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勇者  作者: sirogane mikoto
第1章
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第1話

魔族やらエルフやらドワーフやらマーメイドやらその他諸々がいる世界。数以外に能力的に劣る人族は下等生物として虐げられその純粋な血はいずれ絶えてしまうだろう。


(だから勇者となって人間を救って欲しい、ねぇ……)


 金髪に端正な顔つきをした男。黙っていればそれはきっと人々が思い描く勇者として完璧を体現しているだろう。だが———


「神サマよぉ、そいつはちょっと人選間違ってるんじゃねぇか?」


 男はその顔を優越に歪めた。






 辺境の街ムスベニ、地図に載っている限りでは世界唯一の人類単一国家の最南端に位置している。


(こちらカイン、情報が敵に漏れている可能性が———ギッャ、)


(まずいッ、あいつらとっくに気づいて———なっ、お前ッ———)


 

 灯りの消えた夜の裏街を全力で逃げながら男は送られてくる報告という名の悲鳴に歯を噛み締める。


「クソッ、」


 妨害を受けたのか雑音しか聞こえなくなった魔道具を放り捨てる。


(ムスベニはすでにやつらの手の中ってか!?間抜けすぎんだろ!)


 他種族を廃し、虐げれている人族を救う。そのために"滅種幸人めつしゅこうじん"を掲げて仲間達と共に救人組織"サピエンス"を作った。これまで死線を何度も潜り抜け活動してきた男にとってここで終わるのはあまりにも情けないと思わずにはいられない。だが———


「ッ、行き止まりか?!」


 気づけば街の城壁まで追い詰められていた。やるしかない、覚悟を決めて短剣を抜く。男は強い。例え能力的に劣っていたとしても策を巡らせ技を駆使すれば勝てないこともないはずなのだ。だがそれは一般的な話であって———


「どうした?鬼ごっこは終わりか?」


 現れたのは3メートルはありそうな大男。腕は丸太のように太くその体から感じる圧は心を折るには十分すぎる。"巨躯きょくのタイル"それはそう恐れられるドワーフの怪物だ。


「クソッタレがッ!」


 自分はどこまでついていないのか。自身の運の悪さを嘆く暇もなく突進する。


「威勢がいいなァッ!」


 タイルは武器は持っていない。いや、その拳こそが武器なのだ。ありえない速度で飛んでくる拳を顔を捻ることで避け、蹴りを反対に飛ぶことで躱わす。


「ほぅ、」


 思わずと言った様子で言葉を漏らすタイルに構う暇もなく短剣を振るう。


(狙うは軸足ッ)


 最初からこれが狙いだった。そもそもタイルほど大きいとこちらの攻撃が急所に届かないのだ。健を切り膝を折らせる。だが———


(浅いッ!?嘘だろッ!!)


 作戦は成功したがその目論見は完全に外れた。全力をかけた攻撃はその分厚い筋肉に阻まれ、断絶するのに至らなかったのだ。


「危ねぇ、足やられてたらさすがに俺もやばかったか?まぁお前にゃ無理だったようだが」

 

 そう言ってタイルは切られた足を一瞥もせずに肩を鳴らす。圧倒的な種族の差がそこにはあった。


「まぁお前は良くやったよ。でもこれ以上時間をかけるわけにはいかねえからな、悪く思うなよ?」


 瞬間、地面が爆ぜた。気づいた時には目の前にある拳に対して咄嗟に腕をクロスさせて防御する。これだけでも反応できたことを褒めて讃えたいくらいだ。


 だが現実は無情だ。咄嗟の防御にもタイルが何かすることはない。ただ拳と短剣がぶつかり———砕けた。


「ガハッ、」


 振り抜かれた拳に城壁へと叩きつけられ体から空気が抜ける。ついでに魂まで抜けてしまったんじゃないかと思うほどの衝撃と痛み。腕も折れてしまっているだろう。


「やっぱ脆もれえなぁ。ふぅーふぅー」


 拳に突き刺さった破片を息で吹き飛ばすタイル。わかっていた。人が能力的に劣っていることも、普通ならば勝てないことも。でも———


(これはあんまりではないか……!)


 血を滲むようような努力も卓越した技も全てが否定される。下等生物、もはや立ち上がることすらできない男にこの言葉を否定することはできない。


「流石にもう立てねえか?にしても俺たちを阻むはずの壁が逆にお前を追い詰めるとは皮肉ってもんだな」


 あれ?もしかして俺今うまいこと言った?なんて言っているタイルはきっと油断し切っているのだろう。だが肩が僅かに動くばかりで何もすることはできない。


「なんだ?まだ動こうとしているのか?いい加減に諦めろよ、その方が楽だぞ?」


「黙、れッ」


「理解できねえなぁ。どうせ勝てないってわかってるのによ。なんでそうまでして抗う?」


(そんなの———)






「愚かだから、じゃないかな」


 

—————————え?


 

 予想外の方向から飛んできた応えにタイルも男もそちらを見る。そして釘付けになった。


 薄く青みがかった鎧に帯剣し、歩くたびに群青のマントが少し揺れる。青い目に金糸のような髪は月光を反射し輝いている姿は現れた青年の存在を強調している。


「お前なにもんだ?」


 僅かに目を細めてタイルが青年へと問う。



「自己紹介がまだだったね。僕はラスベル。他の人からは—————"勇者"なんて呼ばれてたりもするかな」


 あっけらかんとそう言った。


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