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天上伝奇譚  作者: 橋口 紅葉
9/11

その速さ、韋駄天の如く

小田部村付近にある田島山に鬼が住み着いたと云う情報を聞いた天城は、仲間よりもいち早く小田部村に駆けつけ、久方ぶりの鬼退治に心を躍らせていた。


到着したのは日が沈む前であったが、そのまま田島山に赴いて鬼退治を開始しようとした矢先、数十名ほどの小田部村の住人に出くわす。


「だから、いま戻っても無駄だと言っておるだろう!」


「いやぁ!離して!千代ちゃんを!千代ちゃんを助けに行かないと!!」


泣き叫ぶ一人の女性が村の者達に抑えられる光景は異様で、何かしらの事件が有ったに違いないと見当した天城は、少し離れた場所で彼等を見守る青年に近づいた。


「其処に居られる御方よ、少し聞きたい事があるのだが」


声をかけられた村人は、空気が読めない彼に非難の視線を向けるが、見知らぬ人物であったために目を丸くした。


「あんた、誰だ?」


「自分は天城楓と申す。近頃、この周辺に鬼が住み着いたと聞いて参った次第だが、その鬼に心当たりはあるだろうか?」


「心当たりはあるが、あんたは鬼を見たらどうするんだい?」


「斬る」


即答する彼に青年は呆れた顔をする。


「そいつぁ、む」


「あ、あの!其処におられるお侍様!どうか一つ、私の頼みを聞いて下さいまし!」


先程まで取り乱していた女性が、村の者達に取り押さえられた状態で泣き叫ぶように懇願した。


どうやら、二人の会話が耳に入ったらしい。


「ええ、申して下さい」


「今、田島山の奥深くに千代と云う少女が鬼に襲われております!その娘をどうか、どうか助けてやって下さいませんか!?」


「ほう、少女が鬼に襲われておるとな。ええ、いいでしょう。任せて下さい。ではこれにて」


「あ!ちょっと、君!待ちたまえ!」


村人達の制止を求める声に耳を傾けず、青年は人間の領域を超えた速さで田島山へと向かって行く。


止めれる者はいなく、あっという間に青年は田島山の奥深くまで行ってしまい、天城の姿は見えなくった。


その速さに村人達は目を丸くし、梅は呆然と呟く。


「千代ちゃん、どうか無事で…」


✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎


田島山に入った天城は、田島山に住む精霊の声に従って夜の獣道を肉眼では捉えれきれない速さで駆け抜ける。


天城楓には不思議な力を持つ先天的能力の保持者であり、その力は、本来人間が視認する事が不可能の精霊と意思疎通が出来る、という能力であった。


「あと少し!あと少し!」


幼い子供の声の主は、田島山に住む精霊達である。


「ああ、有難う。田島山に住む精霊よ」


「助けてあげて!助けてあげて!あのお姫様を助けてあげて!」


「お姫様?どういう」


精霊達の言葉に耳を傾けていた天城だが、前方に息を潜めて毘売を喰らおうとする赤鬼を見て、一気に毘売の元へと駆け寄る。


「ちっ!」


(くそ!間に合え!)


懐から霊符が付いた二本の苦無を取り出し、そのうち一本を少女の奥にある木へと投げ、もう一本を少女の手前にある木へと投げつけた。


直後、二枚の霊符が共鳴しあい、鬼と少女の間に燐光を放つ結界が出来た。


結界が出来た事で鬼は少女を喰らう事が出来ず、素っ頓狂な声を上げて結界にぶつかる。


精巧に作られ、強度のある結界は巨体の赤鬼に突進されてもビクともしない。


速度を緩めた天城は少女の元へ駆け寄り、未だ怯えた様子で目を瞑り俯く少女を横抱きにして、鬼から距離を置くために後方へと跳んだ。


「良し、間に合ったか」


そうして、天城は自分の腕で縮こまっている少女を見つめて、安堵の声を洩らした。

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