◆04「自分の息子の恋人になんてなれるか!?」
登場人物
鈴木大悟:お父さん。
鈴木陽子:お義母さん。大悟の現在の配偶者。
鈴木太郎:息子。
ここまでのあらすじ
お父さんが美少女になって、変装用に“お父さんスーツ”という強化服を渡されました。
「あなたには二四時間太郎の身辺警護をお願いします」
妻から大悟への命令だった。
息子を守ること自体は大賛成だ。
自分でできるなら、なおのことありがたい。
しかし……。
「お前の警備はどうなるんだ?」
「別スタッフにお願いするわ」
「太郎の方を任せた方がよくないか?」
大人の、しかも父親の自分が二四時間付きっきり。
さすがに仲のいい親子でも無理があるだろう。
そんな大悟の懸念を妻は切って捨てた。
「あの子、ボディガードらしい人物を見るだけでフラッシュバックを起こすのよ」
拉致事件のことを思い出すのか、パニック状態になるのだという。
おかげで病院での警護は大変困ったらしい。
ボディガードが医師や看護師に変装してなんとかしたらしいが……。
「それなら俺がボディガードしてもダメなんじゃないのか?」
「それが……。あなたのお見舞いの後に話しをしてみたんだけど。
あの子、あなたが銃で撃たれたときの記憶は思い出せなくなっているの」
「……どういうことだ?」
「お父さんが生きていたことに安心して、記憶を消した……。
いえ、記憶を呼び戻せないようにした、という方が正しいわね」
だから、父親とボディガードは連想が結びつかない。
というよりは自分の心を守るために結びつけないようにしているのだろう、とのこと。
「つまり、俺が警護する分には太郎の精神を刺激しないだろう。
と、いうことか」
「そういうこと」
「だからって、父親が貼り付けるようになるってわけじゃないだろう?」
むしろ、そんな不自然な事をしたら、それを切っ掛けに色々思い出しかねるのではないか?
そんな心配をする夫に、狂的天才科学者は言った。
「大丈夫。学校で護衛に付くのは美少女の女子高生だから」
大悟は妻の言うことが飲み込めなかった。
「じょし……こうせい?」
「そうよ。それも一見してボディガードには見えない美少女の」
「はぁ?」
そこまで言われても理解できない……。
いや、理解を拒絶する夫に向かって妻は言った。
「あなた、太郎と同じ学校に通いなさい。
それであの子を守るの」
◇ ◇ ◇
それから一週間。
文字通り血と汗のにじむような特訓を受け、大悟は女子として振る舞えるようになった。
なお、特訓は鈴木太郎警護スタッフの女性陣の協力によりおこなわれた。
衣類の着用や化粧から、女子高生らしい会話の仕方まで。
正直、ボディガードになるための訓練よりもつらかった。
さらに、カバーストーリー――偽の経歴――も与えられた。
彼、というか彼女に与えられたカバーは山本真理という名の女子高生。
「なんで真理なんだ?」
「大悟して得るものは真理でしょう?」
そんな問答をしながら妻の創った設定を読み込む。
お金持ちのお嬢様。
病弱。
けなげ。
頑張り屋。
…………。
「なんだこの偏って詳細な設定!?」
「ちゃんと理由はあるわ。
お金持ちのお嬢様なのは周囲にボディガードを増やすため。
お嬢様の使用人ってことにすれば大人が近くにいても怪しまれないでしょ」
そうかなあ?
とはいえ一定の合理性はあると思った大悟は引き下がった。
「病弱設定も同様ね。
加えて教室を抜け出す理由にもできるわ。
連絡をとるために授業を休みがちになるはずだから」
なるほど。
これは飲み込みやすい理由だ。
「じゃあ、『けなげ』とか『頑張り屋』というのは?」
「太郎は優しい子だから、病弱でけなげな頑張り屋な手を貸さずにはいられない。
そうすれば、自然と一緒に行動できるわ」
確かに、と大悟は妻の意見にうなづかざるを得ない。
「最終的にはあなた太郎の恋人になりなさい」
「……はい?」
「恋人になればずっと一緒にいても怪しまれないわ」
「いやいやいやいやいや」
明らかに護衛の域を逸脱している。
それに……。
「自分の息子の恋人になんてなれるか!?」
「なれるわよ!
私の身体をベースに造ったのよ?
遺伝子レベルで身体があの子を求めるわよ!
何も問題はないわ」
義母として問題だらけすぎる!!
「そう言えばお前の身体をベースにしたんだよな、この身体?」
「なによ、今さら」
「なんか……バストサイズとか全然違わないか?」
「……今度その話題を振ったら、脳を改造するからね!?
わかった?」
「イエス! マム!!」
鬼気迫る妻の表情に、大悟は服従を誓わずにはいられなかった。
あとがき
お父さんの初登校と、そのとき起きた事件が描かれます。