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旅の始まり

 帝都ってどれくらい遠いのか。


 何の気なしに聞いてみる。アルムは少し考えるそぶりを見せてから答えた。


「歩いて1週間くらい」


[7日!? 歩き詰めか!?]


「それじゃあ、途中ヘトヘトになっちゃうよ。なにに襲われるかわからないし。乗り物を使う」


[ほほう。どんな?]


「やっぱり早いのは空挺かな。大型の鳥獣種に引かせているから並みの魔獣は手を出せないし。


 陸船もいいよ。こっちは鹿に引かせているから少し遅いけれど、雪にも強いし」


[トナカイじゃないのか]


「? なんで?」


 そんなことを話しながらアルムは街を目指して歩いていた。


 小屋のあった森を抜け、だだっ広い草原に出る。起伏が少なく、所々に転がる大岩以外には日除けになりそうなものはほとんどない。


 広く、広くーーーーひたすらに広い。


 遠くに小さく、草色以外の塊が見えた。岩の色とも違う赤色のそれは、目指すべき市街地のようだった。


 吹き抜ける風に負けないよう羽根つき帽子を押さえてアルムは歩く。


 のどかな雰囲気だった。


 岩の側では日除けをしている山のようなツノを頭に生やす大柄の獣がすやすやと眠っていた。


 疑いようなく、危険な攻撃力を持った獣だった。


[アルム……]


「街から遠いし、そりゃあ魔獣もいるよ。お昼寝の邪魔しちゃ悪い」


 アルムはそれを無視して街に向かった。


 彼女にとって、ヒトを襲わない魔獣は寝込みを襲うほどの敵ではないのだろう。


 そうしてのどかに歩き続けて、半日。


 ようやくアルムは街にたどり着きーーーー。


「空挺? お嬢さん、金は?」


「うっ」


 ーーーーようやく、自分が無一文だったことに気づいたらしかった。


 乗り物が集まるターミナルからよろよろと出ていき、がっくりと肩を落とす。


[いや、ね。そりゃあ金もいるだろ……っていうかお前今までどうやって生活してたのマジで]


「森の中……長い間出れなかったから……」


 ひどい理由だった。彼女の師匠もひどい希望を最後に残したものである。


 このまま怪しい男に「おじさんがお金出してあげるからこれからアッチのお部屋にいきましょうねぐふふ」とか言われてホイホイついて行ってしまいそうだったアルムを叱咤し、ひとまずその場から遠のかせた。


「どうしよう…………お金ってどうしたら手に入る? 森に戻ったら木になってるかな」


 ボケなのか本気なのか判断しかねるトーンで凄まじいことを言い出した。


 箱入りというより天然素材と言うべきか。この子は。


 危うくオレが愛剣にならずに信じて送り出していたら悪い大人にアレコレとペロリとされて1日経たずにバッドエンド直行だったかもしれない。


[アルム、いいか。お金っていうのはだなーーーー]


「うん?」


[基本、親っていう財布からせがむものだ。骨まで脛をかじってかじってかじりつくして手に入れるものだ。黙って抜き取ってもいいな。


 ときどき働いて稼ぐものだとかいう背信者がいるが、それは大きな間違いだぞ。働かずして取る。それが基本だ]


「…………サヤ。それホント?」


[ああそうだ。オレは今までそうやってお金を手に入れてきたぞ。


 アルム、親は? 適当に電話かけてキャッシュに振り込むように命令してこい]


「親、親かぁ……ちょっと、難しいかなぁ…………?」


[む。そうなのか。そうなると…………ないな。お金は諦めろ。歩けばいいだろ]


「そんなぁ……」


 またがっくりと肩を落とすアルム。遅れて腹の虫まで鳴り出した。


 ため息をつくアルムに、ひとりの男が話しかけてきた。


「キミ、お腹空いてるの? よかったらごちそうしてあげようか?」


「それ本当ーーーー」


[断れバカ!]


「ひゃっ!?」


「?」


 オレの怒声に驚いたアルムと、不思議そうに顔をしかめる男。


 どうやらオレの声は聞こえていないようだった。師匠の言葉は本当だったらしい。


 ーーーーなら。なんの遠慮も必要ないな!


[いいかアルム! こういう男は基本的に信用するな! 下心丸出しで下半身もガバガバなんだぞ!


 騎士になりたいならこういう奴は即刻斬り殺せ! 社会倫理が守られるぞ! 社会悪だチャラいヤリチン野郎なんて!! この剣が許可するッッッ!!]


「あー…………すみません。大丈夫ですから」


 相変わらず不思議そうにしている男に一度ぺこりと頭を下げ、アルムはその場を立ち去った。


 おそらくアルムはオレの言っていることなど八割以上理解していないようだが、一応現状は乗り切った。


 ーーーーその後。


 街をほっつき歩きながらお金の手に入れ方を探すアルムは、幾度となく怪しいおっさんから声をかけられ続けた。


 何度か揺らぐアルムにその度に喝を入れ、丸め込まれそうなところに助け舟を出し、時に全力での離脱を推奨してーーーー。


 収穫がないまま、日は沈んでいた。


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