声が響き渡る。

イカリちゃんにとっても母親は特別な人なのでしょうね。


「仕方なかったのさ。」

腰を上げ、杖を持ち、矛先をこちらに向けて一歩、二歩と歩みを進める。


これ以上の会話は不要とでもいうかのような緊張感……。

いくらお母さんでも友達を傷つけるようなら……ッ。


「お話をしようよッ!私達は戦いに来たんじゃない!もう、哀しいことはやめようよ!」 


緊張感漂う空気を破壊して、アイちゃんが私達とお母さんの間に大きく腕を広げて立つ。

…そうね…。私達の目的は話し合い…。そうだったわね…。


「そうよ!私達に争う気はない。だから、お母さん。杖を下ろして。」

イカリちゃんも首を縦に振って戦う意思がないことを示す。


すると、お母さんはやれやれと呆れながら杖を下ろし、トンガリ帽子から顔を覗かせる。

「はぁ。さっきは1人殺した癖に。随分と都合の良いことさね。全く。」


「ッ!いや、あれは…」

お母さんはアイちゃんの反論をすかさず遮る。


「あれは、なんだい?仕方なかったのかい?仕方なく人を殺したとでも?えぇ?」


お母さんの言葉にアイちゃんは押し黙ることしかできない。

「そんな人殺し連中と何故、話し合いをしなきゃならん。」


人殺しと会話をする必要はない……言えてるかもだけれども……ッ。

いや、お母さんがそう来るなら私達にだって手はあるわ。


「確かに私達は人殺しかもしれない。でも、お母さんだって妖精を凶暴にさせて村を滅茶苦茶にしようとした。人が死んでもおかしくはない程に。私達は仕方なかったけれども、お母さんはやる必要がなかったのにやったんじゃないの?だったら、話す権利は私達にある筈よ!」


私の言葉にお母さんはさっきまで覗かせていた顔を帽子で隠す。


「仕方なかったのさ。しかしまぁ、あんたの言う通りさね。いいさ。話を聞いたとしても、どうせここで消える。なら、話してやろうじゃないか。」


良かった。お母さんとの戦闘はしなくて済みそうね。

私は警戒しつつも、少し肩の力を抜いた。

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