父と兄
「お、なんかすごいことになってるな。またレイヤがやらかしたか?」
「うわぁ………大きなクレーターだね」
僕が『大爆発』をぶっぱなし、皆に耳が痛かったと怒られていた時。父さんと兄さんが転移してきた。
二人はいつも王城にいるので、こうやって家族四人が揃うのは、けっこう珍しい。
「で?こんどは何を………って、は?あのクレーターやったの、レイヤなのか?かわいい顔して、やることがえげつないな………」
父さん、アルバート・オルテシアは、灼髪紅眼の美丈夫。鍛えぬかれた肉体はガッシリとしていて、その体から放たれる豪快な剣は、全てを切り裂くと言われている。
「やっぱりレイヤはすごい!いや~、ボクの妹は優秀だな~」
「誰が妹だ!兄さんまで………もうやだ」
兄さんの、エリオット・オルテシアは、父さん譲りの灼髪紅眼で、これまたイケメン。魔法があまり得意じゃないが、剣の腕はとても優秀。将来の近衛騎士団長と呼ばれている。
……………え?僕の容姿?言わなきゃダメ?
……………………………………はぁ、わかった。わかりました。なんで僕がかわいいやら、妹なんて言われているのか、教えようじゃないか。
僕の容姿を、客観的に、ありのまま説明すると………。
まず目につくのは、柔らかな雰囲気の双眸。パッチリとしていて宝石のように煌めく瞳は、左右で色が違う、いわゆるオッドアイになっている。左が、母さんと同じ碧色で、右は父さんと同じ紅色。
鼻はスッととおっていて小さく、桜色の唇は、とてもみずみずしい。
サラサラとした絹のような金髪は、肩甲骨あたりまで伸びていて、陽光を受けて輝いている。
全体的に線が細く小柄なので『可憐な』という表現がよく似合う…………。
ーーーーーーーーーーーつまり、美少女なのだ。
…………いや、もう本当につらい。見た目完全に女の子なのに、性別も精神も男。使用人の間でも、『妖精』とか呼ばれているのを聞いたことがある。なんでこう全力で母さんに似てしまったのか。できることなら、父さんや兄さんみたいなイケメンになりたかった。成長すれば、男っぽくなるのだろうか?………不安だ。
「よーし、エリオとアッシュ殿下には、そろそろ『氣』を教えてやろう」
「氣……ですか?聞いたことないな……。アッシュは何か知ってる?」
「うーむ。いや、私も知らん。その氣と言うのは、いったいどんなものなのだ?師匠」
兄さんとアッシュは、父さんに剣を教わっていた。僕とユノは、魔力操作の練習を魔力の回復ついでにやっていて、サツキは、母さんと生命魔法の練習を続けている。
「氣?ユノは何か知ってる?」
「レイヤにぃ…、よく話しながらそんなに細かい魔力操作ができるな………」
ふむ………氣、ねぇ。あれかな?ド○ラゴンボールとかで出てくるヤツ。魔力じゃなくて生命力を消費するみたいな…………。
「いいか?氣っていうのはなぁ、魔力ではなく、生命力を消費することで、身体能力を強化する技だ!魔力でも身体強化はできるが、強化率は氣のほうが高い。魔法みたいな細かいことはできないが、闘技というものが使える。ま、実際に見た方が早いか……。よーし、エリオとアッシュ殿下。ちょっと離れていてくれ」
アッシュと兄さんが、剣を構えた父さんから離れる。何かするみたいだ。
「はぁぁぁあああああ!」
父さんが気合いの声をあげると、その体から、黄色に光るオーラが立ち上った。
……………まんま○ラゴン○ール……。髪が金色になったりしない?しないか。
「ふぅ……。どうだ、これが氣だ。で、この状態で剣を振ると……」
そう言って父さんは、手に持っていた大剣を構え、猛スピードで降り下ろした。
ズパンッ
……………え?何あれ。なんか地割れみたいになってるんだけど……。
「………す、すごい!さすが師匠だ!」
「う~ん……。これ、できるかな……」
「二人とも才能は十二分にある。努力を忘れなければ、簡単に出来るようになるぞ。んでもって氣の使い方だが……。様はイメージだ。魔法と同じくな。自分の体から生命力。つまり生きるために必要なものを外に押し出し、それを鎧のように纏う……。ま、そんな感じだ」
「生命力………」
「生きるために必要なもの………かぁ」
アッシュも兄さんも困惑してるみたいだ。そりゃ、いきなり生きるために必要なものなんて言われてもねぇ……………あ。もしかして……。
僕はあることを思い付き、それを実行してみることにした。
「む?どうしたのだ、レイヤにぃ」
「ん~、ちょっと思い付いたことがあるから、試して見ようと思って」
「れ、レイヤにぃの思い付き………?」
僕がそう言うと、ユノがすごい勢いで僕から距離をとった。いや、別に危ないことする訳じゃないよ………?
「おいっ!皆!レイヤにぃの思い付きが始まるぞ!」
「「「「なに?」」」」
ユノが叫んだら、皆が僕から距離をとった。…………泣いて、いい?
うぅ……。もういいや。早くやろっと。
すうっと息を大きく吸い込んで、目を閉じる。そして、あの感覚。前世で、死んだ時の感覚を思い出す。
あのとき、僕の体からは、大量の血が流れていた。
そう。生きるために必要不可欠な、血液が。
今でも背筋が凍るような恐怖を感じる記憶を、その中で感じた、血を流す感覚を、鮮明にイメージする。
すると、自分の体から、魔力とは異なる『ナニカ』が出てくるのがわかった。
垂れ流しにしているそれを、今度は、自分の周りで循環させるようにイメージ。一滴の無駄も許さない。操る感覚は魔力とほぼ同じなので、すぐにイメージ通りに動かすことができた。
閉じていた目を、ゆっくりと開く。
「成功………か」
僕の体は、赤いオーラで覆われていた。それと同時に、常時の数倍の力が沸き上がって来るのを感じる。
これが………氣。
いやぁ、まさかまさか。いっぱつで成功するとは。思い付きって怖い。
とりあえず、氣の使い心地の確認するか………って、あ。皆のこと忘れてた。
恐る恐る、皆の方を見る。が、そこにあったのは、予想外の光景。
なぜか皆が、唖然とした表情を浮かべて、僕の方を見ていた。特に父さん。顎が外れるんじゃないかというくらい口をあんぐりと開けている。
あれ?僕、また何かやらかした………
…?
「お、おいレイヤ。それはもしかして……………氣か?」
「う、うん。そうだけど………。何かダメだった?」
「いや、ダメじゃないんだが……………」
?………どうしたんだ、父さんは?うーん……………、分からん。
「レイヤにぃ、それってさっきアルバート殿がやってたやつか?」
「うん、そうだよ」
「話を聞いただけですぐに成功させるとは…………。さすがだな、レイヤにぃ」
「すごいです!レイヤさま!」
「ありがとう、二人とも。………あ、そうだ。ちょっといい?」
「む?なんだ?」
「なんですか?」
僕は首をかしげている二人に近づくと、片手ずつで、二人を抱えあげた。
「うおっ!な、なんだ?」
「きゃっ!れ、レイヤさま……」
「ちょっと氣の性能がどのくらいか知りたくてね。よーし、いくよ!」
二人を抱えた状態で、おもいっきり走り始める。びゅんっ、と、風を切る音がして、景色がどんどん後ろに行っている。
「おおっ!速い、速いぞ!すごいな、レイヤにぃ!」
「わぁ~。すっごく楽しいです!」
二人にも評判がいいみたいだ。良かった。二人が怖わくないか、走り始めてから心配になったけど。おせぇよ!
「…………ねぇ、アッシュ」
「………なんだ?」
「頑張らなきゃ……ね」
「あぁ………」
…………どうしたんだろう、アッシュと兄さん。何か遠い目をしているけど……。
今日の訓練は結局、サツキとユノを抱えて走っていて終わった。まぁ、氣と言う新しい力が手に入ったんだから、よしとするか。
そして、翌日。
「い、痛い………」
「だ、大丈夫ですか?レイヤさま」
全身筋肉痛で、動けなくなりました☆
……………しっかり運動しよう。うん。
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「なぁ、クレア。どう思う?」
「レイちゃんのこと?」
「あぁ、レイヤはまだ五歳だ。それなのに、強力な魔法を使ったり、氣をちらっと聞いただけで成功させたり…………。天才とか呼ばれてた自分が、恥ずかしくなるくらいの天才っぷりだ」
「ん~、多分だけど……。レイちゃんは、ファイナダート様の加護をすごく受けてるんじゃない?お気に入りなのよきっと」
「神様のお気に入りか。なるほど。それなら納得だな」
「それに……。レイちゃんなら、どんなに強大な力を手に入れても、間違えたりしないわよ。だって、わたしたちの子供よ?」
「……………だな。そーなると、二年後が楽しみだなぁ」
「特因の覚醒の儀まで、あと二年か………」
親二人の夜は、更けていく………。