第18話 病弱美少女、謁見する。
オレたち3人は王の間に入った。
驚いたことに、もうすでにかなりたくさんの人がいた。
この世界のことは分からないが、これだけ多いのは珍しいんじゃないか?
部屋の壁際にはたくさんの兵士が並んでいる。
そして目の前で、この場で唯一座しているのは、王様だろう。
頭には金色の冠を載せているし、その椅子も非常に豪勢だった。
兵士は壁際だけではなく、王様の横にもたくさん並んでいる。
また兵士以外にも貴族らしき人たちもいるようだ。よく見ると、壁際に立つ兵士の後ろにたくさんの豪勢な服を着たおっさんたちがいた。
兵士と貴族を合わせると、数十人という人がいる。
一方――
――オレたち謁見側は4人。
そう、4人なのだ。
ソレノンとリーン、クリア以外にももう一人、背の高い男がいた。
この男は一体……?
年齢は30代だろうか?
筋肉はあるようだが、猫背のせいか、全体的にひょろ長い印象を受ける。
服装は貴族というよりは、兵士の寄りの印象を受ける。
しかしこの場でオレがいきなり聞くなんて、流石に常識知らずだということはわかる。
疑問に思いながらも、オレは待つしかない。
「ソレノン・ワッカーン、報告せよ」
王様が口を開いた。
「はっ!」
ソレノンは小さく短くはっきりと返事をした後、一歩前に出る。
「不肖ソレノン・ワッカーン! 報告いたします。本日朝、私は王都行きの飛空艇に乗りました。そこで獣人から襲撃を受けました」
ざわざわ。
ざわざわ。
小声だが、貴族らしき人たちが“獣人”という言葉に驚いているのが分かった。
「また獣人の中に、獣王と四獣将がいることを確認」
ざわざわざわ。
ざわざわざわ。
先ほど以上にざわめきが大きくなる。
「皆の者、静粛に」
王様が口を開いた。
するとびっくりするほどの静寂が広がった。
そんな中でソレノンは、恐れずに発言する。
「私は逃げることを最優先に、後ろにおられますお二方とともに飛空艇から飛び降りました」
……ん?
違くないか?
ソレノンは飛空艇から一人で飛び降りたはずだ。
「そして私は魔法を使い、王都へと逃げます。しかし、そこで四獣将が追ってきました。追う四獣将と逃げる私たち。それは筆舌に尽くしがたい激闘となりました」
えーと、あれ?
「途中、私は致命傷を負いましたがエリクサーのお陰で復活し、なんとか王都まで逃げてこられたという次第でございます」
えー……
とりあえず、エリクサーと使ったところくらいしか合ってないな……
もしかして、これがさっき言ってたことか?
オレたちが四獣将なんて倒せないっていう設定にするって話。
「ふむ、となると、ソレノン・ワッカーンは飛空艇には獣人が襲ってきたという見解でよろしいのか?」
王様が言った。
「はい」
「では確認しよう。ベロウ・カルナーよ、お主は何と報告した?」
「飛空艇には確かに“帝国軍”が襲ってきたと。ベロベロベロ!」
ベロウと呼ばれた背の高い男は、舌を出して頭を振った。
……は?
オレは耳を疑った。
そして同時に目も疑った。
まず、耳を疑った理由は、ベロウという男の報告が間違っているから。
帝国軍が襲ってきた??
違うだろ。
オレは四獣将だけとしか戦っていないが、リーンはたくさんの獣人が襲ってきたといっていた。
間違いなく獣人が襲ってきた。
そして二つ目、目を疑った理由は、謎のベロベロ行動。
舌を出して顔を横に振った、ベロウとかいう男。
下品すぎる。
王様の前でやるような行動じゃない。
てか、王様うんぬん以前に人前でそんなことするなんて頭がおかしい。
――しかし貴族たちは無反応だった。
どういうことだ??
だが、オレの心は無視して、状況は進む。
「ソレノン・ワッカーンは、獣人が飛空艇を襲ったと言っておる。一方でベロウ・カルナーは、帝国軍が飛空艇を襲ったと言っておる。これは矛盾だ」
王様はゆっくりと周りの者たちへ視線と飛ばしながら、言った。
「どちらかが嘘をついておるとしか考えられん! 異論はあるか?」
王は見渡す。
しかし誰も何も言わない。
「……異論はないようだな。ソレノンかベロウか、どちからが嘘をついておる。これは本当に悲しきことだ。伯爵であるソレノン・ワッカーン、第12騎士団副団長のベロウ・カルナー。どちらも国の中枢を担う人物であるというのに……」
ベロウは第12騎士団の副団長らしい。
あんなベロベロ行動しているのに、案外地位はあるようだった。
「悲しいが、これは現実である。二人に質問がある者は挙手を」
王がそう言うと、兵士の後ろから次々に手が上がる。
貴族たちが質問をし、二人が答えていく。
オレとリーンにも少し質問が飛んできたが、すべて『ソレノン・ワッカーン様の言う通りでございます』と答えた。
そして1時間ほど経った時、王が『次の質問で最後にしよう』と言って、終わった。
貴族たちが去った後、王が口を開いた。
「4人には、ついて来てもらいたい場所がある」
オレ、リーン、ソレノン、それにベロウの4人は、騎士たちに囲まれながら王についていく。
まず中庭、次に食堂、そして風呂に案内された。
どれも素晴らしい施設だった。
流石の王宮である。
こんな場所で修業できたら最高なのにな~、なんて思ったり。
しかし、
何がしたいのだろう? と思っていた。
そしてやっと、目的地に着いたようだ。
「ここに来てもらいたかった」
……え?
そこは異質な場所だった。
部屋の中は、ただの客室のようにしか見えない。
綺麗なベッドや姿見、テーブルが置かれている。
その質は多分、領主館の客室を超えているだろう。
しかしそれらをすべてぶち壊すかのように、壁の一面が牢屋のような金属の柵となっていた。
「何なの、ここ……?」
リーンの声が漏れた。
「端的に言えば、牢だ」
――牢!?
しかしオレと同様に驚いているのは、リーンだけだった。
ソレノンとベロウは初めから分かっていたのか、全く驚いた様子はなかった。
「犯罪者相手の牢でないからな。拘束目的の場合、こうしてなるべくストレスのない生活が送れるように作られている。風呂はいつでも入れる上、食事は一日3食きっちり用意させる。また中庭には自由に移動可能だ」
王様はゴホンと咳で一拍とった後、
「ベロウ・カルナーとソレノン・ワッカーン、どちらかが嘘をついているのは明白。故に身柄を拘束させていただく」
「ハァ!? ソレノンだけじゃなくオレ様もか!? ベロベロベロ!!」
ベロウは舌を出して、頭を横に振った。
……ホント、なんだコイツ。
気持ち悪すぎる。
「ベロウ、朕はお主がきっと正しいと思っておる。しかしながら事はそう簡単に決めてしまっていいようなことではないようだ。ベロウかソレノンか。どちらが正しいかという選択は、デルタ王国の歴史を変えるほどの重要さがある。
つらいとは思うが、王国のため、いくばくか牢の中に入ってはおくれんか?」
「ベロベロ! 王にそこまで言われたら仕方ない! 入ってやる!! ベロベロベロベロ!!!」
ベロウはベロベロ言っているが、案外聞き分けはいいようだ。
「私も牢に入りますが、リーン様方は入らなくとも結構ですよ?」
「え? いいの?」
「ええ。むしろ命の恩人を牢にいれてしまったとなれば、末代までの恥です。武闘大会に出るんですよね? 頑張ってください」
「う~んなら、お言葉に甘えようかな」
リーンが応えた。
そこに国王が割って入る。
「強制はしないが、できれば入って頂きたい。何か要望があればできる限り対処させていただく故……」
「いや、入ってもいいぞ?」
オレは言い放った。
「え、いいの? でも武闘大会はどうするの?」
「武闘大会は出ない」
強い奴と戦うのは一旦パスの方針だ。
聖女様に体を大切にした方がいいと言われちゃったし、ぼちぼち修行していくか。幸い、さらに強くなるビジョンは描けている。強い奴と戦うのは、後の楽しみにしても遅くないと思う。
この体はまだ14歳。
たったの14歳だ。
41歳のおっさん感覚で言わせてもらうと、子供も子供。まだまだ人生始まってもいないようなレベルだと思う。
焦ることはない。
それに、この牢、かなり居心地がよさそうだし。
「あ、でもオレ、3日後に聖女のところに行かないといけないんだった」
「大丈夫だ。事前に許可を取れば、外に出ることも可能だ……兵士と一緒にはなるが」
「なら、いいかな?」
「ふむ……それと、牢に入ると【魔封の首輪】を付けてもらうことになる。その点は大丈夫か?」
「【魔封の首輪】?」
聞いたことがないので、聞き返す。
「【魔封の首輪】というのは、魔力を制限する魔道具だ。これをつけるとどんな達人でも、魔力が一般人レベルにまで下がってしまう」
え?
魔力が一般人レベルにまで下がる?
う~ん、これってさ。
魔力が一般人レベルの達人には無意味だと思うんだが……
まあ、そんな奴いるはずもないとは思うが。
だって、達人は長年の修行をしているはずなんだから、魔力が一般人レベルなはずはないし。
うん、いるわけないよな。
いるわけないからな。
……でも実は、いるんだよなぁ。
え?
どこにいるんだよ!? だって??
……ここにいるんです。
泣けてくる。
「なるほど、全く、問題ないな」
オレは“全く”という部分を強調して言った。
自分で言ってて悲しくなる。
「クリアちゃんが牢に入るんだったら、あたしも入る! 部屋はクリアちゃんと同じ部屋がいいの!」
「いやでも、リーンが入りたくないんだったら、別にいいが……せっかく村から出て外の世界に出たのに、こんな牢で暮らしてたらいみないし……」
「えっと……そ、ソレノンちゃん。牢に入るのってどこくらいになるの?」
リーンは王様に聞こうとして、怖気づき、ソレノンにたどたどしく聞いた。
「多分、2週間。どれだけ長くても1か月だと思います」
「それくらいなら、全然あたしはいいの!」
「そうか?」
「うん!」
そんなわけで、オレたちは牢に入ることとなった。