もう犠牲はいらない
冬祭りの日はリヒター邸で夜会が開かれる。
アレックスの参加で会場は明るいざわめきに溢れていた。
ヴィクトリアは活気に溢れる会場を会釈しながらそっと抜け出した。ヒューが着いて来ていることに気づきながらも、少し暗い道を慣れたように歩いて行く。
公爵邸の敷地にある教会に入ると、隣国の戦争に出征し帰ってこなかった者たちの名が記されている石碑があった。
彼女の大叔父の名前もあった。彼は戦地の病院で亡くなっていた為、墓にも死体はない。遺髪のみが王都の墓に入っている。
彼女は度数の強いお酒と、甘党の人もいるだろうと日持ちのするシュトーレンを石碑の前に置いた。
「ここだとカーティオ国の話は聞く?」
「はい。調べた所、西からあの男の様な者がポツポツと我が領にも来ているようです。対処を進めております。
西の隣国は復興が中々進んでいないと聞いております。元々土壌が貧しい中、男手が減り、寒波による災害が長引いた事が原因だと思われます。
ヴィクトリア基金で支援を続けている為、首都近辺は回復していますが、地方まではまだ行き届いていないようですね」
「もっと大規模に進めて。
リーンが寒冷に強い小麦を開発したと聞いたから、それが土壌に合うか確認してくれる?」
「あれを隣国に渡して将来隣国が攻めてくる事になったらどうしますか?」
「ヒューは馬鹿ね。そうならない為に支援するの。
豊かな国が戦争を起こす事より、貧しい国が簒奪に来る事のが歴史的に多いのよ。
このまま放置すると国同士の戦争にならなくても、治安の悪化の影響を我が国も受けるでしょう」
「つまらない事を聞きました。
ご指示、承知いたしました」
ヴィクトリアは暗い境界の中、静かに目を閉じて祈りを捧げた。




