↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
17/25

凪










 LHRは佳境に入っていた。

 文化祭実行委員の二人。 女子がチョークを握り、男子が教卓に手をついている。

 黒板には催し物にする案がいくつも書かれていた。

 焼きそば。 お化け屋敷。 カフェ。 ダンボールジェットコースター。

 

「はーい! あたしはお化け屋敷に一票!」

「お前が自分で出した案だから却下ぁ!」

「いや待って!みんなもちゃんと聞いてね?」


 高千穂は椅子を引いて立ち上がる。

 興奮を無理やり押し込めて熱弁を始めた。

 絶対楽しいって。 お化け役やりたいし。 青春じゃん——みたいなことを力強い口調で回りくどく言っているだけだった。

 実行委員はおろか、そこら中から総ツッコミをくらっている高千穂。 それでも簡単に引くことはせず、クラスを相手に粘り続けている。

 賑やかだな、と麻戸は思った。

 頬杖ついたまま、口元を少しだけ緩める。 見てる分には悪くない時間。

 

(そういやこの席……)


 ふいっ、と窓の外を見ながらこれまでの気持ちを振り返る。

 この席に座った当初は歓喜に震えたが、いざ定着すると、聖域は幻想であることが分かった。

 開放的だな、くらいしか思わない。 いや、それも今となっては全く考えなくなった。

 麻戸は外から黒板へ、そして顔を横に動かす。 席に対する思いを変えた原因がそこにあった。

 正直、怖いと感じる気持ちはまだある。 しかし、声を聞いた後でも、また聞きたいと思うようになっていた。

 

(これが成長期か……。 身長は止まったくせに)


 喜び反面、恨みが募る。

 

「あーあ。 ざーんねん」


 高千穂は雑に頬杖をつく。 バッチリと目が合った。


「……なんでこっち見てんの?」

「偶然っすよ」

「へえ、……ちなみにさ、麻戸はどれに手あげた?」


 間の取り方。 ほんのわずかに下がった声色。

 高千穂不機嫌検定有段者の資格を持つ麻戸は、コンマ数秒の違和感を感知した。これが安易な質問ではないと理解する。

 ふと、黒板を見た。

 いつの間にか、黒板には催し物ごとの票が集計されていた。 一票差でカフェに決まったらしい。 ちなみにお化け屋敷は二位だ。


「…………えっと」

「うんうん、どれどれ?」

「お、お化け——」

「屋敷じゃないよね? 味方してくれなかったのは知ってる」

「ま、ぁな。 高千穂には悪いけど、俺は——」

「それも違うんだなー。なぜなら麻戸は外ばかり見てたから」


 その場しのぎの反論は、発言する前に封じられる。


「た、高千穂は側頭部に目が付いているのか……?」

「後頭部に目がついてない麻戸には分からなかったみたいだね」

 

 鏡写しのように頬杖をつく二人。 その間に流れる沈黙。高千穂はわざとらしいため息をこぼした。


「あたしは楽しみだったよ。キョンシー役の麻戸と一緒にお客さん驚かせるの」

「ほう、キョンシーか。 高千穂は?」

「貞子」

「和中折衷……!?」

「良い感じの凸凹具合じゃない? ウケるっしょ」

「お化け屋敷でウケるのはどうなんだ……?」


 そもそもキョンシーに扮しても、恐怖心を植え付けることはできないと断言できる。 想像するだけでネタキャラだ。 催し物がお化け屋敷に決定していたら断れなかっただろう。 今さらながらホッとする。


「まぁ、カフェでも良いだろ。 ほら、…………漫画でもありきたりな設定になるくらい定番だし」

「溜めたわりに気休めにもなってない。それどっちかっていうとネガティブ方向にあるかんね」


 もぉー、と高千穂は背もたれに体を預けた。


「決まったもんはしゃーなし。 カラオケ店員の接客術でも見てようかな」

「厨房で簡単な品を量産して持っていくだけの裏方バイトに、接客なんて求めるものじゃない」

「やっぱバ先でも無愛想なん?」

「やっぱって何?」


 やべ……と言いたげな表情を作ると、高千穂は逆を向いた。

 一度、高千穂が見ている麻戸曜真の人柄がどんなものか、本気で問い詰める必要がある。

 

「それじゃあ次のLHRでは内装や提供するもの、クラスTシャツはその次って感じにしようと思います」


 実行委員がまとめに入っていた。 空気の流れに沿ってとりあえず頷く。


「ね、麻戸」


 間を置いたらセーフだと思ったのか、高千穂は軽い口調だった。

 『何です』と根に持つような半目を向ける。

 高千穂は、さっきと変わらず頬杖をついていた。 口元は隠されているし、その横顔からは感情を探れない。

 しかしどこからか想いが伝わって来て、目を離すことができなくなった。


「絶対さ、楽しくなるよね」


 感じていた通りの言葉だった。

 去年には無かった熱が心の奥に現れる。


「そうだな」


 麻戸が一言返すと、タイミングを測ったように終礼のチャイムが鳴った。


「んじゃ、また」

「ああ」


 先生への挨拶を済ませると、高千穂はバッグを肩にかけて一ノ瀬がいる方に歩いて行った。

 麻戸はずるずるとお尻を滑らせて、椅子の背もたれに頭を乗せた。 歪な体勢のまま、スマホのアプリを起動させて漫画を読む。

 広告として出て来たものを開いて、適当に流し見する。

 無駄な時間が過ぎた。

 およそ一〇分。画面を追うだけの作業を続けていると、靴の擦れる音が近づいて来る。

 スマホの画面に影が重なり、麻戸は顔を上げた。


「ちょっと時間いい? 話したいことがあってさ」


 ちゃんと見たのはたったの二回。 それでも記憶には鮮明に残っている。


「……俺で良いのか? 藤木くん」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。