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旅の背中


 ジョンの後ろについていく。問題の貴族様のハコとやらを確認するのだ。


 それは、ターミナルの一角にあった。占領していた。


 仰々しい黄金。線の多いデザイン。屋根にしゃちほこ。威厳・ケレン味・荘厳さを自尊心というミキサーで滅茶苦茶に混ぜ合わせて塗りたくったハリボテのハコだ。


 そう断言できるほどデザインに一貫性がない。派手そうなものをとりあえずぶち込んで見た感じのモノ。正直センスのない装飾過多だ。


 そしてそれは、小山の上に乗っていた。


 小山とはすばりーーーー「象」である。


 護衛対象のハコは、デカイ象の背に乗っていた。


 丸太のような四肢。見上げてもなお余りある体躯。みなぎるエナジー。轟くマッスル。


 その問答無用の高圧的なまでの存在感は巨大な要塞を彷彿とさせた。暴力と呼べるほどのオーラである。


[……これ、いるの? 護衛]


 こんなのに護衛がいるなら宇宙怪獣にも護衛が必要になるだろう。


 それになによりーーーー見た目ならアルムより強そうだし。こいつ。


「あー、皆まで言うな。質問はわかってる。理解している。しかし護衛は必須なんだ。別に俺はお前たちを騙そうって訳じゃない」


[アルム。オレ知ってるぞ。そうやって油断させてご飯や飲み物にクスリを混ぜてチョメチョメするタイプだこいつ。


 帰ろう。丸太小屋で引きこもって生きよう。なに、オレも引きこもりについては一家言ある。退屈させないことを約束する]


「それはだめ。…………リスクは得体が知れないけれど、リターンもちゃんとある。乗っかる価値はある」


[…………わかった。ただしオレを手放すなよ。寝てても叩き起こしてやる。肌身離さず持ち歩け。ベッドとかシャワーにも]


「そうする」


[っしゃあああ!!]


「…………逃げないところ、仕事は受けると考えてもいいか?」


「はい」


「グッド。ではお互いに、安全な旅を願うとしようか。短い間だが、楽しくなるな」


 ーーーーそう言うなら、少しはニコリとしろや。


 オレの声などまるで聞こえないのだろう。ジョンは慣れた様子で象を登った。アルムもそれに倣って象の背に登り、ハコの外で腰を下ろした。


 あくまでアルムはジョンの下請け。ジョンやジョンの雇い主の貴族様が許さない限り、ハコの中に入れない。


「こんなの久々」


[高いところがか?]


「乗り物に乗るのが。背の高いモノなら、あの森にだってたくさんあった」


[森。森ね……。アルムはなんであの森にいたんだ?]


「……森で迷っていたところを師匠に助けてもらったから。でも、師匠は【森の悪い魔法使い】だったから、私に森から出られない呪いをかけたんだ」


[はぁ?]


 助けたのに呪いをかける?


 それでは、「捕まった」のであって「助けてもらった」のとは違うのではないか?


 アルムも苦笑していた。この話、いくらこのファンタジー的魔法世界としても常識とは言えないようだ。


「魔法使いにとって自分の【領域】は大切なものだから。師匠は当たり前に私に罰を与えた。昔話にある【森の悪い魔法使い】のように、私が望んでいることを取り上げた。


 それが森から出られなくなる呪い。おかしいよね? 森に『入った』罰が『出られない』なんて」


[偏屈だったんだな、師匠]


「本当に……おとぎ話のいじわるな悪い魔法使いみたいなヒトだった。でも、やさしいヒトだった。


 私を住まわせてくれたし、色んなことを教わった。学校で教えてくれない魔法のこと、森に住む魔獣のこと、聖域に現れる霊獣のこと、古い魔法文字の読み方とか、コツもいろいろ。


 …………毎日大変だったけれど、楽しかった」


[楽しい? 大変なのに? ツラかったんだろ?]


「うん」


[……アルムも変なヤツだ。オレにはよくわからない。楽と辛いは逆で、楽と楽しいは同じだろ?]


「そうか。そうなのかも。普通は」


 アルムはおかしそうに笑う。オレにはまるで意味がわからない。


 ーーーーこのギャップ、ファンタジーだからだと思いたい。


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