表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/81

それでは、オレたちの話を続けよう


 どうやら一件落着した、らしい。


 なんかこんな中途半端な感想になってしまうのは申し訳ないが、許してほしい。オレにもちゃんとした理由がある。


 第一に、ジョンのシルエットをぶったぎったあたりから、オレは魔法に飲み込まれていたせいで記憶があいまいだ。


 どうも切ったものが魔力素を過剰に押し詰めていたせいで切った瞬間の魔力の圧力のせいで意識が飛んでしまったらしい。どんな魔力密度だそれは。仮にも魔王を名乗っただけはあったということだろうか。


 第二に、終わったと聞かされた病室に縛り付けられたまま、既に数週間だということだ。なにせアルムがベッドに縛り付けられている。


 当のアルムは、どこか上の空だった。


 …………まぁ、無理もないか。


 目標にしていた御前試合は当然中止。ここまで連れてきてくれた怪しい男は実際怪しく国家反逆しかけていたのである。オレだってそーなる。ヒトを信じられなくなる。


 …………まぁ、もともとアルムはヒトを信じすぎているきらいがある。案外それくらいがちょうどいい塩梅かもしれんが。


 一応ディアエレナが詫びを入れて前科も帳消し。後ろ暗い事は何もなくなったわけだが、アルムの表情はどこか晴れない。


 包帯だらけの手を時々まじまじと見たり、どこか遠い帝国のかなたに視線を飛ばしてみたりと、あまり理由があってしている行動はなさそうだった。


[どうしたー? 燃え尽き症候群?]


「あぁ、いや……燃え尽きてはいないよ、うん」


 アルムの返答にはどこか覇気がない。


 アルムはマミー寸前といった感じで包帯に巻かれていた。外傷は大きなものはなかったはずだが、目には見えない内部のダメージはかなり深刻だった。


 特に血液の中の魔力素とかいう魔法の種火はほぼ枯渇状態で、普通なら死ぬ状態だったらしい。


 それに包帯が効果あるのかとか、そもそも輸血やなんやで補給が済めば万事OKじゃないのかとか疑問はあるが、とにかくアルムは全快とはならず、事実としてベッドで数週間過ごしていた。


「意味を、考えていたんだ」


[意味?]


 そう、とアルムが語りだす。


「私は必死に希望を守ろうと戦ってみたけれど、ホントに戦えてたのかな。あれでよかったのか。なんて考えてた」


[…………おおう、深刻だな。難しいこと考えていたんだな]


「また、笑えるのかな」


[笑えるさ。笑顔っているのは気休めだ。だからこそいい。だからこそ笑い甲斐がある。つらい記憶、悲しい思い出、癒えない傷なんてのはいくらでも作れるし、いくらでも替えが効く。でも笑顔はそうじゃない。仮に消えない笑顔なんて重すぎる。そんなのただの仮面になる。


 笑顔になるときっていうのはたぶん、軽く、晴れ間を飛び交うように気持ち良いもんだ。おまえが斬ってきたのはそういう、空を自由に飛んでみせるには邪魔なおもりみたいなものだ。だからきっと、そのうちに]


「ああ、うん。…………そうだね。素敵な考え方。……そうだと、いいね。そうだったら」


[お前の剣が言うんだ。間違いないさ]


 アルムは両腕を抱いた。目を閉じて、唇を震わせる。それをこらえて下唇を噛んで、血を、流した。


「俺も保証しよう」


 ゆっくりと、病室のドアが開いた。


 汚い外套がはみ出る。タバコ臭さが鼻に付く。いや、オレ剣だからわからないけど。それはそうとして。


[帰れ!]


「……そこは『生きていたのか?』みたいなリアクションじゃないのか? 普通?」


[アルムがやったんだぞ! お前が生きてるくらい規定路線だバーカ死ね!]


「はいはい。そいつは悪かったな……と」


 ジョンは至って普通にアルムのベッドまで寄って、少し躊躇ってから傍の簡素な椅子に腰かけた。


 頰を掻いて、さてと何から話したものか、と考え込んで見せて。


「まずは感謝を。ありがとう。アルム・ミルメット。お前のおかげで救われた。次に謝罪を。巻き込んでしまって申し訳なかった」


「弱きを助け、悪を赦す。みんなの希望を守るのが、私がなりたい騎士ですから」


「そうか。……それじゃあな。養生しろよ」


 ジョンはあっさりとして、席を立った。アルムは呼び止めようとして、しかし言葉が見つからないようで指先が空を泳ぐ。


「…………ああ、そうそう」


 ドアノブに手をかけたところで、ジョンがふと、声をかけた。


「もうひとつだ。アルム・ミルメット。


 ーーーーいい剣を継いだな、お前。それに見合うだけ、立派になった。あいつはいい師匠だったろ。なにせ俺が惚れた女だ。おかげでお前といた間、とても痛快だった」


 そうしてジョンは振り返り。


 微笑んで見せた。


 ドアが閉じる。部屋は静かに戻り、アルムはぽかんとしていた。


 そのうちにハッとして、よたよたとベッドから這い出した。未だに体じゅうが痛むのか、ぎこちない動きでドアを押し開ける。


 耐え切れなかったらしい。ドアが開くと一緒に転んでしまった。


 アルムは首だけを動かしてドアの向こうにジョンの影を探す。


 やがて諦めて、ドアを閉め這いずってベッドの脇まで戻ってきた。


 ベッドの足に背中を預けて重く息を漏らした。薄っすらと汗をかいている。目の周りのそれを払う。


「笑ってたよね?」


[ああ]


「そうだよね。ーーーーよかった。本当に」


 アルムは肩を震わせ膝を抱きしめ、顔をうつむかせた。











[帽子はいいのか?]


 オレの問いかけに、アルムはいたずらっぽく微笑んだ。


 旅装束に袖を通し、その奥に剣を隠す。適当な路銀数枚を手元に残し、残りは教会に投げ込んだ。


「いいの。私の憧れ、私の夢、ちゃんと形にしたいんだ。だからしばらく預かってもらおうと思って」


[帝国最強の皇女様を金庫番代わりか? そいつはっーーーー最高だ。実に痛快だな! 泣いて悔しがれあの性悪女!]


「ええ。だからきっとこの帝都には戻ってくる。そのうち、また御前試合に。それまで、勉強しないと。いろんなことをね」


[まずは世間を知るかぁ。……農夫にでもなるか?]


 アルムはちらりと後ろを見やると、指先で何かの文様を描く。


 すると、ぐいと体がつかまれる感覚がして、アルムとオレは城下町から一気に数百メートル先の城門の真上にまで移動した。


 遠く、今までアルムのいた位置から喧騒が響いてくる。あわただしく走る黒服の男たち。どうやら病院を抜け出したアルムを追いかけてきたらしい。


 さて、とアルムは身をひるがえす。旅装束の隙間から剣の柄を出して、ゆっくりと語りかける。


「その前にひとつ、改めて確認をさせて。気を悪くしないで。


 ーーーーあなたはまだ、私の相棒でいてくれますか?」


[ああ、いいぞ]


「……いいの? 私、正直、あなたを元に戻すとかよくわからないし、振り回されて、いやになってない?」


[いいんだ。今はいい。今はもう少し、このままがいい]


 それは、以前にも出した回答だった。


 そのうち満足できなくなるかも。それでもこうして、必要とされる場所にいたい。それがオレの当面の回答だ。


 アルムはそれを聞いて、にっこりと笑い。


 城門の上から、飛び降りた。


「それじゃあ、いこっか」


[どこへ?]


 城門の下を進んでいた号竜の一匹にしがみついた。


 号竜が引いた荷車には上等な小箱が並んでいる。どうやら交易品らしい。そうするとーーーー目的地は、港か。異国か。


「気の向くままに、まずは行ってみようかな」


 そういって、また笑いかけるアルム。


 ああ、それは本当にーーーー。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ