01 稼働終了
生粋のゲーマーというわけではなかった。有名なタイトルをいくつか齧って、クリアする前に飽きて積んでしまう。僕はその程度の、言うなればカジュアルなゲーム好きだ。それでも、『そのゲーム』だけは特別だった。
『ハルメノス・クロニクル』。アーケードゲームの金字塔とも称されたこのゲームは、自由度の高いRPGとして現代に送り込まれた。一回百円という破格のお値段で濃厚なゲーム体験が楽しめる。お手軽なアプリゲームや、高価なハードから繰り出される重厚なパッケージ蔓延るこの時代にあって、決して負けることなく隆盛を極めた――ほんの数か月前までは。
運営から直々のメッセージ。それは稼働終了という、いつかは全てのアーケードゲームに訪れる幕引き。あまりにあっけなく、あまりに未練があり過ぎた。売り上げが良くなかったわけでもないだろうに、どうして。そんな思いが去来する中、僕は今日も行きつけのゲームセンターに足を運ぶ。
そう、終焉にはまだ幾ばくかの余裕がある。正式な稼働終了まで残り一週間だが、僕は暇を見つけては毎日のように通っていた。もうすぐ全てが終わってしまうのに、それでも、やっぱり、特別だったのだ。
「お、やってんね」
ちょうどアーケード前に座り、百円を投入してホーム画面を眺めていた時、背後から声をかけられる。振り向くと、そこには見慣れた少女の姿があった。
ウルフカットの黒髪に端正な顔立ち、快活な笑顔というフレーズが良く似合うその少女、ニナは地元の学校の制服姿で隣の台に座った。
「学校はどうしたの?君まだ高校生だろ」
「これだから呑気な大学生は。今日卒業式だったんだよ、晴れてオレも自由の身だ。四月からはよろしく、先輩」
「同じ大学に受かったからって気色悪いな、いつも通り名前で呼びなよ」
「そうかい、じゃあキョウスケ。今日もロックンロールに行こうぜ」
僕達は揃ってゲームを開始する。
ニナとはやはりこのゲームを通じて知り合った。他にも親睦を深めた仲間たちもいたが――それこそ小学生から社会人まで――何だかんだ相性が良かったのが彼女だ。年齢の割にサッパリとしていて、その男口調も相まっていわゆる男女の仲云々なんてものを気にしなくていい、そんな相棒。ゲームでの連携が取りやすかったのもある。僕は後衛のヒーラーにしてバッファー担当。彼女が前衛で火力要員を担う。実に分かりやすく、それ故に組みやすかった。
でも、そんなチームプレイにも終わりが近づきつつある。
あと一週間か。そう独り言ちると、ニナもどこか悲しげな目つきで手元のボタンとレバーを見つめる。
「楽しかったよな。他のメンツと遊ぶのも良かったが、お前と遊んでる時が一番楽しかった」
「何それ、口説いてる?」
「ばーか、最高のバディだったって話だ。それにしても他の連中は薄情だよな、稼働終了間際だってのに滅多に来やしねえ」
「別れが辛くて気兼ねなく遊べないって言ってたよ、皆。それだけ愛されてるゲームだったんだ」
「そう、そうだよな。何で終わるんだろうな」
一時の静寂。店内は他のクレーンゲームや某太鼓叩きゲームでけたたましいというのに、僕らがいる場所だけがしんと静まり返っていた。
やがてどちらから始めたか、ゲームに没頭する。ボタンを押す感触、使い込まれたレバーの遊び。足繫く通った頃の思い出が鮮明に蘇る。
このゲーム、ハルメノス・クロニクルはとにかく何でもありのゲームだ。正々堂々と戦うも良し、計略を練って罠にはめるも良し、村人を振り回して武器にするも良し。もう無茶苦茶だ。
僕はニナと共にボス戦に挑む。エンドコンテンツとして実装されたHP限界値のレイドボスだ。と言っても稼働終了のアナウンスが流れるや否や即座に狩られ、今残っているのはそのボスに再戦できるというイベントだけ。客足も遠のくわけだ。やれることは、もうやりきったのだから。
僕とニナはパーティーを組み、二人でボスに挑む。このゲームに出会うまで、RPGというものは強いキャラでぶん殴るのが正義だと思っていた。しかしいわゆるバフ、デバフというものの大切さを教えてくれた。いかに相手を下すか、味方を引き上げるか、そういう駆け引きが大事なのだと分かった。
おかげさまで僕はハルメノス界隈ではそれなりに有名なプレイヤーとなった。それはニナも同じで、逆に彼女は火力特化の化け物として大会に出場したこともある。その時のパーティーに僕がいなかったことを、彼女は今でも根に持っている。僕は大会とか興味ないタイプだ。
そんな脳筋とステータス管理が揃えば倒せないボスなど殆どいない。彼女の言う通り、最高のバディだった。
「いよっし、撃破!楽勝だなオイ」
ニナは楽しそうに筐体を軽く叩く。
「僕のサポートが無かったら君一ターン目で終わってたぞ」
「おうおう愛してるぜ」
「年頃の女の子が軽率に言うもんじゃない」
さて、今日のゲームはここまで。彼女は卒業式が終わってそのままゲーセンに来たのか、卒業証書の入った筒を脇に抱える。僕もショルダーバッグを手に、店を出ようとした、その時だった。
「こんにちは、お二人さん」
スタッフルームからひょっこり顔を出したのは、このゲームセンターの店長。見慣れたエプロンを身に着け、丸眼鏡越しにこちらを見やる。
「ちょっと、お話いいかな?」




