旅の一歩目
うわぁーーーー夕日って赤いや★
[じゃない! どぉおおおおおなってんだ!! モラルは!? 治安は!? なんでこんなにナンパ野郎が多いんだ!?
ターミナルか!? ターミナルがあるからか!? 終電逃したJK狙いの野獣の巣窟なのか!? 死ね全員死ね!!
魔法ある世界観だろここはっ! ファンシーさがまるでないなっ!!]
「サヤ……落ち着いて」
[そうは言ってもさぁ……もうちょっとさ……もうちょっと…………さぁ!!]
街灯が点灯する。
それに背中を預け、アルムは羽根つき帽子を目深く被った。
「その剣……。君は……いや、なにか困りごとかな」
またか。またアルムに声をかけてくる男。
今度はどんな野郎だと苛立ち加減に睨みつけた。
「よかったら助けてくれないか?」
[何をだ。今夜か? 今夜の相手か!? アルム、気にするな。野郎の股の間のブツを蹴り潰せ。つま先で念入りに部位破壊しろ。残った素材は剥ぎ取って売るぞ
あっ。そっかぁそうすりゃお金が手に入るぞぉ! ヤッタネ!]
ーーーーしかし。
今回はアルムはオレの言うことを聞かなかった。
羽根つき帽子を直し、男をじっと見つめた。逃げる様子も、蹴り潰す仕草もない。
[どうした?]
「…………逃げてるだけじゃ話が進まない」
[それではした金のために純潔を汚すのか!? 汚すのかッ!? 許さん許さんぞオレは絶対に許さんッッッ!!]
「…………彼、あなたを見てから話しかけてきた」
[は?]
え? この男そういう趣味のヒト?
…………刃物マニア?
「私じゃなく、剣を持ってる私……騎士に用があるみたい。なら、私にとって悪い話じゃないはず」
[それはそれで危険な話じゃないか……]
しかしアルムの言い分も尤もだった。事実、文無しでターミナルを出てからなど、アルムが文化慣れしていないことが露呈しただけだ。まるで話が進まない。
男はオレとひそひそ話をはじめたアルムの前に立ったままだった。会話に聞き耳を立てている様子はない。ヒマそうにタバコを咥え、オイルライターで火をつけていた。
ーーーーよーく値踏みしてみる。
無造作に結った髪に、黒縁メガネと無精ヒゲ。汚れの目立たないぶかぶかのコートを羽織り、身体のシルエットはまるで見て取れない。
清潔感のカケラもない徹夜続きの研究者、といった出で立ちだが、タバコを摘んだ左手は傷ばかりで痛々しい。
ありていに言って、カタギには見えない。
しいて言えばーーーー落武者、という形容詞がひたりと当てはまった。
[やめとかね?]
「実は、ですね」
オレの提案しようとした時には遅かった。
アルムは会話を切り出してしまった。タバコを吸いつつ、じろりと男は目を向けた。
「帝都に行きたいんです。空挺に乗りたい」
「そうか。思ったより安い悩みだな。どうとでもなる。気長に歩けばいい」
「………急いでるんです」ーーーー口から出まかせだった。天然素材だが、ウソはつけるらしい。
「ほう。…………ああ、君は騎士だしな。そろそろ御前試合の時期か? なるほど、歩いては確かに間に合わないかもだ。単純に怠惰に甘えているというわけでもないのか」
「そうです。仕方ないのです。どうにかできます?」
「帝都に向かうなら、ちょうどいい。貴族様のハコを帝都まで護衛する仕事がある。俺ひとりでは些か面倒でな。空挺ほど早くはないが、手伝ってくれないか?」
「利害は一致しているみたいですね。お受けします」
「助かる。うれしいよ。仕事はすぐにでも開始したい。いいか? 貴族様には無理言って待ってもらっていてね。これ以上待たせると俺の報酬にかかわるんだ」
「わかりました。ミスター…………ええと?」
「ジョンだ。呼び捨てでいい」
「私はアルム。よろしくお願いします」
ふたりは軽い握手を交わす。
ーーーーオレにはこの男が信用ならない気がした。
「うれしい」なんて口では言いつつ眉ひとつ動かさなかったこの男からは、なにか得体の知れなさを感じたからだ。
なによりタバコ臭いのは最悪だ。酒臭いのも減点対象だね。




