第19話 病弱美少女、力を隠す理由を知る。
牢に入った。
オレとリーンは2人部屋で、ソレノンは1人部屋の牢に入った。
まだ始まったばかりだが、牢での生活はなかなかに快適のようだ。
やはり部屋は自由に出入り可能で、風呂と食堂、中庭にいつでも行くことが出来るのが大きい。
これは牢と呼んでいいようなレベルなのだろうか?
今現在までのことをまとめると、
牢に入る
↓
昼ご飯
↓
中庭で修業
↓
お風呂に入る
↓
夕食
という感じだ。
食事はソレノンと一緒に3人で。
それ以外はリーンと二人だった。
まず、修業について。
リーンと一緒に修業をしたのだが、そうは言っても、ほとんど素振りしていただけだった。
素振り以外だと、少し手合わせをしたくらいだ。
……ちなみに今回が初めての戦闘だったりする。が、リーンは本来の実力を出せていなかった。
というのも【魔封の首輪】で魔力が封じられているので、持ち前のスピードが出し切れていないようだった。
修行の後はお風呂に入った。
お風呂は流石王宮のお風呂と言った感じで、素晴らしいものだった。
もちろんなるべくリーンの体を見ないように配慮した。
そういうところはなるべくちゃんとしないとな。
そして今、オレはリーンとソレノンと3人で夕食を食べている。
「でも正直、警備が雑過ぎないか? 大丈夫か、これ」
オレは口を開いた。
はっきり言って、逃げ出そうと思えば簡単に逃げ出せる。
監視はたまに巡回する兵士がいるくらいのようだし……
「まあ、この【魔封の首輪】を信頼しているということでしょう。定められたエリアから出ると、バレるようになっていますから。それに【魔封の首輪】を付けた状態だと、戦闘力が格段に落ちますし。どれだけ強い人でも、せいぜいがCランク止まりでしょう」
ソレノンはそう言って、スパゲッティーを一口食べた。
……ん?
「え? Cランク止まり?」
「ええ。いくら技量があったとしても魔力がFランクならば、結局Cランクが限界だと思います。それほどに魔力量というのは大事なんです」
……う~ん、オレは四獣将(SSSランク)に勝ったのだが。
重要なのはどれだけ技に集中できるかだ。
確かに魔力は大事だし、あればあるだけ絶対に楽になる。
だけど一番大切なのは魔力じゃない。集中力だ。一つの技に集中して、放つ。それが基本だと思う。
「なあ、ソレノン」
それとは別に、俺には聞きたいことがあった。
「なあ、話は変わるが……ひとつ聞きたいことがあるんだが、いいか?」
王様との謁見の時、ソレノンは確かに嘘をついた。
その理由を聞きたかった。
しかし、ソレノンは乗り気ではないようだ。
「えー」
と言いながら右手を立てて、左手を額につける。
「ここは多分、盗聴されています。それでもいいのなら」
ソレノンはそう言った。
「えっ!? そうなのか!?」
「ええ、多分受動型の盗聴魔法が使われていると思います」
ということは『なんで嘘ついたんだ?』なんて質問しない方がいいか。
しかし気になる。
オレは一つの案が浮かんでいた。
それは奥義を使うこと。
奥義、三の太刀、《断絶》だ。
これを音の繋がりを断つために使えば、完全防音が可能だ。つまり、オレたち3人を囲む空間に対して音の繋がりを断てば、3人で会話する分には問題ないが、外に会話が漏れることはない。
しかし――
懸念もあった。
あの聖女に叱られたとき、オレは、
『奥義は一日一回まで』
と決めた。
だが実は、さっきの修行の素振りの際に、練習で奥義を使ってしまった。
ちょっと異能の太刀《反転》の練習をしたんだ。
そんなわけで、ここで使ってしまうと今日2回目となってしまう。
ただオレが今から使おうとしている奥義は、かなりしょぼいものだ。
音に限定して使用するもの。
だからかなり簡単なはずだ。
「まあ、いっか。1回だけなら」
奥義の追加の1回くらい大丈夫だ。
しかもかなりしょぼいのだし。
オレは奥義を放った。
「ソレノン、ちゃんと防音したぞ」
「……え?」
「この3人での会話が外に漏れることはないから、安心してくれ」
「……え? でも《防音魔法》は使えませんよね。《エリア維持魔法》がありますから」
確かに兵士が言っていた。
《エリア維持魔法》が使われていて、この場所ではすべての魔法をレジストしようとしてくる。だから魔法は使わないように、と。
しかし、俺には問題ない。
「――大丈夫だ」
「……え? それはどういう」
「奥義を使ったからな」
「お、奥義ですか!? ……でも本当に大丈夫なんですね? 本当に防音されているんですね?」
そう言ってソレノンはリーンに視線を飛ばす。
リーンはコクリコクリと首を縦に振った。
「分かりました。それでは、クリアさん。聞きたいことって何ですか?」
ソレノンはオレに向き直って聞いてきた。
う~ん、リーンを信頼しているね。
そしてオレへの信頼感……まあいいけどさ。
オレはソレノンへ返答する。
「王様と謁見の時、ソレノンは嘘をついただろ? あれはなぜって純粋に疑問だったんだ」
「あー、やっぱりそれですか」
質問の内容は予測されていたようで、ソレノンは苦笑いを浮かべる。
「端的に言うと、クリアさんとリーン様の力を隠すためです。四獣将を倒すほどの実力を持っているなんて、絶対に知られてはいけません」
「え? なぜだ?」
「なぜかと言うと……いろいろ理由はあるのですが、大きな点は2つですね」
ソレノンは右手で『チョキ』を作って、ジェスチャーを交えながら説明する。
「まず1つ目は、お二人のためです」
「オレとリーンの?」
「はい。王様から見れば、あなたたちは単純に50%で帝国のスパイ、50%でただの自国民、ということになります。
もし仮に二人の実力がバレてしまえば、50%ですごく強い帝国のスパイということになり、王国から見ればかなりの脅威となります。一方、もう片方の50%の方だった場合、自国にとって素晴らしい存在になるかというとそういうわけでもないんです。
だって貴族でもないただの自国民ですよ? 自国に対する忠誠心なんて大してないと考えるのが自然です。もちろん、もしかしたら味方になってくれるかもしれない。でも旅人となってどっかに行ってしまうかもしれない。自国出身だからあんまり敵対するとも思えないが、味方になる保証はない。
つまり総合すると50%でかなりの脅威、50%でプラスかもしれない、といった程度です。
――なら、クリアさん。こんな存在がいたら、あなたならどうしますか?」
「えっと……」
どうするんだろう?
帝国のスパイか、ただの自国民の、味方になってくれるか分からない強者。
もし帝国のスパイなら殺したい。もし自国民だったら味方へ引き入れたい。
「う~ん、お金を積むとかか? たくさんのお金を積めばもしかしたらスパイをやめてくれるかもしれないし」
「発想としては、かなりいいですね!」
ソレノンは微笑む。
「ただ、王国はもっと非人道的な方法を使うと思います」
「非人道的?」
「ええ、まあ御二方はまだまだ年若い女の子ですので……例えば男に依存させるとか」
「お、男?」
「ええ。女を落とすのが上手い男を連れてきて、その男しか見えなくさせる。そうすればスパイだろうがなんだろうが、味方になりますよね」
当然のような口ぶりに、オレは反抗したくなる。
「でも大丈夫だ! もしそうなっても、リーンはオレが守るからな!」
オレは力強く宣言する。
「あたしはクリアちゃんの方が心配だよ……」
「オレか? オレは絶対大丈夫だ!」
元おっさんだしな。
「ホントに?」
リーンは心配なようだ。
しかし、ノーマルのオレが男になびくなんてことあり得ない。
オレが心配なのはリーンのこと――
「ホントに自分の心配だけすればいいからな! てか、リーンに近づく虫がいたらオレが叩き斬ってやる!」
そういうと、リーンは笑顔になった。
「ごほんっ!!」
ソレノンが大きく咳払いをした。
「それで……男だけじゃなくて、もしかしたら薬を使ってくるかもしれません。まあ結局、お二人のためにはならないと思います」
「薬か」
「ええ、これならもっとひどいですね。廃人コースです」
ソレノンは、淡々としゃべる。
「そして力を隠す理由の2つ目は、お二人が強いなんてことがあまりにも不自然だからです。というか私も実はいまいちお二人の強さが分かっていないのですが……えっと……やっぱりクリアさんは強いんですか? 奥義が使えるようですし! やはり二人で四獣将を倒したと?」
「いや、オレが一人で倒したんだ」
「……それってホントなんですか? やっぱり風邪をひきまくっているクリアさんが強いなんて考えにくいのですが……でも奥義も使えるようですし、そうなんですかね?」
「まあな」
「なんにせよ、四獣将を倒すほどの人が辺境の村にずっといたとか、やはりあまりにも不自然ですよね」




