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転生したら白ねこでした。お菓子魔法で異世界の心を癒やします。――もふもふカフェから始まる甘くてやさしい異世界生活――  作者: 明石竜


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エピローグ

 それから数年後。

 もふもふカフェは、今では大陸中に支店を持つ、有名な菓子店になっていた。


リリアは本店の料理長として店を切り盛りし、グレンは新しい道具と窯を開発する職人として活躍し、ノエルはお菓子魔法の研究者として大学で教鞭を取っていた。「僕は、あの時の理論を

まだ研究しているんだ」そう、穏やかに話してくれた。


 甘味学院はアルトリアだけでなく、各国に設立され、毎年多くの菓子職人を輩出している。


 アランは、旅を経て独自のスタイルを確立し、伝統と革新を融合させた菓子店を王都に構えている。今では私と並んで、この国を代表するお菓子職人だ。


 ダリウス元騎士団長は今でも、もふもふカフェの常連だ。王都の清掃奉仕を終えた帰りに、無言でクッキーを買っていくのが、彼の日課になっている。「甘すぎるのは駄目だが、ほんのり甘いクッキーなら騎士の訓練後に食べても支障ない」という独自理論を弟子たちに説いているらしい。


 ハナはサクラノクニで餡菓子の文化を守りながら、東西の技術を取り入れた新しいスタイルを確立した。今では、彼女のところに修行に来る人が後を絶たない。


 フィアナ王女は最かわコンテストで三連覇を果たし、大陸の守護英雄として名を馳せている。でも私がフェスティバルに招待するたびに必ず来てくれて、特製のエルフの木の実クッキーを持ってきてくれる。

 砂漠の王国のタリクとは、今でも定期的にレシピを交換する仲だ。「砂漠の夜明け」は両国で大ヒット商品になった。

 古代遺跡で見つけたレシピは、ノエルが研究に引き継ぎ、今や甘味学院の必修科目「古代菓子魔法史」として授業が開かれている。失われていた古代の知恵が、新しい形で次世代に伝わっていく。

 あの砂漠の夜、レイと二人で焚き火を囲みながら食べた七色に輝く古代の菓子のことを、私は今でも鮮明に覚えている。あの味は、何千年もの時間を超えて、人の心の奥にある根源的な喜びを呼び覚ました。それを知った時、お菓子の本当の力が、少し理解できた気がした。


 そして、私は今日もどこかを旅している。

 南の大陸、北の極地、海の向こうの島々。

 まだお菓子を知らない人たちに出会うたびに、私はお菓子を作る。

 一口の甘さが、人の心を解く瞬間。

 それを見るたびに、私は思う。

 転生してケットシーになって、本当によかった、と。

 前世では、漫画家として、何度も壁にぶつかった。

 担当編集者に「才能がない」と言われた日、泣きながら帰ったことを覚えている。

 それでも筆を置けなかったのは、読んでくれた人が「面白かった」「続きが読みたい」と言ってくれたから。

 たった一人の声でも、続ける理由になった。

 今も同じだ。

 たった一人、初めてお菓子を食べた人が笑顔になれば、それで十分。

 その積み重ねが、世界を変えていく。

「ココ、次の町に着いたぞ」

 レイが馬の手綱を引きながら言う。

「ありがとう」

 町の入り口が見える。

 初めて訪れる土地。初めて出会う人々。

 胸が高鳴る。この感覚は、何度旅をしても慣れない。

 いつも初めてで、いつも胸がいっぱいになる。

 見知らぬ顔、聞いたことのない言葉、食べたことのない食材。

 全部が、新しいお菓子の種になる。

「どんな人に会えるかな」

「どんな菓子が生まれるかな」

 旅のたびに、世界が少し広くなる。

 そして、広くなるほど、人の心が同じものを求めていることがわかる。

 美味しいものを食べたい。幸せになりたい。誰かに温めてほしい、と思いたい。

 それは、どの国でも、どの種族でも変わらない。

「行こう」

「ああ」

 私たちは、馬を走らせた。

 お菓子の香りが、風に乗って広がっていく。

 世界は、まだまだ広い。

 そして、お菓子は、きっとすべての場所で誰かを幸せにできる。

 それが、私の信じる魔法だった。

 漫画家として、締め切り前の徹夜で眠りにつき、気がつけばケットシーとして異世界に転生していた。

 あの時の私に、今の私を見せてあげたい。

 失敗しても、不安でも、前に進み続けた先に、こんな景色が待っていると教えてあげたい。

「ココ、何を笑ってるんだ?」

 レイが不思議そうに私を見る。

「なんでもないです。ちょっと、前の自分のことを考えてた」

「どんな自分?」

「何もできなくて、怖くて、でも好きなことを諦めきれなかった自分」

「今は?」

「今も怖いです。でも、一緒に怖がってくれる人がいる」

 レイが笑う。

「なら、怖くない」

「ええ、怖くない」

 風が吹く。

 草原を駆ける馬の蹄の音。

 遠くに見える町の煙。

 煙の先には、きっと人がいる。

 人がいれば、お腹が空く。

 お腹が空けば、何か食べたくなる。

 そして、美味しいものを食べれば、笑顔になる。

 その笑顔を、私は届けに行く。

 漫画家として前世を過ごした私が、異世界でケットシーとして転生した意味。

 最初はわからなかったけれど、今なら少しわかる気がする。

 どんな世界でも、どんな形でも、人の心に届く何かを作り続けることが、私の役割なんだと。

 お菓子は、その手段に過ぎない。

 でも、この手段が好きで、好きで、たまらない。

「行こう」

「行こう」

 私たちは走り続けた。

 お菓子の香りを、世界の隅々まで届けるために。


──了──


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