僕、転生
皆さん。輪廻転生をご存じであろうか?
死んでしまった魂が、輪廻の円環に入り、神の手によって次なる人生を送る生物に生まれ変わると言う現象。
さまざまな宗教で信じられてきたこの概念だが、本当に存在するかどうかは、わかっていない。なぜなら、転生する際に、前世の記憶を無くしてしまうからだ。
ごくまれに、覚えている人もいる。だがそれを証明する手段がどこにもないため、大抵は、冗談か嘘扱いされてしまう。
でも僕は、そんな眉唾ものである輪廻転生を信じている。なぜなら………………。
僕自身が、前世の記憶をもっているからだ。
…………いや、ちょっと待って。嘘じゃないから、頭が狂った訳でもないから!
僕の今世の名は、レイヤ・オルテシア。そして、前世は、五十嵐光也。
太陽系第三惑星地球の島国、日本で生まれ、トラックに引かれて死亡。享年十五歳。
平凡な高校生だったはずの僕に、何でこんなことが起きたのやら………。不思議でしょうがない。
多分、三歳くらいだったかな?前世の記憶を思い出したのは。はじめは混乱したけど、二年も経てば、さすがになれる。なれてしまう。
まぁ、不便なことも多いけどね。家電とか一切ないし。
レイヤ・オルテシアっていう名前かららわかると思うけど、僕が転生したところは、日本ではない。そもそも、地球ですらない。
え?何でそんなことがわかるかって?まず、僕の生まれた国。名前をアーシオン王国と言う。地球上には、存在しない国。
科学技術は発展していないし、文明レベルは中世ヨーロッパ。貴族制度が一般常識。ね?分かりやすく異世界でしょ?
窓から、飛行機ぐらい大きな鳥やあからさまにドラゴンっぽい飛行生物が見える世界が、地球な訳がない。
それに何より、この世界には、ファンタジーの定番中の定番であるアレがある。そう、魔法だ。
え?ついに狂った?ちーがーいーまーすー!本当にあるんですよ、魔法。この目で見たのだからまちがいない。
この世界での魔法は、『魔力を用いて、超上的な現象を起こすもの』だ。この世界のほ万物には魔力が宿っており、その魔力が一定量あると、魔法が使える。魔法には、炎、水、地、風、雷、光、闇の七つの属性を操る属性魔法。高位存在である精霊と契約して使う精霊魔法。今はもう失われた古代文明の魔法である古代魔法。その強大さ故に封じられた禁呪などの様々な種類がある。…………と、今読んでいる本に書かれている。
僕は読み終えた本を、机の上に置き、辺りを見渡す。視界に入るのは、大きな本棚に納められた大量の本。ここは家の中の一番のお気に入りの場所。書庫だ。
何で家に書庫何てものがあるんだろうと思うでしょ?僕もそう思った。まぁ何でかって言ったら、このオルテシア家が、アーシオン王国の三大公爵家のひとつだからだ。
オルテシア家は代々騎士と魔導士の家系で、今の代の当主。つまり僕の父さんも王国近衛騎士団長をやっているし、母さんは王国魔導士隊の隊長だ。
何げにすごい家に生まれてきたみたいだな、僕。
さて、もう一冊読むか、と本棚に向かおうとしたとき、不意に書庫のドアが、コンコンと鳴った。
「レイヤさまー?いますかー?」
ドアの向こうから、舌足らずな声が聞こえた。女の子のものだ。
「ん、いるよ。入っておいでサツキ」
「はい、失礼します」
ガチャッ、とドアが開き、一人の少女が中に入ってくる。
う~ん。いつ見てもサツキは可愛いなぁ。
サツキはオルテシア家に代々支えてきた使用人の家系で、僕と同い年であることから、幼いながら、僕の世話係に就いている。
ま、僕としては、幼馴染みの女の子っていう認識なんだけどね。
「レイヤさま。何を読んでいるのですか?」
サツキが僕に近寄り、頭をコテンとかしげた。美しくて艶やかな黒髪が、サラリと揺れる。
ジッとこちらを見ている瞳は金色に輝き、桜色の柔らかそうな唇は、潤いがある。あと、七年もすれば、すごい美少女になるだろう。
「魔法のことが書かれている本だよ。サツキも読んでみるかい?」
「わ、わたしには難しいですよ……。ってそうだった。レイヤさま、クレアさまがお呼びです」
「母さんが?……………あそっか、あいつらが来たのか。わかった、すぐにいくよ。……………と、その前に」
僕は自分より少し低い位置にあるサツキの頭を優しく撫でる。
「ありがとな、サツキ」
「ん………レイヤさま、気持ちいいです」
目を細めて気持ち良さそうにしているサツキの柔らかな髪の感触を楽しむ。僕の楽しみのひとつである。
あぁ、やっぱり可愛い。可愛い過ぎるよ、サツキ。
僕はサツキを撫でることに夢中になっていき………………。
「れ、レイヤさま。そろそろ行かないと、クレアさまが……」
「あ、そ、そうだった」
やべっ、完全に忘れてたわ。