エピローグ
「すっきり片付いてよかったわ」
「村木ときっぱり別れるなんて、今の今まで信じられなかったけど」
「う~ん。でもやっぱり、春樹君の存在のほうが大きくなっちゃってるのよ」
「きっといい人なんだろな」
「ていうか、キッドみたいに強引なとこあるのに、案外あたしに無関心なとこあって、見た目にもカッコいい彼じゃないけど、いつもすごく優しいのよ」
「喧嘩もしないくらい?」
「しないなぁ。颯ちゃんとはよく喧嘩して、すぐ仲直りしてたけど、あたしが我慢してきただけだったような気がするの」
「それその通りだと思う。お前って断り切れない性格だろ。我慢してでも相手の言うとおりにするとこあるもんな」
「あんたもそこを利用してきたんでしょ」
「そう言われればその通りだけど。頼りになる存在って言えば許してくれる?」
「お返しがないと許さないわよ」
キッドは少し笑って、後部座席のカバンを手に取った。
「はい、これ」
そう言うと、カバンからラッピングされた紙袋を取り出して、恵美莉に差し出した。
「うん?」
「少し遅くなったけど誕生日プレゼント」
「へえ? 珍しい」
「そういや(お前にプレゼント渡したことなかったな)って思ってさ」
「そうね」
「なんか、村木に遠慮してて、今まで渡せなかったんだ」
「それはあたしもそうよ。あたしみたいのがプレゼント渡してたら、あんたの周りの女が変に思うでしょ」
「そうだったかな?」
「うん。あたしだって気を使ってたわ」
「なんかお互い様だったな」
「あんた誕生日、9月よね。そん時はお返しになんか渡すね」
「・・・・・・それこそ気を使ってないか?」
「うん。気を使うなぁ。あたしたちへンな関係よね」
「俺たち同士のことには遠慮するって、そんな付き合いだったんだな」
「今更、誕生日に会うっていうのもヘンだしね」
「ま。俺へのプレゼントは、誕生日の前後6か月間受け付けてるから大丈夫だよ」
「ふふふん、何よそれwww。1年中じゃない。・・・これ開けるよ」
恵美莉は紙袋のシールをはがして中を覗いた。
「うん。大したもんじゃないけど、アメリカの恋愛小説でさ、最近読んで結構よかったから」
「あんた、恋愛もの読むの?」
「いや、俺の大学の課題で出たんだよ、これ。恋愛はいっぱいするもんだよって内容だけど」
「ペーパーバック(英字小説)か、英語で読んだの?」
「国際コミュニケーション専攻のお前だったら読めるだろ。小説書く余裕ないって言ってたから、ちょっと気分転換にいいんじゃないかと思って」
「うん。ありがとう。言語学だっけ? 専攻。あんたもちゃんと勉強してるのね」
「ああ、やることいっぱいあるよな。平穏な高校時代が懐かしい」
「ホント毎日大変よね。ちょっとは大人になってるのかな」
「うん、お前、随分大人っぽくなったよ」
「あんたもね。こんな車買っちゃって。あ~あ、春樹君にもこんなの買ってほしいのにな」
「ローンは長いんだぞ」
「でも使いまくるんでしょ。女のために」
「はっきり言って、その為の投資だね」
「ふふふふ、あたしには、コルベット乗せてくれる人いるよ」
「え!? そんな高級車? 愛人か?」
「違うよ、仲のいいバーのオーナーさん」
「怪しいなそれ」
「あたしももう、高校ん時とは違うわけよ」
「やっぱり色々あるんだな」
「よねぇ。あたし美人だもん」
「確かに美人になったよな」
恵美莉はバッグの中の小さな布袋を開け、ルビーのペンダントを取り出して首にかけた。
「これもある人から貰ったの」
「ええ? お前も結構やるじゃん」
今度は左手を立てて見せて、
「でも、この指輪は春樹君。これだけはずっと着けてるよ」
「う~ん。案外秘密持ってるな」
「キッドも色々あるんでしょ」
「なんでだよ」
「あんたもカッコいいから」
キッドは恵美莉に初めてこういう言い方をされたので戸惑った。(昔はこんなこと言い合う仲じゃなかったのに)と。
「努力はしてるよ」
「ふ~ん。例えば今日はどんな努力してたの?」
「え? 今日は村木とドライブして・・・」
「昨日もしてたのに?」
「ああ、話すことがいっぱいあって・・・」
「へえ? 二人だけの大事な話に、女の子を連れていったのかなぁ?」
キッドは、今日の女子たちとのドライブを、どこかで見られてたのかって考えた。
「後部座席から香水の匂いしてんだもん。誰連れてってたのよ?」
「いや、いやいや。こ、後輩だよ。高校の後輩」
「ふ~ん。以外にも楽しく遊んでたのね」
「そんなことないよ」
「じゃ、そのバイザーにぶら下げたサングラス。あざといよ」
「これは今日眩しかったから・・・」
「何、眩しさに“カコ”つけて、“カッコ”つけてるのよ!」
「う? またおもろい表現。お前、絶対小説書いたほうがいいと思うよ」
「誤魔化すな! 楽しんでたんでしょ!」
「ま、ちょっとだけな」
「用心しないと、そんなことからもバレるんだよ」
「お互い大人になったなぁ」
「色々気をつけとかないとね」
「色々気を・・・色気をつける?」
「バカ。それも書かないわよ」
「・・・・・・恵美莉、俺ちょっと心配なことあるんだ」
「あたしは大丈夫よ」
「お前じゃないよ、村木のほう」
「ああ、大丈夫じゃない? 案外、現地人の彼女いるかもよ」
「・・・なんか知ってる?」
目が宙を舞い、視線が定まらなくなったキッドに、
「ふふん。男って、空気よどませるの上手だから」
と、恵美莉は落ち着いて言った。
「・・・くうき?」
「それよ、それ。もう、颯ちゃんの肩持たなくったっていいよ」
「別に肩持ってるわけじゃ」
「はいはい。次行ってみよー!」
「あっさりしてるな。もっとしんみり泣き出すのかと思ってたのに」
「男扱いうまくなったでしょ」
「確かに村木の性格を見抜いて、うまく片付けたよな」
今回はキッドもうまく利用されたのだが、キッド自身にはそんな自覚などまったくなかった。それに対して恵美莉は、彼にこの上ない感謝の気持ちを抱いている。
「あたしも成長したんだから、高校ん時とは違うって言ったでしょ」
「成長?」
「色んな男も知ってるってこと」
「・・・・・・!」
「・・・・・・?」
「な、恵美莉。一回俺と寝てみないか?」
「キッド、殺されたいんか?(睨)」
「いえ、冗談です」
おわり




