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第1話 なんでこんなところに

「えっウソ」


 スマホを見ていた藤田(あまね)は自分の目を疑った。信じたくなかった。見間違いであってほしかった。しかし、望んだからといってメッセージの内容が変わるわけなかった。


『藤田くんごめん』

『ぎっくり腰になっちゃって今日出れない』


 周のバイト先の店長からのメッセージだった。周は頭がズキッとした。

 周は近所のカフェでバイトをしている。店はあまり大きくないので、大体周と店長二人シフトだ。


(なのに、店長がいないと俺一人か)


 一人で二人分をやらないといけない、と思うと目の前は真っ暗になる周だった。


「よお周」


 絶望に陥って泣き顔をしている周のそばに白石健太郎(けんたろう)が寄ってきた。健太郎は頭を抱える周の右肩に手を置きながら言った。


「朝っぱらなに泣き顔してるんだ」

「健太郎。それが、今日一人でバイトするかもしれない」

「え、なんで。いつも店長と二人でやるんだろ」

「今日ぎっくり腰になっちゃって出れないらしい」


 周は深いため息を吐いた。


「頼むからこれ夢だと言って」

「うん。これ夢だぞ」

「マジで?」

「いや、ウソ」


 健太郎の冷酷な答えに、周は表情は一瞬で暗くなった。憂鬱な気分の中、スマホが振動した。


「なんだろう」


 スマホに通知が一つ来ていた。店長からのメッセージだった。


『でも一人にはさせないわ』

『代わりに娘が出るから』

『安心して』


 店長のメッセージを読んだ周はほっとした。


(よかった。一人じゃないんだ)


 今の周にとって最も励みになるメッセージであった。


「なに。急に笑っちゃった。お前変だぞ」

「店長の娘が代わりに来るみたい。一人でやらなくてもいいんだ」

「そりゃよかったな」


 一人だと思ったのに、幸いに二人シフトになった。店長の娘には会ったことないけど、店長の娘だからきっと仕事もできるのだろう。

 と安心するとき、教室のドアから一人の少女が入ってきた。腰まで下ろした茶色髪はツヤツヤとしているし、雪のように真っ白な肌は肌荒れを知らない。整った鼻筋。長い睫毛と大きな茶色の瞳。誰もが振り向くほど可愛らしい少女だ。


「莉子ちゃん、やっほー」

「やっほ」


 少女が席に座ると、彼女の周りにはあっという間に人だかりができた。


「七瀬さん相変わらずすげぇ人気だな」

「そうだな」


 周と健太郎は遠くで少女を見つめていた。

 少女の名前は七瀬莉子。容姿端麗で勉強もできる完璧な美少女でクラス、いや、学校でアイドルと呼ばれる有名人である。多分、高校で莉子を知らぬ人はいないだろう。


「俺らとは住む世界が違う」


 健太郎の言葉に、周も同意した。

 どこにでもいる普通の高校生の周とは住む世界が違った。同じクラスなのに、莉子とは一度も言葉を交わしたことがない。クラス替えまで莉子と仲良くなる気がしなかった。


(別に仲良くなりたいわけではないんけど」


 クラスのアイドルに興味がないと言ったらそれは嘘だ。そもそもあんな美人に興味ない人なんて一人もないはずだ。ただ、輝きすぎて別次元の人みたいでむやみに近寄らない。こっちから先に声をかけることもできず、ただ遠くで見つめることが精一杯だった。

 学校が終わったあと、周は鞄を肩にかけて席を立った。すぐにバイトに行かないといけないのだ。教室のドアをくぐろうとしたとき、莉子が友達と話す声が聞こえていた。


「莉子ちゃん今日カラオケ行こう」

「ごめん。今日はバイトある」


 七瀬さんもバイトするんだ、と思いながら周は教室を出た。


「へぇ、莉子バイトしてたんだ。全然知らなかったわ」

「なんのバイトなの」

「カフェだよ」

「いいじゃん。今度遊びに行っていい?」

「恥ずかしいから無理」

「えぇいいじゃん。莉子ちゃんがバイトするの見たい」

「ダメ。え、もうこんな時間。私行かないと」


 スマホを見た莉子は鞄を肩にかけて席を立った。


「先に行くよ。またね」


 莉子は友達に手を振って急いで教室を出た。


******


「誰もいないのか」


 バイト先に着いた周は中を見回しながらカフェに入った。今はあまり客が来ない時間だけど、店には人がいなかった。


「娘さんはまだ来てないのか」


 そういえば、いつくるのかは聞かなかった。まあ、そのうち来るだろう。と周は思った。まずはユニフォームに着替えようと思って更衣室へ足を向けようとした瞬間、更衣室の方から人が出てきた。


「あ、いっらしゃいませ。ご注文はレジでお願いしまぁーーあれ?」

「な、七瀬さん?」


 お互いを認識すると、二人の目が大きくなった。


「あなた確かに同じクラスの・・・藤田くんでしょ? どうしてここに」

「それはこっちのセリフだよ。なんで七瀬さんがここにいるんだ。ユニフォームまで着て」


 周は一瞬店を間違えたのかと思った。だが、この見慣れた構造とテーブルの配置。間違いなく周がバイトするカフェだった。それなのに、ここに七瀬莉子がいた。店のユニフォームの白いシャツと茶色のアイプランをつけたまま周の前に立っている。


「私はママの代わりに」

「え、待って。それって店長の娘って七瀬さんってこと?!」

「じゃママが言ってたバイトって藤田くんなの!?」


 周と莉子は指を差し合いながら大声を上げた。

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