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美しく星の瞬く夜に  作者: まさたま
8/8

了・美しく星の瞬く夜に

  「……綺麗」


 町の少女は何もかもを忘れたようにただそう呟いた。

 王城を包む大きな炎は、まるで煌めく羽根を持った大きな黒い鳥の翼。

 少女と同様に、外に出た人々も……立ち尽くし、それに見惚れていた。




 奇妙な静寂の後に訪れたのは、人々のざわめき。


 誰一人として王城に近寄ろうとしないのは、今までの圧による恐怖からだけではない。

 圧政に苦しむ一方で、王家への威信はまだ消えてはいなかった。……つい一年程前までは、平和な国だったのだから。


 成り代わる者すら一様に炎に巻かれた今、長い間指揮を執っていたリーダーを失った不安と動揺が民に広がる。

 その中で時折上がる、解放された喜びとこれからへの希望の声──


 一先ずはその内の誰かを中心に、新たな形でこの国が造られていくのだろう。


 その先にあるものが、何かはわからないが。




 *****************************


 消し炭と化したかつての王城の跡には、たったふたり。


 ラースは少しだけ離れてしまったシャーロットの身体に触れることも、声を掛けることもできずにいた。


 全てが終わった今、きっとシャーロットの心に怒りはない。

 ラースは彼女が今なにを思っているのかを掴むことができず……自身の中に揺れる不安に耐える。ただ、彼女を眺めて。


 シャーロットの目から、少しだけ涙が零れた。



 燃え盛る炎の中に消える、アルヴェロの……解き放たれた様な、穏やかな顔。



 したことへの後悔などはない。

 ──ただ……なにかが違っていれば。



 納得したように首をゆっくり横に振ると、シャーロットは微笑んで、ラースを見た。


  「……シャーロット?」

  「なんでもないの」


 今ここにこうしていること……それは変わっていた過去では手に入らなかったもの。


 ラースが隣にいても、幸福なだけではない。

 失ったものは、多かった。


 それでも今、彼は隣にいる。


 一握りの幸福を噛み締める様に、シャーロットはラースの手を握り……ふたりは星の瞬く下を、行く宛もなく歩く。


  「きっと、追手がくるだろう……」


 ぽつり、とラースは言う。




 天上人ミカエラ──

 本来は()()する筈だったこの地に立ったミカエラは、知ってしまった。ラースの生存とその経緯を。

 その時に沸き立った、名状し難い気持ちをなんと言うか……天上人であるミカエラが知ることはない。


 ミカエラはこの地への措置を、()()に変更し……シャーロットが未来の王妃となるのを良いことに、アルヴェロを利用した。シャーロットを餌に、ラースに人間の本質を見せ付けて絶望(目を覚ま)させる為に。


 それはあまりに天上人らしくなく、ミカエラ自身が最も厭んでいた人間の様だった。

 ただし天上人らしく、ラースが肩入れしている人間の小娘(シャーロット)などには興味がなかった。当然、その理由にも。

 もう少しだけ、ラースを理解しようと……或いは人間を理解しようとつとめていたならば、また違う未来もあったかもしれない。

 ……だがそれは詮無きこと。


 そしてミカエラには、個人的感情から、この地への措置を変えた咎があるとはいえ……天上人である。

 それを手に掛けた、堕ちたラースと下賤な人間を……上は決して赦しはしないだろう。



 君一人なら……そう言い掛けたラースの唇に、シャーロットの細い指がそっと触れる。


「……私の望みは叶ったわ。 次は、貴方の望みを叶える番。 それとも、また望んだ方がいい?」


 私の望みは──そう言い掛けたシャーロットの唇を塞ぐのも、次はラースの番だった。



 口付けの後、ラースは望みを口にする。



 たったひとつ、シャーロットだけが叶えられる望みを。





 気付けばそこは、かつて二人が出逢った森──

 シャーロットはそれを知らない。

 贈られた、花の意味も。


「……なぁに?」

「いや」


 まだ蕾の薄紫の花を眺め、はにかむラースにシャーロットは不思議そうな顔をしたあと、繋ぐ手に力を込めた。


お読み頂きありがとうございました。



Special thanks……八刀皿 日音様、九傷様


【まさたま】

間咲 正樹 &砂臥 環

2020/04


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― 新着の感想 ―
[良い点] 残酷で美しい話でした。 ラースとシャーロット、サイコーです! そして余韻がある終わり。 素敵なお話ありがとうございした。
2020/04/24 10:55 退会済み
管理
[良い点] 完結お疲れ様です。 間咲様の世界観の醸成と砂臥様の優れた描写がリンクして優れた作品に仕上がった感があります。 充分な情報交換されたのでしょうね。 頭が下がります。 [一言] 詳細はレビュー…
[良い点] 完結、おめでとうございます! やはりミカエラは人間と同じような感情が芽生えたゆえに、あのような行動を取ったのですね。それに最後まで気づくことなく逝ったのことは、ある意味救いだったのかもし…
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