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第6話 病弱美少女、新しい服を着る。


 目が覚めると、目の前にはリーンの顔があった。


 どうやらオレはリーンに膝枕されているようだ。


 オレはむくりと起き上がり、「ふわぁ」とあくびをした。


「ぶ、無礼者!!」


「へ?」


 右に視線を向けると、小太りのおっさんが何やら声を荒げている。


「領主様の前でそのような態度、到底許されることではないぞ!!」


「え……オレに言ってる?」


「それに《完全回復魔法(エクストラヒール)》を使って頂いたのに、お礼一つ言わないなんて!!」


 エクストラヒール?

 伝説級の回復魔法だったような……


「まあまあ、クリアさんは今まで寝ていたのです。そう咎めるのは酷な話でしょう」


 対面のソファに優雅に座っている水色髪の美少女は、落ち着いた口調でそう言った。


「初めまして、クリアさん。私はこの街で領主をしております、ソレノン・ワッカーンと申します」


「あ、初めまして。オレはクリアだ……です」


「何だその口調――もごっもごっ!?」


 小太りのおっさんはまた何かオレに言おうとしてきたが、護衛らしき男に口をふさがれた。


「アレは気にしないでください。クリアさんの話しやすい口調で話していただければ結構ですから」


「あ、ありがとうございます」


 というか、いまいち状況が飲み込めていないんだが……


 リーンに小声で話しかける。


(なあ、これって一体どういう状況だ? なんで領主様が目の前にいるんだ?)


(あー、【はぐれワイバーン】を倒したって言ったら、こんなことになっちゃった。あたしも驚いてる)


 どうやらリーンも状況がよく分かっていないらしい。


(でも、クリアちゃんの風邪を治してくれたのは領主様だから、お礼言った方がいいかも)


 そう言えば……確かに、体のだるさがない。どこも痛くないし、熱っぽくもない。


(もしかしてエクストラヒールって、風邪を治すために?)


(そうみたい)


(風邪を治すのにエクストラヒールを使うのか?)


(そうみたい)


「領主様、ありがとうございます。エクストラヒールを使っていただいて……」


「いえいえ」


「でもそんな伝説級の回復魔法を使う必要があったんですか?」


「そうですね、即時回復なら《完全回復魔法(エクストラヒール)》が最も簡単ですね。時間をかけてもいいのなら、《治癒(キュア)》とかもありますが……」


 まじか。


「……それに伝説級は言いすぎですよ」


「え? でも《完全回復魔法(エクストラヒール)》と言えば、世界に数人しか使い手がいない――」


 ――あっ。

 そうか、この世界と元の世界じゃ違うのか。


「使える人は、1000人くらいいると思いますが……」


「マジで!?」


 1000人!?

 この世界はそんなに魔法が発達しているのか!?


「ええ」


 領主ソレノンは軽く頷いた。

 そこでリーンが口を開いた。


「でも《完全回復魔法(エクストラヒール)》を使われたとき、領主様ふらついていましたよね? それほど高位の魔法を使っていただき、本当にありがとうございます」


 オレもそれに乗っかる。


「あ、ありがとうございます」


「いえいえ、当然のことをしたまでですよ」


 領主ソレノンは謙虚だ。


「それで、これからはどうされるおつもりですか? もしよろしければ、領主館に招待させて頂いても?」


「……クリアちゃん、どうする?」


「う~む、強い奴と戦えればそれでいいが」


「それなら、もうすぐ王都で武闘大会が開かれます。参加されてみてはいかがでしょうか?」


 武闘大会か。


「強い奴は来るんだろうな?」


「ええ。昨年優勝者は剣聖と呼ばれる人類最強の一角ですし、その他にも有名な剣士や冒険者がぞろぞろと参加しますよ」


 ほう。

 強い奴がぞろぞろと、か。そそるな。


 それに……こっちの世界の剣聖か。面白い。



 *



 明日に出発する飛空艇に乗ることになった。

 飛空艇とはこの世界の魔法技術の粋を集めて作られた、空飛ぶ船らしい。元の世界にはなかったものなので、かなり興味がある。

 領主ソレノンもその飛空艇で王都に行くらしく、一緒に乗ることになった。


 その後、ソレノンに世界最強についていろいろ聞いた。


 人間最強だと、剣聖か大賢者か勇者か……というところらしい。元の世界だと剣聖が最強だったが、この世界は魔法も発達しているようで、大賢者も最強の一角に数えられるらしい。

 でも勇者と剣聖が別っていうのは、すごい違和感だな。オレの世界だと勇者は100年に一度くらいで現れてたけど、剣の道に進むから結局、勇者=剣聖となるからな。


 他の種族だと、獣人最強の獣王や、エルフ最強のエルダーエルフ。魔族最強の魔王。オーガ最強の鬼王。ドラゴン最強のキングドラゴン。吸血鬼最強のヴァンパイアロードなどなど、最強と言ってもいろいろいるらしい。


 気になるのは、世界最強は誰か? ってことだけど、その中で誰が最強かはよく分からないらしい。


 というのも、


『万が一戦って負けてしまえば、その種族が窮地に立たされてしまいますし……』


 ということらしい。


 ソレノンに案内されてやって来た領主館はシンプルながらに上品さも兼ね備えた、美しい場所だった。

 客室はとても綺麗で『このベッド、すっごいふかふかだよ!!』とリーンは興奮していた。『ホントに今日ここで寝ていいんだよね!? いいんだよね!?』と繰り返していた。


 この後は素振り――ではなく、ソレノンの紹介で、街一番の服屋にやってきた。

 本当は素振りしたかったが、リーンの“一緒に来て!!”オーラの前に屈服した。仕方ない。本当に仕方ない。あんな目で見られたら、断るにも断れない。


 今思い返しても、断るのは不可能な気がする。


 でも良いこともある。

 どうやらソレノンが買ってくれるようだ。


「【はぐれワイバーン】を討伐していただいたことは、この街にとって莫大な利益となります。あの魔物は状況が悪いと分かるとすぐに逃げてしまいますから。なのですべて私からのプレゼントです。遠慮なく、好きな物を選んでください」


 とのこと。


 リーンは陳列された服をキラキラと輝いた目で見ている。


「村の服屋とは全然違う!!」


 とご満悦だ。


 見ると領主ソレノンも目を輝かせているようだ。

 クールな雰囲気かと思っていたけど、こうして見ると領主と言ってもまだまだ子供だなって思う。


 さて、ちょっと外で素振りでもしようか、と思った矢先。


「お嬢様、大変お綺麗ですね……しかし少々サイズが合っていないようです」


 店員に話しかけられてしまった。

 オレはリーンに貰ったこの黒のワンピースでいいのだが……


「それにブラジャーのサイズも合っていないように見受けられます」


「はぁ……」


 どうでもいいな。


「正しいサイズのものを付けることは、体の発育にとって、とっても重要なことなんですよ?」


 ぴく……


 体の発育にとって重要?


「それってマジ?」


「え、ええ。正しいサイズを着ることが正しい成長には大切なんですよ?」


「なるほど」


 この体はまだまだ成長期だ。

 そして最強になるためには妥協は許されない。


 正しい成長は絶対に大切だ。


 オレは下着から何から何まで全部一式買うことにした。

 なぜか『大丈夫です、お客様の年齢でそのサイズは普通ですから! まだまだ大きくなりますよ!』と励まされたが、何のことを言っていたのかはよく分からない。


 せっかく買うので、ワンピースはやめた。

 だってパンツ見られたくないし、その上、足元がスースーして落ち着かない。


 下は長ズボンにして、全体的な雰囲気はナース服みたいな感じの服装になった。


「クリアちゃん、可愛すぎるよ!!」


 とリーンには大絶賛された。

 でも別に嬉しくもなんともない。

 あんまり自分を褒められたって感じがしないしな。


 ちなみにそう言うリーンはミニスカートを買ったようだ。

 上は少しもこもこした感じの可愛らしい服で、容姿レベル高すぎない? と思ったり。


 そんな感じで高級服屋を過ごした。


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