◆03「“おとうさん……すーつ”?」
登場人物
鈴木大悟:お父さん。
鈴木陽子:お義母さん。大悟の現在の配偶者。
鈴木太郎:息子。
「美少女でしょ?」
何から聞いてよいかもわからない。
鏡を見つめながら呆然とする大悟に妻が放ったのがこの一言だった。
確かに美少女だ。
しかし、大悟自身がそうなった理由にはかすりもしていない。
陽子は説明を続けた。
「研究中の素体にあなたの意識を移したの。
手脚は千切れていたけど、ギリギリで脳は生きていた。
で、造りかけの身体にあなたの意識を移したわけ」
間一髪で間に合ったみたいね」
「……誰かに似てるな」
妻に問いかける自分の声が可愛らしい少女ものであることに、大悟は意外なくらいショックを受けた。
そんな彼の内心に頓着することなく狂的天才科学者は言う。
「ああ、それ私の身体をベースにしたクローンボディだから」
「はぁ? お前、自分のクローンなんて作ってたのか!?」
「当たり前でしょ。他人の身体で実験するなんて倫理にもとるじゃない」
……あまりにもツッコミポイントが多すぎて、逆に大悟は沈黙した。
「でも、ただの複製じゃないわ。
身体機能及び思考速度を大幅に強化。
……一種の超人ボディよ」
どうやら自分が改造人間にされてしまったことを大悟は知った。
いや、人造人間であろうか?
「とにかく、あなたにはやらなければならないことがある。
準備ができたら行動に移すわよ」
準備は二~三日で終わり、大悟は妻からあるものを見せられた。
それは、人体のようだった。
断言できないのは、それがぽっかりと小柄な人ひとり分ほどの空洞が空いたものだったからだ。
少なくとも生きている人間ではない。
「これは一種の強化服よ」
「強化……服?」
「名付けて“お父さんスーツ”!」
「“おとうさん……すーつ”?」
なんじゃそりゃ?
首をかしげる大悟に妻は言った。
「論より証拠。着てみなさい」
「着るって!? これを?」
「あ、その前に……」
妻は小柄な少女になった大悟のガウン型の病衣をひん剥いた!
「きゃぁ!」
かわいらしい悲鳴をあげてしまった大悟に狂的科学者は告げる。
「全裸か、専用のアンダーウェアを着てないとダメだからね」
何がダメなんだろう?
そんなことを考える間もなく、妻は大悟を強化服に放り込んだ。
カシュン! カシュン!
そんな感じの音を発しながら、腿、腹、胸と強化服が閉じはじめる。
慌てて腕部に自分の腕を通すと、上から頭が降ってきた!
すっぽりと美少女の大悟の全身が強化服に包まれた。
なんだか感覚が今の身体から離れてふた回り以上大きくなった気がする。
陽子にうながされて鏡を見た。
そこには……生前の自分そっくりの男性がいた!
「この“お父さんスーツ”を着れば、あなたは元の姿と見分けが着かない容姿を手に入れられる」
妻はメガネのブリッジを右手の中指で持ち上げながら言った。
ちなみに伊達眼鏡である。
「それで、あなたはあなたの成すべき事をやりなさい」
「なすべきこと?」
「太郎は無事よ。肉体はね」
そう言われて、大悟は妻の言いたいことを察した。
父の大悟が言うのもなんだが、太郎はとてもいい子だ。
幼いころ母を亡くした事もあるだろうが、大悟のことをとても慕ってくれている。
自分はその子の目の前で四肢を吹き飛ばされたのだ。
精神的にショックを受けていないはずがない。
大悟は成人男性の中でも大柄な自分に合った病衣を与えられ、太郎を見舞うことになった。
病室への道すがら、太郎の状態を聞かされる。
普段はぼーっとして意識がはっきりせず、ときおり記憶がフラッシュバックするのか暴れ出すのだという。
「お父さん! お父さん!!」
そう絶叫しながら。
話を聞いた大悟は自分の胸が張り裂けそうになった。
善は急げ。
大悟は“お父さんスーツ”を着て太郎の病室を見舞った。
その効果は絶大だった。
それまで焦点の合わなかった太郎の目が大悟の顔を見つめる。
ベッドから急に立ちあがろうとしてふらつく太郎を、慌てて移動した大悟が支える。
(……この身体、元の身体より動ける)
そんな感想をいだきながら、大悟は息子を改めてベッドに寝かしつけた。
太郎は上半身を起こして大悟に抱きついて離れない。
「お父さん……。お父さんがいる! おとうさぁんんん……」
涙と鼻水で病衣がぐしゃぐしゃになったが、大悟はそんな事を気にも止めない。
太郎が泣き疲れて寝てしまうまで、父は息子を抱き続けた。
こうして、鈴木家は平和を取り戻した……わけではなかった。
あとがき
次回、お父さんが息子のクラスメイトになる理由が明かされます。




