終
ナタリーは夫ルーンベントを伴ってベリア領を訪れていた。
姉弟子であるメリッサの招待に応じたものであったが、兄王の依頼でもあった。
ブリア公爵の屋敷に招き入れられ、それが結婚式であることに気がつく。
公爵を見つけて尋ねると、グレイシアの結婚だと言うではないか。
「ご無事だったのですね!」
ナタリーは震える。
王からは何もしらされなかった。
けれど、塔の光の変化を見たナタリーは覚悟していた。
臣下に下ったナタリーは今、宰相として王政を司るが、王家の人間ではない。全てを知る立場にはないのだ。
「え?結婚?」
遅れて反応するナタリーに、ヨシュアは苦笑する。
「そうだ」
穏やかな口調だ。
モリーに呼ばれて立ち去る叔父の姿は、かつて祖母に振り回されていた青年とは丸切り別人に見える。
ヨシュアは優秀だ、と常々話していた父の顔が浮かんだ。
実際に、敵地であったベリア領を、ここまで平穏な領地に治めているのだ。
子どもの頃とは違った色の景色が、ナタリーの前に広がっている。
音楽が鳴る。
壇上に上がった領主夫妻が、本日の婚姻申請者の名を呼ぶ。
貴族は王家の許可の元、婚姻を結ぶ。
平民は領主の許可の元、婚姻を結ぶ。
ランバートとグレイシアは平民となったのだ。
現れたグレイシアは老女の姿をしていた。隣に立つランバートは、それでも満足そうに微笑んでいる。
「あら、アイツ、目眩しを解いてないの?」
呆れたようなメリッサの声が聞こえる。
「完全に自分のものにするまでは隠したいのよ、きっと」
ポリアンナが応じている。
弟子たちのうち、ナリーニとレオンハルトは呼ばれていないようだ。
ヨシュアの声が響き、婚姻の許可が与えられる。
夫婦になった二人が、婚姻の魔法陣を交換すると、グレイシアの目眩しが解かれた。
会場が、ため息で溢れる。
美しいグレイシアの姿は、さらに幸せの光を纏って輝く。
「うわぁ」
隣からルーンベントが声を抑えながらも呟く。
「すごいね、ナタリー。あの人キラッキラだよ」
夫の無邪気な声に、ナタリーは苦く笑う。
美しい。
魔法爵グレイシア。
幼い頃から憧れた、王国最高の魔術師。
誰もが間違いなく見惚れるだろう。
「眩しすぎて見てらんない。ナタリーを見ててもいい?」
続いた言葉に、ナタリーは全身の力が抜けた。
彼女の夫は、相変わらず、彼女一筋だった。
これにて、グレイシアの物語は終了となります。
最後までお読みいただきましてありがとうございました。
明日以降は、ヨシュアの妻モリーの話を別作品としてアップしてまいります。コチラと同じシリーズに入れたいのですが、うまくできず…。地道に探ります。
モリーの物語もよろしくお願いいたします。




